エピソード1~彼女は~(脚本)
〇川沿いの原っぱ
キーンコーンカーンコーン・・・
遠くで学校のチャイムが鳴る音が、遥のいる河原まで聞こえてくる。
(・・・もう、授業が始まってる頃かな・・・)
朝、遥はお弁当を持って平気な顔をして家を出た。
けれど今日は交差点を学校とは逆の方向に曲がって、自転車を川に向けて走らせた。
普段とは違う風景が目の前を流れていく。
(はぁ、はぁ、はぁ・・・)
人通りが少なくなってきたあたりで河原におりて自転車を止め、橋げたの下に居場所を見つけるとカバンを抱えながら一息ついた。
(・・・ふぅ・・・)
(・・・・・・・・・)
(・・・あ、空が夏の色になって来たな~)
(・・・あ、あの雲、ソフトクリームに似てる)
(・・・あ、携帯、忘れてきたかも)
(・・・あ、・・・)
じわりと、視界がゆがんだ。
遥「(もう、面倒だなぁ・・・拭う気にもなれないよ・・・)」
遥「(あ、やばい。)」
涙は後から後から湧いてきた。
遥は大きめのハンドタオルで顔から下を覆った。
そうすると、なぜか余計に涙が溢れた。
嗚咽が喉から漏れてしまうと、あとはなし崩しに号泣になった。
遥は周囲をはばかることなく泣いた。
まぁ、はばかるほどの「周囲」もなかったんだけど。
〇ファンシーな部屋
2週間前、みゆが死んだ。
きれいな白い毛並みが自慢だったみゆ
遥が生まれる一年前にうちに来たみゆ。
遥が生まれるとお姉さんぶってあれこれ世話を焼いてくれた(らしい)みゆ。
他に兄弟のいない遥にとって、みゆは本当の姉のようだった。
その、みゆが死んだ。
猫の十八歳は確かに高齢だと思う。
自慢の白い毛はごわごわし、食が細くなり、体重は減り、足腰が弱くなっていた。
寝るときは遥の横にみゆのベッドを並べて眠った。遥はたまに目をあけて、みゆの腹部の上下するのを確認した。
みゆが死んだ。
あの朝、一旦玄関の外に出たものの、空の向こうに分厚い黒い雲がかかっているのを見て、傘を取りに戻った。
みゆは細ってしまった足を引きずりながら、頑張って玄関まで遥を見送りに来た。
遥「みゆ・・・寝てなよ。 ありがとね、いってきます」
遥はゆみの頭をそっとなでてから玄関を出た。
みゆ「にゃあ・・・」
みゆはか細い声で鳴いて、遥に応えた。
・・・それが、遥が生きているみゆを見た最後になった。
〇川沿いの原っぱ
遥「みゆ・・・」
言葉に出してしまうと、さらに涙が溢れてきた。きっと目の底に枯れない涙の泉があるんだと思う。
もう泣き尽くしたと思えるほど泣いたはずなのに、どうしてもとめる事ができない。
どのくらい泣いていただろうか。
遥はふと、自分の前の人影に気付いた。
(せっかく人目につかないところを選んでサボってたのに。
早く向こうに行ってよ。)
遥は心の中で毒づいた。
(わたしの前に立たなくても、このだだっ広い河原なら、ほかに行き場所もあるでしょうに。)
(・・・ん?それとも、わたしが選択した場所がなにかまずかったのかな・・・?)
遥が自分が座った場所について考え込むに至った頃、頭上から男性の声が降ってきた。
謎の男「あの・・・」
(あ、やっぱり、この場所か。誰かの定番の場所だったのね。)
(日も当たらないし人もそうそう来ないところだし居心地いいよね。)
遥「あ、すみません、すぐにどきます」
顔をタオルでさっとぬぐって、そそくさと立ち上がってその場を去ろうとした遥に、男性はもう一度声をかけた。
謎の男「あのっ!」
さっきより強めに投げかけられた言葉に、遥は振り返った。
なんでしょうか・・・と聞く間もなく、遥の前に手が差し出された。
手の上には、小ぶりなキラキラした箱が三つ乗っている。
これはなんでしょうか・・・と口に出したかったが、彼は無言で手のひらを差し出し、さらにグイッと遥の前に手を突き出した。
受け取れと言っているようだった。
遥は恐る恐る箱をのぞき込んだ。
謎の男「手を出して」
遥「?」
遥が意味も解らずに手のひらを上にして差し出すと、彼は箱を三つとも遥の手に落とすようにして乗せた。
どういうことなんでしょうか?と遥が言うよりも早く、彼は口を開いた。
謎の男「預かって」
遥「・・・えっ?!」
預かる?
コレを?
なぜ?
謎の男「・・・じゃ」
混乱している遥を残して達去ろうとした男性は、遥から数メートル離れたあたりで、いきなり横に吹っ飛んだ。
・・・自分の拳によって。
遥が目撃したのは、自分で自分をボコボコに殴っている男性の姿だった。
自分で自分を殴っているのに「ちょ、やめ」「あ、う、」「ごめ、ホント、うわ」などと声を上げている。
遥「(・・・なんだ、ただの変態か。)」
手の中にある三つの小箱はキラキラと光っている。
が、数メートル先で自分で自分を殴りつけている変態から手渡されたものだ。
そう思うと、きれいだとかいう感情以前に嫌悪感が込み上げてきた。
なんの因果か変態から目をつけられ、変態に押し付けられたこの出所も何なのかもわからない三つの小箱。
遥「(・・・捨てよう。 さっさと捨てよう。 一刻も早く捨てよう、そうしよう。)」
遥が手の中の小箱を川に向かって放り投げようと振りかぶったとき
謎の男「お願い、ちょっとまって!!」
と、再び男の声が声が飛んできた。
が、時すでに遅し。
三つの小箱はキラキラと光って放物線を描きながら川面へと落ちていった。
ぽちゃんという水音は律儀にちゃんと三つ分聞こえた。
謎の男「あああ・・・」
変態はくず折れながらため息交じりの声を漏らした。
その姿を見て、流石に捨ててしまったのは悪かったかとチラリと思わないでもなかった。
・・・が。
相手は変態なのであって、一方自分は女子高生なのであって、しかも今は平日の真昼間なのであり、
つまり・・・
いろんな意味で「関わらないほうが無難」と判断した遥を責められる人間などいないに違いない。
いや、女子高生は女子高生であるだけで正義なのだから、自分は一切悪くないのだという極論に達し、
遥は0.3秒で頭を切り替え、かばんを手にしてその場から立ち去ることに決めて、くず折れている変態を無視して歩き出した。
謎の男「待って!」
謎の男「待ってください、遥さん!」
はっきりと自分の名前を呼ばれ、遥はギョッとして振り向いた。
心情描写が細やかで、作中に引き込まれるようでした。特に、みゆとの思い出にはグッときたのですが、変態(?)の出現でその感情がすっ飛んでしまいましたw 次話が楽しみになります。
遥ちゃんと謎の男性は、果たしてどんな関係?
そう考えてたら、終わってしまい次回へ。
このもやもやのまま、楽しみにまってます。
なぜ変態?が彼女の名前をしっていたのか、なぜ自分で自分をなぐっていたのか、不思議な箱はなんだったのか、気になる要素が多すぎます。続き楽しみにしています。