第2話 ブーケの謎(脚本)
〇劇場の舞台
岸井浩太「犯人は僕が追います! 花音さんは百合さんをよろしくお願いします!」
市ノ瀬花音「はいっ・・・!」
騒然とする劇場の中で、私は苦しそうな百合さんを抱えて救急車が来るのを待つことしか出来なかった。
市ノ瀬花音(お願い・・・早く来て!)
〇黒
願いも虚しく救急隊員が駆けつけた時にはもう、百合さんはすっかり動かなくなってしまっていた。
〇劇場の舞台
まさか目の前で人が亡くなってしまうなんて、ショックで動けなかった。
市ノ瀬花音(さっきまで、あんな圧倒的なオーラで演技していたのに・・・)
犯人を追いかけていた岸井さんが劇場に戻ってきた。
岸井浩太「すみません。 人波で見失ってしまって・・・」
それから警察の事情聴取を受けたけれど、上手く説明できなくて疲れきってしまった。
市ノ瀬花音(ブーケで未来が見えたなんて全然信じてもらえなかったし、犯人の顔もよく見えなかったし・・・)
〇お花屋さん
無力感だけが残って、私は三日間も寝込んで仕事を休んでしまった。
久しぶりに店に立つと、百合さんに渡すブーケを作った時に浮かんだ映像が頭にフラッシュバックしてきた。
市ノ瀬花音(仕事に集中しなきゃいけないのはわかっているけどツライよ・・・)
なんとか気持ちを奮い立たせて花の手入れをしていると、恵麻と岸井さんが店へやってきた。
中村恵麻「ちょっと話があるんだけどいいかな?」
市ノ瀬花音「うん・・・」
岸井浩太「花音さん。探偵の仕事、手伝ってもらえませんか?」
市ノ瀬花音「た、探偵!? それは、ちょっと・・・。 私、あの時のことを思い出すだけで胸が苦しくて・・・」
中村恵麻「花音。わたしからもお願い!」
市ノ瀬花音「恵麻だって知ってるでしょ? 私、人と話したり接客するだけでも心臓がバクバクするんだよ?」
市ノ瀬花音「そんな私に探偵さんの手伝いとかか出来る訳ないよ」
中村恵麻「無理は承知だよ。それでも百合さんを殺した犯人を捕まえるために花音に協力してほしい・・・」
岸井浩太「警察も犯人を追っていますが、男の消息は分かっていないようです」
岸井浩太「僕も、この三日間、男の足取りを追いましたが手がかりがほとんどなくて・・・」
中村恵麻「うちの劇場は古くて防犯カメラもついてないって言うし、このまま解決できなかったら百合さんが可哀相すぎるよ」
中村恵麻「お願い! 花音」
岸井浩太「人と話すのが緊張するなら、僕以外の人と喋らなくてもいいですから。お願いします」
市ノ瀬花音(岸井さんと話すのだって緊張するけど・・・でも、このままじゃ・・・)
市ノ瀬花音「・・・わかりました。 私も事件を防げなくて苦しくて・・・」
岸井浩太「僕たちの手で絶対に解決しましょう」
市ノ瀬花音「はい。よろしくお願いします」
〇二階建てアパート
次の休みに、岸井さんとあのブーケの贈り主を調査しに行くことになった。
アパートを見つめながら岸井さんがメモを読み上げる。
岸井浩太「劇団のアンケート名簿によるとブーケの送り主は宮下香澄(みやしたかすみ)さん」
岸井浩太「二十九歳の女性で、このアパートの202号室に住んでいます」
岸井浩太「それと劇団から写真を預かってきました。写真の右はじに映っているのが宮下香澄さんだそうです」
市ノ瀬花音「この人が、あのブーケの贈り主なんですね・・・」
市ノ瀬花音「あの・・・宮下香澄さんは、どうして恵麻に頼んだブーケを犯人の男性に渡してもらったんでしょうか?」
岸井浩太「そこが謎なんです。あの劇団ではカーテンコールで出演者に花束を渡すことも出来ますが、ロビーに花束預かり所もあるんです」
岸井浩太「預かった花は終演までロビーに飾ることになっているそうで、花音さんが作った花束もそこにあったはずなんですが・・・」
市ノ瀬花音「それって飾られていた花を勝手に犯人が持って行って百合さんに渡したってことですか?」
岸井浩太「・・・分かりません。ただ、預かり所には人がいない時間もあったようです」
岸井浩太「ひとまず注文主の住所は実在のようですから、張り込みをしてみましょう」
〇広い公園
岸井さんに言われるままにアパートの前にある公園で張り込みをすることになった。
市ノ瀬花音「あの、岸井さんは、どうして探偵になったんですか?」
岸井浩太「僕、高校生の時にアルバイトしてた店で、ちょっとした事件に巻き込まれたことがあって」
岸井浩太「その時、解決してくれた探偵に感動したんです」
岸井浩太「もともと探偵の出てくる小説とか漫画のファンっていうのもあるんですけど」
市ノ瀬花音「私も『探偵ナナン』は大好きでした。怖い話は嫌いなんですけど、あれはナナンが優しくて・・・」
市ノ瀬花音「花屋に憧れたのも『フローリスト』って漫画があって・・・」
岸井浩太「今度、読んでみます。あー、でも僕、花屋さんって行ったことないから話についていけるかな・・・」
張り込みなんて聞いて肩に力が入っていたけれど、岸井さんと話しているうちに少し緊張がほどけてきた。
しばらくすると、アパートから女の人が出てきた。
市ノ瀬花音「あ、アパートから誰か出てきました!」
岸井浩太「あの写真の女に間違いないですね。 追いかけましょう、花音さん!」
女の人はアパートの前で周りをよく確認するように見渡してから、ゆっくりと歩き出した。
とにかく見失わないように一生懸命追いかけていると、不意に香織さんが立ち止まった。
市ノ瀬花音「・・・・・・」
一瞬、見られたらいけないと思って立ち止まる。すると、香織さんは何事もなかったように、また歩き出した。
岸井浩太「ずいぶん周りを気にしていますね。これはかなり怪しいかもしれません。もう少し距離を取って尾行しましょう」
気をつけながら香澄さんのあとをついていくと、通りの奥まったところにある美容院に辿り着いた。
〇美容院
裏口から入った香澄さんは、しばらくして店のほうへ姿を表した。
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