死後の道のり(脚本)
〇らせん階段
〇らせん階段
初老の男が、白き闇がたちこめるらせん階段をひとりきりで降りている。
階段を踏みしめているという感覚はない。
霧と煙が融合しているような闇のために、周囲のようすをみきわめることができないのだ。
その階段は、白くなめらかで、どこか妖しい輝きに満ちている。
幅は大人が三人がならんで歩けるほどだろう。
〇近未来施設の廊下
〇近未来施設の廊下
やがて廊下にたどり着いた。
廊下の両側は、透けてみえないガラス窓と、無機質な壁が冷え冷えとした圧迫感をあたえている。
永遠に歩き続けても果てなどないかのように男のみる光景はかわらない。
男はおなじ場所をくりかえし歩いているのかもしれないとふと思う。しかしそれがどうだというのだろう。
男が生きてきた道とさほど変わらない。明日も一瞬の「今」さえも確かなものに感じられなかった。
確かなのは、日々変化していく自分の老いてゆく姿だけ。社会や世界さえも遥か昔からの衣替えにしかすぎない。
だから、男にはあせりがない。疲れを感じることもない。
しかも男が歩んだ人生のように、落とし穴や罠がしかけられているわけでもない。
だから男に苛立ちはない。傷ついて気分が落ちこむこともない。
〇岩穴の出口
今、男の前に突然、岩穴のような出口があらわれた。
男はその出口に恐怖に似た思いを抱く。
しかし、その出口に向かうことが、無意味にも似た旅を終わらせることであるとも感じていた。
その出口に一歩、足を進めたとき、男は自分の名を呼ぶ声を聞いた。
その声はらせん階段のあたりから聞こえてくるようだ。そして男は思わずうしろをふりかえった。
〇病室(椅子無し)
〇病室(椅子無し)
医師「ご臨終です。午後四時三十五分でした」
医師は、自分の時計をみたあと、男の家族である看病疲れで老けた妻と、二十二歳になる息子に静かに引導を渡していた。
男は、痩せこけた自分の顔と、泣き崩れる家族の姿をぼんやりとみつめていた。
目を閉じたままの自分の姿をみて、まるで蝉の抜け殻のようだと思った瞬間、男は自分の肉体に戻り目を開けた。
〇黒背景
〇黒背景
病室が驚愕と泣き声に包まれ、男は耳をふさいだ。
〇白
FIN
死に至る道程、もちろん経験は無いのですが何だか理解できて納得できてしまいそうです。自分の場合は、どのような思いで歩むことになるのか、想像して人生を省みることにも繋がりますね。
自分自身、生とはなんなのかをよく問いかけます。不自由なく忙しく暮らしているにも関わらず、消えてしまいたいと思うことが時としてあります。決して死を望んでいるのではなく、お話で描かれていたような光の向こうに行ってみたいという感覚です。それはそれは魅力的です。彼に共感を覚える気持ちもありつつも、その後の家族の様子をみて、最後まで大切な人たちと共に生きていこうと再確認させられる深い作品でした。
死に逝く間際、こうして一瞬自身のスピリトが浮遊してその最期に向かっているんでしょうね。とても共感できました。ひとそれぞれの道程の長さや険しさは違うと思いますが、成仏というゴールにたどり着きたいものですね。