幻想とリアルのループ(脚本)
〇一人部屋
〇一人部屋
朝に目をさましたら、どこかの小説ではないが私は女になっていた。なぜかパジャマも女性ものだ。
トイレに立ったときにあるべきものがなかったのだ。
最初は目を疑った。
つぎには裸になって自分の体を鏡でみた。首すじとウェストが細くなり、胸は期待どおりに形のいいおわん型。
なかなかいい体だな、などと興奮しているときじゃない。とりあえず彼女に電話していた。
〇女性の部屋
私「私・・・男になっちゃった!」
〇一人部屋
彼女は泣き叫んでいた。心なしか声も男の声のようだ。
もちろん私の声も女みたいだったが・・・。
私は彼女? をなぐさめると、電話を切り、しばしソファにすわって考えた。
どうやら世界的な異常現象らしい。
記憶の中は男で生きた記憶しかない。しかし、下着や服も女ものばかりだ。
彼女? の話でもどうやら私だけの妄想ではないのだろう。いったいどうしたというのだ。どうすればいいのだ?
一人暮らしだったのが不幸中の幸いだった。もしも母や父、そして姉が突然の性転換をしていたのなら・・・
・・・ああ、想像したくない。
テレビやラジオも放送していない。世界的なパニックがひきおこされているのだろう。
確かに女になってみたいと思ったこともあるが、女装の趣味などなかった。たんなる好奇心というものだったはずだった。
悶々とする気持ちを断ち切り、外のようすをみるために着替えた。
おぞましき外界との境界は、ただ薄い一枚のドアで仕切られていた。おそるおそるドアに手をふれ・・・やけくそな勇気で開け放つ。
〇玄関内
〇黒
目が覚めた
〇研究所の中枢
〇研究所の中枢
〇研究所の中枢
青年「お楽しみいただけましたか? ヴァーチャル・リアリティの世界は?」
おしゃれな紺のスーツを着た青年が、カプセルの上扉を開けて私に話しかけていた。
そうだった。すべての記憶がよみがえる。
私はリアルな幻想の世界を体験できるヴァーチャル・リアリティーゲ―ムをしていただけだったのだ。
ゲームにはAコースからCコースまであり、私はゲームに参加する瞬間の記憶を消して楽しむAコ―スを申し込んだ。
そのほうがよりリアリティがあると思えたからだ。
彼女などの記憶をインプットしたヴァーチャル・リアリティ機器の世界は完璧だった。
触覚も幻想とは思えないものだった。匂いすらあったように思う。
私は起き上がってカプセルからでた。
〇黒
目がさめた。
〇劇場の舞台
〇劇場の舞台
魔術師「どうでした? 私の魔術で幻想をみせていたのですよ」
怪しげな黒い服装した男が、眠りからめざめた私に話しかけていた。
私「本当かい? なんだかリアルな夢みたいだったが・・・」
魔術師「信じられないならあなたをネズミに変えてしまおう!」
私はネズミになり、あまりのショックに。
〇黒
目が覚めた。
〇地下室
〇地下室
やくざ「ヤクでハイになってたみたいだな」
いかつい顔のやたら体のでかい男が、薄暗い地下室のようなところで私に話しかけていた。
やくざ「こいつは最高級なブツなんだ。二桁はもらわんとなぁ」
男は、じりじりと私につめよってきた。私はあまりの恐怖に。
〇黒
目が覚めた。
〇黒
そして私は願った。今度はただの夢であったと笑いとばせますようにと。
〇不気味
fin
夢から覚めた夢を見たことを思い出しました。
これは全部夢で、本当の彼はわからないままでしたね。
もしかするとまだ、夢を見続けているのかもしれません。
冒頭からラストまでずっとドキドキする急展開ですね。こんな状態は、前近代は夢と心霊現象、現代ではそれとお薬とVR。この主人公は、、と考える余地のあるラストにも楽しませてもらいました。
夢と認識できていれば、その夢の世界を心に余裕をもって楽しめそうな気もします。とはいいつつ最初に出てきたユーモアある感じなら面白がれそうですが、最後みたいなこわい夢だったら夢とわかっていてもそんな余裕はないかもしれません。でも想像していちばん怖かったのは、永遠に夢の世界から出られないことですね。