魔法解体新書

朝方の桐

NO.1『可愛い子には旅をさせよ』(脚本)

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〇暖炉のある小屋
アイン「英国に行くぞ!」
エトン「はいはい・・・はい!?」
  ある日の夕暮れ時、いつものように鼻歌を交えながら夜ご飯を作っていた師匠のアインは
  いきなりリビングの方に顔を出したかと思えばシチューが滴るお玉片手にそう叫んだ。
  ソファーで本を開けていた私は、いつもの発作だろうとスルーしようとしていたが
  その中身があまりにもあれだった為に、本から顔をバッと上げ師匠の方を見る。
アイン「我ながら名案名案」
エトン「ちょっ、おい、待てやアインンンン!」
  うんうんと頷きながら、師匠はキッチンの方に戻っていってしまった。

〇綺麗なキッチン
  後をおいかけ、キッチンに顔を出し詰め寄めようとするとぐいっと皿を差し出され
アイン「もうすぐ出来るから、皿の用意とか頼むぞエトン」
  そう言って、木の皿を手にポイポイと置かれてしまった
エトン「くそぉ・・・この享楽主義ニート魔法使いが・・・」
  ぐぬぬと言いたいことを飲み込み、皿やスプーンを片手に来た道を戻る。

〇暖炉のある小屋
エトン「で!さっきのはどういうことですか!?」
アイン「そのままの意味だが、後シチューをこぼしてるじゃないか行儀良く食べなさい」
エトン「はぐらかさないでください!」
  机に勢い良く手を付けばバーーンという音とともに、シチューの入った容器が軽く宙に浮く。
  師匠が指を軽く振ると
  宙に浮いた拍子に飛び散ったシチューの粒はプカプカと容器の中に戻っていき、コトリと静かに容器もまた机へと戻った。
  科学が進歩した世界でも、神秘は・・・魔法は息を潜めて細々と続いている。
  師(アイン)曰く
  元々自然に勝てなかった人類の生存の手段が魔法だそうで、自然を科学で支配したと傲る今の人類には必要の無いものであり
  今残る魔法も1度生まれた思想は未来永劫消え去らないものと似たような状態なので、細々とした今の状況の方が良いのだと
エトン「今まで、私が何度イギリスに行きたいと言っても駄目だの1点張りだったじゃないですか!!なんで急に・・・」
アイン「・・・」
  そうだ、この人は私を魔法使いの弟子にしておきながら、イギリスには・・・
  いや、正確には西洋魔法界には一切関わらせてくれなかったのだ。
  それこそ、何度お願いしてもだ。
アイン「私も、いつまでも君と居られる訳じゃない」
エトン「え?」
アイン「「いや、居るつもりではある」
アイン「というより、君を看取るつもりだってある、あるんだ・・・それでも・・・君を置いて逝く事可能性を見て見ぬ振りをしていたんだ」
エトン「さらっと、私より長生きするつもり発言やめてください」
  私を拾ったあの日から、シワひとつ増えてないこの義父はいつもの様な不敵な笑みで笑う。
アイン「良い機会だ、自分の目で見ておいでエトン」
アイン「そうして自分の進む道を決める材料にしなさい」

〇時計
  私達は過去を生きてきた存在にしか過ぎない、他でもない魔法界の未来は君のような若者が紡いでいくのだから

〇ラブホテルの部屋
エトン「眠れない」
  パチっと目を開ける。
  興奮からなのか、不安からなのか・・・それすら分からないが、兎にも角にも眠れない。
  遠足を前にした子供のような気持ちと、見知らぬ地に1人送られるという気持ちがぐるぐるとせめぎ合う。
  一応、金も送る、昔師匠が住んでいた家も向こうにはある・・・と衣食住については心配はいらないらしいし
  何かあれば連絡すれば数十分で駆けつけれるようにはしておくとは言われたが
  生まれて・・・記憶の中で師匠といなかった日は存在しない。
  あれ程にまで切望したイギリスだが、いざそれを目の前にすると溢れ出すのは不安だけだった。
エトン「ホットミルクでも飲もう・・・」

〇暗い廊下
  いそいそとベッドから立ち上がり、スリッパを装着し、ペタペタという音と共にキッチンへと向かう。
エトン「アイン?」
  キッチンに向かえば、扉の隙間から光が漏れており、この家には自分と師匠しか居ないため
  いつも1度寝たら朝まで起きない師匠が珍しいと扉を押す。

〇暖炉のある小屋
エトン「アインも酒飲む生物だったのか」
  机に突っ伏しているアインの周りには、空になった酒瓶と英語で書かれた新聞
  そして
エトン「写真?」
  写真・・・のようなものが1つ。
  てか、本当に写真かこれ?
  記憶の中の写真とは違うような?
  その中には、今と何ら変わってない師匠とその師匠と似たような服を身に纏い、肩を組んで笑っている青年が1人。
エトン「誰だ?」
  18年間師匠の元に訪れた人の中にこのような人は居なかった。
  師匠は、自分を語らないので誰なのかも全くもって検討がつかない。
エトン「ぐぬぬっ!新・・・聞・・・!」
  師匠の下敷きになっている新聞を引っ張り出す。
  師匠がう、うーんと呻っているが知っちゃこっちゃない。
  英国の魔法界の新聞だった。
エトン「えーと、なになに?」
  翻訳魔法を掛けて、読めるようになった新聞を読んでみる。
エトン「魔法界の宝チューン永眠。 英国魔法界に悲しみと激震が走る・・・?」
  相当な面積を取ったその内容は、テューンと呼ばれる魔法使いが死亡したという内容だった。
エトン「うん、ホットミルク飲んで寝よう」
  アインが話さないと言うことは、話したくないと言う事だ。
  それを暴くのは、バレた後が怖いのでやめておこう。
  コップにミルクを注ぎ、魔法で温め飲み干すと軽く洗い元の位置に戻してから、電気を消して部屋を出る。

〇黒
  おやすみアイン。
  どうか、いい夢を

次のエピソード:NO.2『愛している』

コメント

  • どのような経緯で二人が養子関係になったのか、アインは何者なのか、まだ沢山の疑問を持ちながらも、彼女がイギリスに出発することに悲壮感を漂わせているあたり強い愛情を感じました。

  • 魔法使いの人は歳をとるのが遅いのでしょうか?かなり年齢が高そうな喋り方をしていますが、風貌はとても若いです。英国に行ったら何があるのかな?

  • 師匠が年を取らない理由が、そこにはあるんでしょうか。
    なんかいろいろと想像してしまいました。
    年より大人びた彼女がいずれ理由を見つけるのかな?と思いました。

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