第2話 就活戦線、最悪です。(脚本)
〇開けた交差点
市役所職員(女性) 渡辺カルラ「はあ・・・またお祈りメールか」
大学四年生の秋深く。夜道を俯いて歩く。
さすがに内定のひとつも出ていないのは、やばい。
そして、母親からの失望の視線が心にくる。
市役所職員(女性) 渡辺カルラ「またなんか言われるんだろうな。自業自得とか甘えだとか」
同じ学科の同期は全員内定を獲得し、内定式などに出向いている。
社会も、就活戦線なんて終わった雰囲気だ。
社会から置いていかれたような気持ちは、カルラの心を、硬い、硬い石にした。
道の向こう側から、見覚えのある顔がやってくる。
市役所職員(女性) 渡辺カルラ(うわあ、あのオタクの子だ)
樋口先生の講義に出ずにアイドルのライブに行っていた人。
その方が学生らしいといえば学生らしいが、カルラにとってはいけすかない相手だった。
相手がこちらに気づいた。
女子学生1「カルラさん、こんばんは」
市役所職員(女性) 渡辺カルラ「え?なんで私の名前知ってるの?」
女子学生1「そりゃあもう、有名ですもの」
なにやら意味深なセリフである。
市役所職員(女性) 渡辺カルラ「何が・・・?」
女子学生1「カルラさん、樋口教授のこと、好きなんでしょ?」
市役所職員(女性) 渡辺カルラ「は??そんなんじゃないです」
市役所職員(女性) 渡辺カルラ「なにかに興味をもって研究室に行って──」
市役所職員(女性) 渡辺カルラ「先生に色んなこと聞くのが色恋沙汰になるの?」
市役所職員(女性) 渡辺カルラ「知ってたら大学なんて来なかった!」
カルラは思わずイラついてしまう。それを見て、相手は優しく笑った。
女子学生1「やっと感情を出してくれた」
女子学生1「この頃ずっと、こころを押し殺してるように見えたから、心配だったの」
女子学生1「私、水原麻理と言います。よかったら、仲良くしてね」
〇大衆居酒屋
市役所職員(女性) 渡辺カルラ「うわぁぁぁぁぁぁぁん!!」
市役所職員(女性) 渡辺カルラ「私の人生、うまくいかないことばっかり!!」
ビールを飲み、グタり、ビールを飲み、泣き、ビールを飲む。
ここだけの話、もう五杯目である。
水原麻理「カルラさん、飲むのはここらへんにした方がいいんじゃ・・・?」
市役所職員(女性) 渡辺カルラ「うるしゃ〜〜い!!カルラさんは頑張ってるんでしゅ!!!」
水原麻理「それはわかるけど・・・」
市役所職員(女性) 渡辺カルラ「あーたに、なにがわかりゅでしゅか!?」
泥酔状態である。
水原麻理「店員さん、この子のビールをこっそりウーロン茶に替えてくれませんか」
店員も心得たもので、大きく割った氷を入れて『それっぽく』したウーロン茶をカルラの近くに置く。
そして、麻理が、カルラの手がビールから離れた隙を狙って入れ替えた。
市役所職員(女性) 渡辺カルラ「はぅ・・・??このビール、味が薄いょ?」
水原麻理(バレてない・・・のかな?)
水原麻理(寝た・・・)
カルラが寝てしまい手持ち無沙汰になった麻理は、頼まれもしないのに自分語りを始めた。
水原麻理「あのね、意外かもしれないんだけど、私、アイドルなんて嫌いだったの」
水原麻理「小さい頃から私、なにをやっても要領が悪くて、唯一評価されるのが勉強だったのね」
水原麻理「遊びとかどうでもよくて、机とランプが友達だった。遊んでる同級生を敵視してた──」
水原麻理「今のカルラさんみたいに」
麻理は目を閉じた。
水原麻理「それが、いけなかったのね・・・。私、受験期に、校舎の三階から飛び降りたの」
水原麻理「あの頃は、ボロボロだった。余裕がなくて、苦しかった。そんな自分に、自分が気づいてあげられなかった」
水原麻理「そんなときに、今の推しが光になった。夜明けがきたみたいだった」
水原麻理「音楽番組に出てたのを見て、一目惚れした」
水原麻理「ロックな楽曲でバチバチ踊ってるのに、カメラが近づいたときにウインクをされたの。一撃だった」
市役所職員(女性) 渡辺カルラ「・・・」
水原麻理「今遊んだって何にもならない?そんなことない」
水原麻理「カルラさんは、遊びも遊び方も知ってるはず。宇宙が、貴女の『推し』なんでしょう?」
水原麻理「きっとうまくいく」
水原麻理「私なんて、ベンチャー企業の女社長が私と同じ推しで、気が合って内定もらったんだから(笑)」
〇大衆居酒屋
To Be Continued ・・・