第3話 慌ただしく、社会人です!(脚本)
〇散らかった研究室
3月21日。
学生たちが着飾って、キャンパスに集う。
入学式のあの日、スーツで親と映った校門に、学友と並ぶ
そんな中、渡辺カルラは研究室にいた。
宇宙論1 教授 樋口「渡辺さん、内定獲得おめでとう」
市役所職員(女性) 渡辺カルラ「ありがとうございます」
市役所職員(女性) 渡辺カルラ「って、やっぱり、卒業おめでとうよりそれが先ですか?」
宇宙論1 教授 樋口「プレッシャーになっちゃダメだと思って言わなかったけど」
宇宙論1 教授 樋口「それなりに心配していましたからね」
宇宙論1 教授 樋口「それで、今から早速新幹線?」
市役所職員(女性) 渡辺カルラ「はい。慌ただしくてすみません。卒業式も出られないんです」
内定がギリギリまで出なかったため、引っ越しの準備などが後回しとなり・・・
新幹線というのは嘘で、高速バスで10時間の強行軍である。
これ以上樋口教授に心配をかけまいと、修正できずにいるが・・・
宇宙論1 教授 樋口「ふふ。無理はなさらないでくださいね」
市役所職員(女性) 渡辺カルラ(バレてる、のかな・・・)
樋口がデスクから1枚の紙を手に持つ
宇宙論1 教授 樋口「卒業、おめでとう。あなたの未来に幸あれ」
カルラは涙ぐんだ。
〇観光バスの中
高速バス車内。
市役所職員(女性) 渡辺カルラ「う・・・うぅ」
水原麻理「ぐず・・・ぐず・・・」
たまたま同じ高速バスに乗ることになった2人だが、早くも泣いている。
市役所職員(女性) 渡辺カルラ「麻理ちゃんは、途中で降りるんだよね?」
水原麻理「うん・・・」
市役所職員(女性) 渡辺カルラ「卒業式、行かなかったの?」
水原麻理「ズス・・・、あんまりああいうのは苦手なの」
市役所職員(女性) 渡辺カルラ「そう・・・」
2人とも、黙り込んでしまう。
4年生になってから親しくなった2人だが、その絆は深く、別れには痛みを伴う
運転手「それでは出発いたします。皆さま、シートベルトをおつけください」
バスはくぐもったエンジン音と共に動き出した。
〇開けた高速道路
パーキングエリアでの休憩を何度か挟み、深夜となった。
まぶたが重くなってきたカルラに、鞄の中からバイブレーションの音が聞こえる
市役所職員(女性) 渡辺カルラ(お母さん・・・、何のつもり?)
市役所職員(女性) 渡辺カルラ(この時間帯は電話しないでって言ったよね?)
学業に励むときも、就職活動時も、母親の無神経さに振り回されて来た。
市役所職員(女性) 渡辺カルラ(着信拒否にされたいのかな──ん?)
着信の正体は電話ではなく、テキストメッセージだった。
曰く──
『カルラへ 就職おめでとう』
『うるさいお母さんでごめんね。もうカルラの決めたことに指図しないから』
『幸せになりなさい、母より』
市役所職員(女性) 渡辺カルラ「・・・・・・は?」
色々な感情がごちゃ混ぜになって、涙がこぼれてくる。
市役所職員(女性) 渡辺カルラ「なによ、それ・・・・・・・・・」
カルラは声を殺して泣いた。
〇開けた高速道路
To Be Continued ・・・