1.やってきた新人は怪異でした。(脚本)
〇和風
陰陽師──それは陰陽道に基づき、占い、怪異討伐を行う者達ことである。
かつては陰陽寮と呼ばれる国の機関に所属する者もいたが、明治時代に廃止され、以降陰陽師も国政から姿を消した。
──しかし、実際は。
〇池のほとり
河童「死ネ、人間──!」
玲奈「酒巻くん、行ったよ!」
酒巻「了解!羅刹剣、抜刀!」
酒巻「源流奥義──《風の剣・陣風》!」
河童「グッ!」
玲奈「後は任せて!」
玲奈「《妖魔調伏》!」
河童「ギャアアアア!!」
河童「オノレ、許サン・・・」
〇池のほとり
玲奈「よし、任務完了!」
〇オフィスのフロア
陰陽寮廃止後も、怪異による被害は止まらなかった。
頭を悩ませた政府は、秘密裏に新たな怪異討伐の組織を作る。
それがAPAS──怪異対策機関だ。
そのAPAS東京本部内の部署のうち、実際に怪異と戦う討伐部に私達は所属している。
玲奈「ただ今戻りました──って、誰もいないのね」
酒巻「みたいだね。まあそもそもうちは人がいないけど」
怪異の多くは常人には見えない。故に討伐を行う人間に必要なのは陰陽師が持つ見鬼の力。
だが、昨今の陰陽師減少の影響で業界は常に人手不足だ。APASに入る人もほとんどいない。
だから今は討伐任務の多くを、私と同期の酒巻くんの2人で回しているんだけど──
玲奈「いい加減、新しい人来ないかしら。怪異の数も減ってるとはいえ、さすがにキツいわよ」
酒巻「うん。補佐課の人も手伝ってくれるけど、陰陽師とは違うしね」
須佐川「おっし!やっと許可とれたぞ! これで人間の未来は安泰だー!」
入ってきたのは討伐部の部長で私達の上司、須佐川命さんだ。
大学生のような見た目をしているが、実年齢は40を越えているらしい。
酒巻「お疲れ様です、須佐川さん」
須佐川「ああ、お前達帰ってたのか」
須佐川「ってなんだ?2人そろって暗い顔して」
玲奈「人員不足を嘆いてました」
酒巻「誰か入ってくれないかなって」
須佐川「ふっ、そんなお前達に朗報だ」
須佐川「なんとこの万年人員不足のブラック部署に──」
新メンバーが加わります!
〇オフィスのフロア
須佐川「ほれ、自己紹介」
八田島「どーも、八田島時雨らしいよ」
八田島「好きな物はお酒と卵、嫌いな物は須佐川でーす」
茨木「初めまして。茨木葵・・・です。 よろしく──」
ゴトッ
「ひっ!?」
茨木「ああ、すみません。この腕、外れやすくて」
茨木「そろそろ調整しないと・・・」
酒巻「うーん。2人とも、キャラ濃いなあ。 それに、この気配・・・」
玲奈「ええ。間違い無いわ」
玲奈「須佐川さん、ひとつ質問いいですか」
須佐川「なんだ?」
玲奈「あの2人、怪異ですよね?」
玲奈「実体化して、人の姿になってますが」
須佐川「さすが陰陽師!そうだぜ」
酒巻「そうだぜ、じゃないでしょう・・・ 何考えてるんですか、須佐川さん」
玲奈「怪異は討伐対象ですよ。一緒に働くなんてあり得ません!」
玲奈「大体、どこから連れてきたんです!?」
須佐川「地下の収容施設から」
酒巻「あそこにいるのって、調伏できないくらいヤバい怪異だったような・・・」
須佐川「大丈夫だって。こいつらはさほど危険じゃないから。上もそう判断してる」
須佐川「だからプロジェクトTのために連れてこれた訳だし」
玲奈「プロジェクトT?」
酒巻「なんですかそれ」
須佐川「プロジェクトTは俺が考案した人員不足解消対策でな。陰陽師と怪異がバディになって任務に当たるというものだ」
須佐川「怪異の力を借りれば、より効率的に任務を行える。ついでにうちのやり方を教えれば、次世代教育にもなるって訳だ」
須佐川「どうだ、素晴らしい案だろう!」
玲奈「いや普通に人間スカウトしてきてくださいよ」
酒巻「しかも怪異に教育なんて。話、通じるのかな・・・」
須佐川「そこは心配いらないぜ。こう見えて物わかりのいいやつらだから」
須佐川「なっ?」
茨木「・・・」
八田島「うざい」
「不安だ・・・」
須佐川「狐守は八田島と、酒巻は茨木と組んでもらう。2人の資料は後でデスクに置いとくから」
須佐川「とりあえず、交流もかねて外回りにでも行ってこい」
「・・・わかりました」
〇渋谷のスクランブル交差点
八田島「ふふ、ひっさびさの外! 明るい場所に出るのは数百年ぶりだよ!」
玲奈「はぁ・・・」
玲奈(まさか怪異と一緒に仕事をする日がくるなんて)
玲奈(でも、こうなったからにはやるしかないわね)
玲奈「じゃあ八田島さん──」
八田島「んー、あっちにはなにがあるのかな?」
玲奈「えっ、待って!?」
〇渋谷のスクランブル交差点
八田島「なんだろ、このキラキラしたやつ? 宝石じゃなさそうだけど」
八田島「こっちのは服かな? 変な形ー」
玲奈(もう、好き放題動き回って!)
玲奈(これじゃあパトロールにならないわ!)
玲奈「ねえちょっと──」
八田島「ん、向こうから良い匂いが・・・」
玲奈「こら、話を聞いて!!」
〇ケーキ屋
八田島「丸くてふわふわ・・・美味しそう」
八田島「ねえ、これ買ってよ」
玲奈「まあ、シュークリームくらいなら──」
玲奈「じゃなくて!ダメよ!」
玲奈「あのね、私達は仕事で外に来たの!遊びにきた訳じゃないのよ!?」
玲奈「ついでに私はあなたの財布じゃない!」
八田島「ええ、いいじゃんちょっとくらい」
玲奈「ダメだって・・・」
客1「煩いわね。痴話げんかならよそでやってよ」
客2「シュークリームくらい買ってあげれば良いのに」
玲奈(う、周りの視線が・・・!)
玲奈「わかったわよ! お姉さん、これをひとつ──」
八田島「10個で」
店員「はーい!2000円になりまーす!」
玲奈「~~~~っ! 電子マネーでお願いします!!」
〇公園のベンチ
八田島「美味しい! お酒と卵以外にこんな美味しいものが存在するなんて初めて知ったよ!」
玲奈「そう、良かったわね・・・」
あの後も私は走り回る八田島さんを延々追いかけ続け、すっかり疲れきってしまった。
そんな私をよそに、八田島さんは上機嫌にシュークリームを頬張っている。
玲奈(こんなのとやっていくなんて絶対無理。後で須佐川さんに文句を・・・)
玲奈「──はっ」
〇公園のベンチ
突如、辺りの空気が重くなった。陰陽師の直感が、私の脳内に警鐘を鳴らす。
白狼「グルルル・・・」
玲奈「白狼の群れ・・・こんなところに・・・」
私はベンチから立ち上がり、ポケットに入れていた呪符を取り出した。
白狼「ガァッ!!」
玲奈「はあっ!」
攻撃を避け、札を放つ。当たった白狼は、悲鳴を上げながら跡形もなく消えて行った。
玲奈「数は15──いや20はいるわね」
玲奈「多いけど、2人でやればなんとか──」
玲奈「って!!」
八田島「もぐもぐもぐ・・・ んん、この甘さ、癖になるなあ」
振り向くと、八田島さんはいまだ呑気にシュークリームを頬張っていた。
玲奈「ちょっと、手伝いなさいよ!」
八田島「え、やだよ。なんでキミが仕掛けた喧嘩を僕が手伝わなきゃいけないの」
玲奈「はぁ!?あなた、職務放棄するつもり!?」
八田島「それとこれとは別問題じゃない?まぁ、仕事する気がないのも本当だけど」
八田島「僕は外に出たかったから、あのクソ野郎の提案に乗ってやっただけだし」
八田島「ほらほら。よそ見してると危ないよー」
白狼「ガウッ!」
玲奈「くっ──!!」
玲奈(ああもう、これだから怪異は!)
玲奈(こうなったら──)
〇オフィスのフロア
須佐川「お前達にこれを渡しておこう」
須佐川「「縛鎖錠」の片割れだ。八田島と茨木には、これと対になるピンク色のものを手錠代わりにつけている」
須佐川「一応、調教用の道具でな。ピンクを持つ者が金を持つ者に逆らうことのないよう、いろんな機能がついてるんだ」
須佐川「あいつらが勝手な行動を取ろうとした時、こいつに命令を聞くよう念じてみろ」
〇公園のベンチ
玲奈(今が使いどきよね)
玲奈(「命令を聞け」──!!)
途端に、雷光が八田島さんの身体を包んだ。その威力に、私は使ったことを後悔する。
──が。
八田島「ん、蚊にでも刺されたかな?」
玲奈「効いてない!?」
玲奈(この道具、意味ないじゃない!)
「ガアアアッ!」
玲奈「──ッ!」
〇公園のベンチ
玲奈「はぁ、はぁ・・・」
玲奈(やっぱり、1人じゃ無理。なんとか戦って貰わないと)
玲奈(でも、どうすれば・・・)
八田島「あ。シュークリーム、なくなっちゃった」
八田島「10個じゃ少なすぎたなぁ・・・」
玲奈「それだわ!」
玲奈「八田島さん、シュークリームよ!」
八田島「はぁ?」
玲奈「手伝ってくれたら、またシュークリームを買ってあげる!」
八田島「──へぇ。数は」
玲奈「好きなだけ!」
八田島「ついでにお酒も飲みたいな」
玲奈「わ、分かった、買うわ!」
八田島「ふーん」
八田島「仕方ない、今回だけだよ」
八田島さんはゆらりと立ち上がり、不気味な笑みを浮かべる。
瞬間、妖気が爆発した。
八田島「調整すれば、なんとかなるかな」
玲奈「え?」
巨大な水球が、私の横を猛スピードで通り過ぎる。直後、後ろの白狼の群れが吹っ飛んだ。
〇公園のベンチ
白狼達が逃げて行った後、八田島さんは驚く私に不気味な笑顔でこう言った。
八田島「で、どうだった?僕の──」
八田島「ヤマタノオロチの力を見た感想は?」
1話・END
趣味全開素晴らしいです。こういう設定好物です。ヤマタノオロチがそりゃ言うこと聞くわけないですね。
やる気出させるためにシュークリームとは……現金な八田島さんですね。クールな見た目とチャラそうな雰囲気のギャップ、それにシュークリーム好きだなんて、めっちゃ好きなキャラです〜可愛い(一緒に仕事はしたくないですが)
最後彼の正体を知って納得でした!そういうことか、と。
茨木さんもなかなかな不思議キャラだったので、彼の正体も気になります!
が、陰陽師側は大変ですよね……頑張れ!
楽しく読ませていただきました!
最後の自己紹介にびっくりしましたが。笑
たしかに現代のものに興味を持ちそうですが、シュークリームってところがかわいかったです!