2017年度(脚本)
〇大学の広場
2017年3月末
4月から始まる新しい年度に向け世間は慌ただしい
そしてどこか浮き足立っていた
ここ、東海道大学においても、例外ではない。
東海道大学
生徒数12,628名を誇る国立大学であり
今年も約2,000人の新入生が希望や夢を抱きながら、その門をくぐる。
その新入生達に並々ならぬ熱い眼差しを向けるのが──
新入部員を求める運動部の面々である
仁義なき部活勧誘
〇学校の部室
セパタクロー部 東出「部長・・・いよいよ明日からですね・・・」
セパタクロー部 部長「ああ・・・」
セパタクロー部
部員総数 7名
セパタクロー部 東出「なんとか新入生が入ってくれるといいんですけど・・・」
セパタクロー部 部長「俺たち4年生の5人が引退したら、お前と麻生の2人だけになっちまうからな・・・」
セパタクロー部 部長「2人だとセパタクローの1チームにすら満たない・・・ 実質的に廃部になってしまう・・・」
セパタクロー部 部長「すまんな・・・ 俺たちが入部以降、新入部員をなかなか増やせなくて・・・」
セパタクロー部 東出「そんな!!部長は悪くないっすよ!!」
セパタクロー部 東出「僕は部長達の世代の勧誘受けて初めてセパタクローに触れて入部して・・・」
セパタクロー部 東出「この一年、すごい楽しかったんですから!!」
セパタクロー部 部長「東出・・・」
セパタクロー部 東出「きっと今年はいっぱい入ってくれますよ!!」
セパタクロー部 部長「ああ・・・やってやろう」
セパタクロー部 部長「今年は例年とは違う!! 俺たち4年生もお前らに寂しい思いはさせたくないから、本気だ!!」
セパタクロー部 東出「ありがとうございます!!」
セパタクロー部 部長「この前ミーティングで話したように、今年は例年より体験会と説明会の回数は倍増させた」
セパタクロー部 部長「説明会の会場も今までは講義室を借りただけだったが、中華料理屋『蓬莱』を毎回借りて定食無料付き!!」
セパタクロー部 部長「これなら、きっと新入生も来てくれるはずだ!!」
セパタクロー部 東出「部長ありがとうございます・・・ 他の4年生の皆さんも就活で忙しいのに・・・」
セパタクロー部 部長「いや、かまわないよ。 俺たちも大好きなこの部を存続させたいし」
セパタクロー部 部長「他の部活もうちと似たような状況の所は多い・・・。向こうも必死で来るはずだ!!」
セパタクロー部 東出「カバディ部やパルクール部ですね・・・」
セパタクロー部 部長「ああ・・・」
〇見晴らしのいい公園
パルクール部 原野「部長いよいよ始まりますね・・・」
パルクール部 部長「おうよ!!」
パルクール部
部員総数 2名
パルクール部 原野「作戦・・・上手くいきますかねぇ?」
パルクール部 部長「案ずるな!! 俺らには他の部にはない圧倒的なパルクールのかっこよさがある!!」
パルクール部 部長「お前が作ってくれたPR動画なら、きっと多くの新入生がパルクールに興味を持ってくれるさ!!」
パルクール部 原野「・・・そっすね!!」
パルクール部 部長「セパタクロー部の奴らは説明会や体験会を強化するようだが、肝心のマンパワーが限界だ!!」
パルクール部 部長「必然、満足度は下がる!! だが、動画なら・・・」
パルクール部 部長「パルクールの素晴らしさを余すことなく伝えられる!!」
パルクール部 部長「自身を待て!!原野!! お前の編集技術とパルクールが合わされば無敵だ!!」
パルクール部 原野「・・・はい!!」
〇学校の部室
カバディ部 山川「部長、いよいよ明日から勧誘解禁ですね・・・」
カバディ部 部長「うむ・・・」
カバディ部
部員総数 12名
カバディ部 山川「セパタクロー部は、説明会と体験会を例年より増やしてるみたいっすよ!!」
カバディ部 山川「俺たちはそのままでいいんすか!?」
カバディ部 山川「部長が言ってた秘策って一体なんなんすか!?」
カバディ部 部長「・・・情報漏洩のリスクがあるから、今日まで黙っていたが・・・」
カバディ部 部長「私はある筋から新入生1500人分の電話番号のリストを入手している」
カバディ部 山川「そんなものが!?」
カバディ部 部長「ああ、明日からは人海戦術で、この番号にひたすら連絡だ。そして、うちの練習を見にきてもらう」
カバディ部 部長「ひたすら電話するのは普段『キャント』で鍛えている私達には造作もないだろ?」
カバディ部 山川「部長!! それはすごい!!いけます!!いけますよ!!」
カバディ部 部長「私達には出来なかった部内紅白戦・・・ 君達の代で成し遂げてくれ・・・」
カバディ部 山川「・・・はい!!」
〇大学の広場
2017年3月某日
部活勧誘解禁
セパタクロー部 部長「こんにちは!! セパタクロー部です!!」
セパタクロー部 東出「説明会も体験会もいっぱいやっています!! お願いしまーす」
〇見晴らしのいい公園
パルクール部 部長「よしよし!! 動画の再生も伸びてきている!!」
パルクール部 原野「これは今日中に100回再生行きますよ!!」
〇学校の部室
カバディ部 山川「あ、突然のお電話すみません!! 私、カバディ部2年の山川と申します」
カバディ部 部長「ええ、ええ、ああそうですか。 ではまたよろしくお願いします」
カバディ部 部長「よし、次!!」
〇まっすぐの廊下
数日後・・・
セパタクロー部 部長(おかしい・・・)
セパタクロー部 部長(説明会と体験会の予約者が全然増えない・・・)
カバディ部 部長(何故だ・・・ リストの新入生1500名に電話をかけたが・・・)
カバディ部 部長(皆ことごとく運動部に興味がない・・・)
カバディ部 部長(カバディがマイナー競技ゆえにある程度覚悟はしていたが・・・ ここまでとは・・・何かがおかしい・・・)
パルクール部 部長(俺たちの動画結局200再生ぐらいで勢いが止まっちまった!!)
パルクール部 部長(どういうことだ!!こんないい動画なのに・・・!?)
パルクール部 部長「ん!?」
パルクール部 部長「セパタクロー部とカバディ部じゃねーか!?」
セパタクロー部 部長「ん、ああ・・・ パルクール部とカバディ部か・・・」
カバディ部 部長「パルクール部が・・・大学にいるの珍しいですね・・・」
パルクール部 部長「ん・・・ああ・・・新入生勧誘に来てんだ・・・でもよ・・・」
セパタクロー部 部長「やっぱり全然ダメかあんたらも・・・」
カバディ部 部長「どこも似たような状況ってことですね・・・」
セパタクロー部 部長「一体どうしてここまで・・・!?」
ワッハッハ!!
どうしたよマイナー競技部活動諸君!!
揃いも揃って辛気臭いな!!
「・・・この声は!?」
ボート部!!
ラクロス部!!
アメフト部!!
ボート部 澤田「ハッハッハ!! どうしたよ!!元気ないねぇ!!」
ボート部
部員総数 75名
ボート部の澤田・・・
こいつなんで上半身裸なんだよ!!
ここ学校の廊下だぞ!!
ラクロス部 矢部「どうせアレだろ!! 新入生が入らなくて困ってんだろ!! 大変だよなぁ、マイナー部活は笑」
ラクロス部
部員総数 83名
ラクロス部の矢部・・・
相変わらず軽い感じが鼻につく!!
アメフト部 郷原「まあ、彼らも彼らなりには頑張っているんだ。あまりそんなこと言うもんじゃないよ」
アメフト部
部員総数 72名
アメフト部の郷原・・・
なんか偉そうな物言いなんだよな・・・
ボート部 澤田「セパタクロー部は説明会と体験会の調子はどうなんすか!?」
セパタクロー部 部長「ぐっ・・・芳しくは・・・ない・・・」
ボート部 澤田「そうなんすか!? まあ、セパタクロー部の説明会と体験会、ボート部のイベントと完全に被ってるっすから」
ボート部 澤田「うちに来た新入生も迷ってこっちに来たってやつちょっといたっすよ」
セパタクロー部 部長「な!? そ、そのチラシ見せてくれ!!」
セパタクロー部 部長「ほ、本当だ・・・ しかも説明会では焼肉屋貸切だって!!」
ボート部 澤田「まあ、ぶっちゃっけ焼肉目当てのやつも来ちゃって困ってますけどね!!」
セパタクロー部 部長「体験会も練習場所への送迎もあるし、ほぼ丸一日イベントがあるだと!? ウチは1時間くらいなのに・・・」
ボート部 澤田「ええ、そこでボート部のアツさを精一杯語らせてもらってますわ!!」
セパタクロー部 部長「そ、そんな・・・」
ラクロス部 矢部「そういや、パルクール部は部活紹介動画アップしてたよね!?どんくらい再生されてんの!?」
パルクール部 部長「う・・・200くらいだ・・・」
ラクロス部 矢部「えっ!?200!? プッ・・・」
ラクロス部 矢部「うちは合計10万くらいだぜ」
パルクール部 部長「はっ!?10万だと!!バカな!! なんという数字だ!!」
ラクロス部 矢部「ウチは動画は専門の業者にお願いしてっからさ」
ラクロス部 矢部「それにSNSの有料広告にも掲載してっし」
ラクロス部 矢部「練習風景以外にも大学生活の動画とか何パターンか作ってるから、結構みんな見てくれたんだよね」
パルクール部 部長「ぐ、ぐぐぅ」
アメフト部 郷原「皆、色々工夫しているんだなぁ!! カバディ部はどのようなスタイルで勧誘を!?」
カバディ部 部長「わ、私達は地道に新入生に連絡を・・・」
アメフト部 郷原「ん!?カバディ部のマンパワーでどうやってそんなたくさんの・・・!!」
アメフト部 郷原「それってアレかな!?もしかしてウチの部の誰かからリストをもらったんじゃないかな!!」
カバディ部 部長「な、どうしてそれを!?」
アメフト部 郷原「ワッハッハ、だったら申し訳ない。 それはね体育会系に興味のない新入生を集めたリストなんですよ」
カバディ部 部長「なんだって!?」
アメフト部 郷原「毎年ウチのリストって狙われるんでね。もし、知り合いから要望あったら、そっちを渡せって話をしてるんですよ」
アメフト部 郷原「僕らは体育会系に興味のある500名に絞って勧誘かけてるんでね」
カバディ部 部長「あり得ない・・・」
セパタクロー部 部長「こ、こんなにイベントを長時間に何度もやってたら、新入生が色んな部活動を見学する機会を奪うようなもんじゃないか!!」
パルクール部 部長「ラクロス部の動画!! どう見ても部外のモデルを使っているだろ!!しかも投稿が部活勧誘解禁前じゃないか!!」
カバディ部 部長「罠に嵌める様なリストを流すなんてあんまりだよ!!許せない!!卑怯だよ!!」
「それがどうした!!!!」
!?
ボート部 澤田「こっちだって必死なんだよ!! そりゃ囲い込みや洗脳・・・ 何だってやるさ!!」
ラクロス部 矢部「SNSやイメージ戦略なんて基本中の基本だろ!!ただ、いい動画を作れば見てもらえるなんて甘ったれたんじゃねぇよ!!」
アメフト部 郷原「リストはウチの部員達が入試の道案内や胴上げを通じて作り上げた至極の逸品なんだ。あまり舐めた事を言わないでくれたまえ」
ボート部 澤田「アンタらは正直俺らから言わせてもらったら危機感が足りてねぇよ」
アメフト部 郷原「部活勧誘は戦場なんですよ。弱肉強食。 弱いものが淘汰される自然の摂理というやつです」
ラクロス部 矢部「それにアンタらと俺たちは背負っているものが違うんだよ」
そ、それは一体・・・!?
「伝統だ!!」
ボート部 澤田「アンタらはどうせ残る部員がかわいそうとかそんなミクロな考えで頑張ってんだろ!?」
アメフト部 郷原「我々は今まで部活を継承してきた多くのOBの期待を背負い、そして未来の勝利を目指さなければいけない」
ラクロス部 矢部「新入生勧誘はなぁ、そのための大事な一歩なんだよ。だから、毎年毎年どんどんブラッシュアップしてこっちも臨んでるんだよ!!」
ラクロス部 矢部「だから、アンタらはせいぜい負け犬どうし、傷を舐めあってるんだな!!」
ワッハッハ
カバディ部 部長「そ、そんな・・・ 折角色んな伝手を使って入手したリストだったのに・・・」
パルクール部 部長「こんなクオリティの動画をバンバン用意されたら、ウチの動画なんて見てくれねぇよ・・・」
セパタクロー部 部長「時間削って頑張ったんだけどなぁ・・・」
(みんなすまない・・・)
〇学校の部室
2017年4月末
ボート部
新入生25名入部
ラクロス部
新入生20名入部
アメフト部
新入生27名入部
セパタクロー部
パルクール部
カバディ部
未だ入部者0・・・
セパタクロー部 部長「東出・・・すまんな・・・」
セパタクロー部 東出「何言ってるんすか!! 部長と他の4年生の皆さんには、ホント頑張っていただきましたよ!?」
セパタクロー部 東出「でも、参加者がほとんどいなかっただけで・・・」
セパタクロー部 東出「まさか0だなんて・・・」
セパタクロー部 部長「やっぱりデカい部活連中には敵わないのか・・・」
セパタクロー部 東出「部長・・・」
セパタクロー部 相川「あ、あの、すいません!! 入部希望なんですけど・・・」
セパタクロー部 東出「き、君は!! たしか体験会に来てくれた・・・!!」
セパタクロー部 相川「は、はい!!そうです!! えと、たしか東出さんですよね!?」
セパタクロー部 相川「僕東出先輩のセパタクローについてのアツい話を思い出して・・・」
セパタクロー部 相川「入部したいと思って来たんですけど、まだ間に合いますかね!?」
セパタクロー部 東出「も、勿論だよ!!」
セパタクロー部 部長(届いていた・・・ 決して数は多くないけど届いていたんだ・・・ 俺たちの思いは・・・)
〇見晴らしのいい公園
パルクール部 明神「動画の動きが凄いカッコよくって」
パルクール部 明神「こんな俺でも出来るようになったらきっと楽しいだろうなと思ったんです!!」
〇学校の部室
カバディ部 赤城「運動正直興味なかったんすけど、山川さんと電話で話してるうちにカバディに興味湧いてきちゃって・・・」
カバディ部 赤城「入部させてもらってもいいすか!?」
カバディ部 山川「勿論大歓迎だよ!!」
セパタクロー部
パルクール部
カバディ部
新入生1名入部
〇大学の広場
2018年2月某日
セパタクロー部 東出「ふぅ・・・」
パルクール部 原野「よう東出!!」
セパタクロー部 東出「原野か・・・ 原野も今日追いコンだったのか?」
パルクール部 原野「ああ、部長は号泣してて大変だったよ」
パルクール部 原野「4年生卒業して、そっちは今3人だっけ!? ウチはまぁ部員少なくても比較的問題ない競技だけど・・・」
セパタクロー部 東出「まあね・・・ でも、他大学との試合は何とか出来るからさ」
カバディ部 山川「原野!!東出!! お疲れ様!!」
カバディ部 山川「この前は練習試合のメンバー入りしてくれて助かったよ!!」
パルクール部 原野「なに、困った時はお互い様さ」
セパタクロー部 東出「ああ!! でも・・・3月からはそうはいかない」
カバディ部 山川「・・・!! そうだな・・・」
パルクール部 原野「いよいよか・・・」
セパタクロー部 東出「ああ・・・」
パルクール部 原野(部長・・・ 部長の無念は俺が必ず・・・)
カバディ部 山川(今年こそはたくさんの入部者を集めます・・・!!)
セパタクロー部 東出「・・・また始まるな」
セパタクロー部 東出「仁義なき部活勧誘が!!」
いつも読んだ後、面白かったと、汁の全部を飲み干すラーメンを思い出します。今回は、人集めという少し身につまされるような話だったので、余計にグッと来ました
文化部一筋だった人間には想像もつかない世界です。(てか幽霊部員でしたが笑)しかもマイナー競技ばかりで興味が尽きません。どうなっちゃうの……?
弱小部の大逆転は起こるのか!?続きが楽しみです😆
強豪部の言うことも正論すぎてぐうの音も出ませんでした(笑)