第1話「言語の壁を超えてゆけ」(脚本)
〇電脳空間
★ 「四字熟語」の定義 ★
(『四字熟語の大常識』/ポプラ社)より
① 四字でまとまって一つの意味を表しているもの
② 故事成語。由来があるもの
③ 生きてゆく上での教えや戒めになっているもの
〇一軒家
言語学の博士号を取って、
母校の助教になれたまではよかった。
その後、論文が書けぬまま悶々と過ごし、
実家暮らしで三十路を迎えた。
金田一 三郎(きんだいち さぶろう)
国際外国語大学・助教。30歳独身。
俺みたいな中途半端な奴は、腐るほどいる。悩むだけ損というものだ。
金田一 三郎「俺、生きてよしっ!!」
グ~キュルル~
金田一 三郎「・・・声出したら腹減ったな~」
そんな、とある日曜日──
外交官の父から小包が届いた。
〇書斎
金田一 三郎「重いぞ。」
金田一 三郎「死体入ってるかも。」
金田一 三郎「なんだこれ。ラジオか? ん、手紙がある・・・」
三郎は、封を切る。
金田一 三郎「なになに・・・」
三郎の父「頼みがある。懇意にしてる方の娘さんが日本に留学するから、その間、ホームステイさせてあげて。」
金田一 三郎「いつものお節介がはじまった──」
金田一 三郎「とはいえ、 父さんの家だから断れないんだけど・・・」
金田一 三郎「確か、中国にいるんだよな。 中国語は苦手だけど、大丈夫っしょ。」
金田一 三郎「ニーハオ、シェイシェイ、ハオハオ──」
ぴんぽ~ん
金田一 三郎「やる気出したらいつもこれだ。」
〇シックな玄関
ぴんぽ~ん。
ぴんぽ~ん。
ぴんぽ~ん。
金田一 三郎「はいはい。」
金田一 三郎「開けゴマしますよ。」
ガチャ。
四字熟子「・・・・・・」
金田一 三郎「・・・どちらさんですか?」
四字熟子「・・・・・・」
金田一 三郎「もしかして、父さんが言ってた留学生? 日本語しゃべれないの?」
女の子は頷くと、紙を取り出した。
読み上げる三郎──
金田一 三郎「『私の名前は四字熟子(よじ じゅくこ) ”四字熟国”から来ました。 日本で勉強したいです』」
金田一 三郎「よ、よじじゅくこく!?」
金田一 三郎「中国の黄山(こうざん)に住む幻の民族?」
熟子はうなずく。
四字熟子「『一期一会(いちごいちえ)』。」
四字熟子「『俱会一処(くえいっしょ)』。」
四字熟子「『機会均等(きかいきんとう)』。」
金田一 三郎「おお~。 四字熟語を公用語にしているとは聞いていたけど、全くわからない。」
金田一 三郎「言語学者の端くれとしては悔しいな。」
金田一 三郎「あ、もしかして──」
三郎は、電源を入れる。
金田一 三郎「もう一度、話してくれる?」
熟子はうなづき、話しはじめる。
四字熟子「『一期一会(いちごいちえ)』。」
= 一生に一度の出会い
⇒「あなたに会えてうれしいです」
四字熟子「『俱会一処(くえいっしょ)』。」
= 極楽で生まれたものは一つ所で会える
⇒「前世から縁があったのでしょう」
四字熟子「『機会均等(きかいきんとう)』。」
= ある人に与えた待遇を皆に与える
⇒「これから仲良くしてください」
金田一 三郎「やっぱり翻訳機だ。 「四字熟語」の意味も出るのか・・・ 会話の精度は怪しいけど、十分だな。」
金田一 三郎「熟子さん。 俺は金田一三郎。 三郎でいいよ。」
⇒「遠慮会釈(えんりょえしゃく)」
=慎みや礼儀を持つこと
金田一 三郎「これを言えばいいんだな・・・」
金田一 三郎「『遠慮会釈(えんりょえしゃく)』」
熟子は、微笑む。
金田一 三郎「・・・よかった、伝わった。」
金田一 三郎「これから、よろしくね!」
金田一 三郎「え?」
金田一 三郎「・・・何か変なこと言っちゃったのかな。」
〇一軒家
熟子は、父の部屋に閉じこもった。
〇部屋の扉
ガチャガチャ・・・
施錠されている。
金田一 三郎「どうしたの!? ご飯食べようよ!」
反応はない──
金田一 三郎「・・・ここ置いとくね!」
金田一 三郎「のびる前に食べてね!」
反応はない。
〇屋敷の書斎
四字熟子「・・・・・・」
四字熟子「よ」
四字熟子「ろ」
〇おしゃれなリビングダイニング
金田一 三郎「う~ん。なにが原因だろ──」
金田一 三郎「あの時の言葉は──」
金田一 三郎「「これから、よろしくね!」」
金田一 三郎「だよな。」
金田一 三郎「・・・彼女だけの解釈がここに?」
金田一 三郎「よろしく──」
金田一 三郎「しくよろ──」
金田一 三郎(・・・わからない。)
金田一 三郎「グーグー」
〇一軒家
そのまま、寝てしまった。
〇一軒家
夢を見た────
ヤンキーたちがケンカしていた──
無茶苦茶に、殴り合って──
最後は──
仲良くなっていた。
その笑顔があまりにも爽やかで──
もしかすると、
ヤンキーでは なかったのかもしれない。
人は、見た目で判断できない。
言語も、文字面で判断できない。
よ ろ し く
彼女は、この言葉に何を感じたのか──
言語学者の意地で、俺は考える──
・・・夢の中で、だけどね。
〇一軒家
「・・・わかった!」
〇おしゃれなリビングダイニング
金田一 三郎「わかった! そういうことだったのか!!」
三郎は、翻訳機を取り出す。
金田一 三郎「よろしく」
画面を確認する。
金田一 三郎「・・・やっぱり。 間違いない。」
と、おもむろにドアが開いた。
四字熟子「・・・・・・」
金田一 三郎「あ! おはよう。」
四字熟子「おはよう──」
金田一 三郎「日本語……どうして──」
熟子は、本を見せる。
金田一 三郎「『国語辞典』──」
金田一 三郎「これで覚えたの? すごい!」
四字熟子「ありがとう──」
四字熟子「そば。」
金田一 三郎「え? ああ、気に入ってもらえると思ってた。」
金田一 三郎「そうだ! これを見て欲しいんだ!」
翻訳機の画面を見せる。
『 四 六 四 九 』
金田一 三郎「これが、俺が言いたかったこと。 こっちは違う。」
『 夜 露 死 苦 』
金田一 三郎「これだと、意味が違うんだよな。」
金田一 三郎「死、とか── 苦、とか──」
金田一 三郎「たぶん、恐い意味なんじゃないかな?」
金田一 三郎「配慮が足りなかった──ごめん。」
俺の言葉が通じるはずはない──
けど彼女は──
彼女は──
笑った。
そして、私に語りかけた。
四字熟子「さぶろう──」
よ ろ し く
つづく──
中国語では「手紙」が「トイレットペーパー」だったりするから、漢字を知っていても組み合わせによって日本語と意味が違うものがあったら解釈が厄介ですね。熟子ちゃんも日本語を勉強しているから、両方をMIXした二人のカタコト会話が面白そう。
四字熟語での会話というのがとても面白いコンセプトで、その世界観にひきこまれるとともに、私自身も日常生活で遊び感覚でやってみたくなりました。
四字熟語を言語にしている民族、、、四字熟語で会話、、作者さまの独創的な世界観楽しかったです!まさかよろしくが不良時な当て字の夜露死苦とは笑クスッと楽しませてもらいました