孤独が仰ぐ、空は青

NekoiRina

魔術師・ハーキマー(脚本)

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〇木の上
  3月21日。
  咲かない桜の木。
  ここから、僕の物語は始まった。

〇木の上
天音トオル「やっぱり今年も咲きそうにない・・・か」
  僕は天音(アマネ)トオル。
  春から大学生。
  両親はいない。唯一の家族である祖母は体が弱く、入退院を繰り返している。
  だから僕は、学校帰りにこの病院へ来るのが、小学生の頃からの日課だった。
天音トオル「長年この病院に通ってるけど、この桜が咲いたことなんて一度もなかったもんな」
  裏庭の隅っこに植えられた咲かない桜。
  皆に忘れられた存在。
  この桜だけが僕の孤独を分かってくれる。
  何となくそんな気がして
  いつしか、この裏庭は僕のお気に入りの場所になっていた。
  咲かない桜の幹に触れた、その時。
天音トオル「うわ!なんだ?」
  僕の体を突然の竜巻が襲い、
  吹き飛ばされそうになる。
  慌てて目の前の桜の幹にしがみつくと、
  桜が凄まじい音を立てて強い光を放った。
  その光は、まるで生きているかのように
  大きくうねり、僕を強く打ちつけた。
天音トオル(何かが頭に流れ込んでくる・・・ これは、何だ?何の映像なんだ・・・?)

〇渋谷のスクランブル交差点
  見知らぬ交差点。
  歩道に乗り上げる一台の車。
  立ち込める煙。
  血を流し倒れている若い男性。

〇木の上
  光がおさまり、木から体を離すと
  幹から女の子がぬるりと出現した。

〇木の上
  光が消えると、女の子が目を開けた。
ハーキマー「・・・」
天音トオル「君は一体・・・」
ハーキマー「私は、魔術師を司る精霊」
ハーキマー「ハーキマーだ」
天音トオル「は?まじゅつし?」
ハーキマー「お前に、前世の記憶を返してやろう」
天音トオル「前世の記憶ぅ~?」
天音トオル「いや、なんか怖いから結構です」
ハーキマー「はあ?お前に拒否する権利は無い」
天音トオル「何この魔術師」
天音トオル「押し売り感がすごい」
ハーキマー「18歳」
天音トオル「何?」
ハーキマー「前世でお前が亡くなった歳だ」
天音トオル「僕、そんなに早く死んだの?」
ハーキマー「交通事故だった」
天音トオル「事故・・・」
ハーキマー「だが私は、お前の事故は、誰かが仕組んだ殺人だったんじゃないかと思っている」
天音トオル「殺人?」
天音トオル「そんな・・・」
天音トオル「前世の僕は、人から殺されるほど憎まれる存在だったのか?」
ハーキマー「トオル。お前はそんな人間じゃない」
天音トオル「・・・僕の名前も知っているんだな」
天音トオル「僕たちは一体どんな関係だったんだ?」
ハーキマー「ただの知り合いだ」
天音トオル「知り合い・・・」
天音トオル(魔術師の知り合いがいるって、前世の僕、人間関係がナゾ過ぎるんだが・・・)
天音トオル(しかも押し売り系)
天音トオル「僕たちはどこで知り合ったんだ?」
ハーキマー「それは・・・話すと長くなる」
ハーキマー「前世の記憶を戻した方が早い。思い出せ」
天音トオル「思い出すって言ってもどうやって・・・」
「トオル?」
天音トオル「・・・!」
天音トオル「ばーちゃん!」
天音鈴子「やっぱりここにいたのね」
天音トオル「ばーちゃん、寝てなきゃダメじゃないか」
天音鈴子「ちょっとくらい大丈夫よ。 トオル、そろそろ晩御飯の時間よ?」
天音トオル「もうそんな時間か」
天音鈴子「今日は貴方の誕生日でしょう?」
天音鈴子「看護師さんに無理を言って、ケーキを用意してもらったのよ」
天音トオル「まじで?嬉しい!ありがとう、ばーちゃん」
天音鈴子「さあ、行きましょう」
天音トオル(ハーキマー・・・消えた?)
  そう。僕は今日、18歳になった。
天音トオル「18歳。前世の僕が死んだ歳・・・か」

〇木の上
  翌日。
  昨日の出来事は夢だったのだろうか。
  半信半疑な気持ちで、
  今日も裏庭へと足を運んだ。
ハーキマー「トオル!来たか!」
天音トオル「うわ・・・めっちゃ眩しい笑顔・・・」
天音トオル「やっぱり夢じゃなかったんだ」
ハーキマー「よし。じゃあ早速、お前に前世の記憶を戻すための準備を始めるぞ!」
天音トオル「準備・・・って何をするんだ?」
ハーキマー「この桜の花を咲かせる」
天音トオル「この桜は咲かないぞ?」
ハーキマー「お前が手伝ってくれれば何とかなる」
天音トオル「僕を桜の養分にでもするつもりか?」
ハーキマー「・・・そうだな。 手伝わないならその手もあるか」
天音トオル「いや怖い、目が怖いって」
天音トオル「大体、この桜と僕の記憶に何の関係が」
ハーキマー「よし、じゃあ早速始めるぞ。トオルはいい感じのそれっぽい石を集めて来てくれ」
天音トオル「指示が雑過ぎて全く分からん」
天音トオル「てかさぁ、ハーキマーは自称・魔術師なんだろ?魔法でちゃちゃ~っと咲かせてよ」
ハーキマー「大バカ者」
ハーキマー「そんな子供騙しの魔法では意味が無い。ゴチャゴチャ言ってないで早く行け!」
天音トオル「はいはい」
天音トオル「お、早速見付けたぞ」
天音トオル「ほら、これ結構キレイじゃないか?」
ハーキマー「ふむ。いいだろう」
  僕が適当に拾った石を手に取ったハーキマーは、その石を小さな両手で包み込み
  何やらブツブツと唱えた。
天音トオル「うわ!ハーキマー! なんだよ、この風、大丈夫なのか?」
ハーキマー「よし、上手くいったな。じゃあ次は、この石を桜の木の根元に埋めるんだ」
天音トオル「さっきの石が宝石みたいになってる! え、なんで?何をしたんだ?」
ハーキマー「さっきの石に、私の魔力を込めただけだ。 この石を通して、桜に私の魔力を注ぐ」
天音トオル「ほ・・・本当に魔術師なのか・・・?」
ハーキマー「最初からそう言ってる」
天音トオル「ん?てか桜の木に直接、 魔力を注げば早いんじゃないか?」
ハーキマー「それは桜にとって負担になる。だから、間接的に様子を見ながら注いでいくんだ」
天音トオル「人間でいう「点滴」みたいなものか?」
ハーキマー「その通り」
  僕はこうして、
  ハーキマーの手伝いをすることになった。

〇中庭
  一週間が経ったある日。
  朗報は突然やってきた。
天音トオル「ハーキマー!聞いてくれ! ばーちゃんが退院することになったんだ!」
ハーキマー「・・・そうか」
天音トオル「いや~ビックリしたよ」
天音トオル「なんか急に色んな数値が改善したとかで、様子見で退院してみるかって話になって!」
ハーキマー「・・・」
天音トオル「ハーキマー?」
ハーキマー「今日も石を集めてきたか?」
天音トオル「え?あぁ、もちろん」
天音トオル「しかし・・・この桜、本当にこんなことで咲くのか?ツボミすらついてないが」
ハーキマー「・・・大丈夫。もうすぐ咲く」

〇病室のベッド
  そして、退院の日になった。
天音トオル「ばーちゃん!退院、おめでとう! どっかで昼ごはん食べて帰る?」
天音鈴子「ふふ、嬉しそうね、トオル」
天音トオル「当たり前だろ?ばーちゃんと一緒に家へ帰れるなんて、久し振り過ぎて!」
天音鈴子「そうね」
天音トオル「明日からもう病院に来なくていいって、なんか不思議な感じだよな~」
天音トオル「あ、でも僕は、もうちょっとの間、ここに来ないといけないんだった」
天音鈴子「どうして? 退院の手続きはもう終わったわよ?」
天音トオル「あ・・・え~っと」
天音トオル(しまった!まさか「前世の記憶を戻すため」なんて言えないぞ・・・)
天音トオル「いや、なんかさぁ、今、小さい女の子と咲かない桜の世話をしてるんだよ」
天音鈴子「桜って・・・まさか、あの裏庭の?」
天音トオル「そうそう、あの忘れ去られた感じの桜。この病院で、あれだけ咲かないでしょ?」
天音鈴子「・・・」
天音トオル「でもそれが、もう少しで咲くらしいんだ!」
天音トオル「ここまできたら、満開の桜を見るために最後まで頑張りたいなぁ~なんて・・・」
天音トオル「・・・ばーちゃん?」
天音トオル「どうしたの?怖い顔して」
天音鈴子「・・・トオル」
天音鈴子「・・・大事な話があるの」

〇中庭
ハーキマー「トオル!遅かったな!」
天音トオル「・・・」
ハーキマー「トオル?どうした? おばあさん、無事に退院したんだろ?」
天音トオル「・・・うん」
ハーキマー「何かあったのか?」
天音トオル「退院する間際・・・ばーちゃんが「大事な話がある」って言い出して・・・」
ハーキマー「・・・大事な話、とは?」
天音トオル「ばーちゃんは・・・」
天音トオル「僕の本当のばーちゃんじゃなかった」
天音トオル「僕たちに血の繋がりは無いって」
ハーキマー「・・・」
天音トオル「産まれてすぐ親に捨てられた僕を、ばーちゃんが引き取って育ててくれたんだって」
天音トオル「・・・」
天音トオル「ハーキマー・・・教えてくれ」
ハーキマー「・・・」
天音トオル「僕は前世では殺害されて」
天音トオル「今世では親に捨てられた?」
天音トオル「僕はそんなにも要らない人間なのか?」
ハーキマー「・・・」
天音トオル「何が前世の記憶だよ!」
天音トオル「僕が生まれ変わることなんて」
天音トオル「誰も望んでいなかった・・・!」
天音トオル「どうして僕なんか生まれたんだ・・・!」
ハーキマー「トオル・・・」
ハーキマー「血の繋がりがなければ、 おばあさんへの愛情は消えてしまうのか?」
天音トオル「え・・・?」
ハーキマー「お前を育てたのは、紛れもなくそのおばあさんなんだろ?その事実は変わらない」
天音トオル「・・・」
  そうだ。
  ばーちゃんは、いつも優しかった。
  孤独を背負った僕の名前を
  何度も、何度も呼んでくれた。
  頭を撫でて、抱きしめてくれた。
  あの温もりは、嘘なんかじゃない。
  たとえ、血の繋がりがなくても
  僕たちは「家族」だ。
天音トオル「・・・」
天音トオル「・・・」
天音トオル「この桜が咲いたら・・・」
天音トオル「一番にばーちゃんに見せてやりたい」
天音トオル「連れて来ても・・・いいよな?」
ハーキマー「・・・あぁ、もちろん」

〇木の上
ハーキマー(トオル・・・)
ハーキマー(前世の記憶は・・・ お前を更に追い詰めるかもしれない)
ハーキマー(だが・・・)
ハーキマー「今度こそ・・・守ってみせる」
  まだ咲いていないはずの桜の香りが
  ハーキマーの隣を静かに通り抜けた。

次のエピソード:【第2話】女教皇・アベンチュリ(1)

コメント

  • 発想が楽しくて最後まで一気に読ませて頂きました。前世と現世、そして、、、とずっと何かが繋がっていると考えると不思議な感覚がしますよね。今後の展開が気になります。

  • 前世の死の理由、それが謎めいているとなると知りたくなりますよね。また、それが今世と何か関係があるのか気になります。色々と興味のそそられる第一話ですね。

  • 前世、今世と不幸が重なったように見える主人公が、この魔術師の少女に出会ったことで彼の未来が大きく飛躍していけばいいなあと思います。

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