時計塔のある町

松路 ふな

時計塔のある町(脚本)

時計塔のある町

松路 ふな

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時計塔のある町
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〇炎
  揺れている。
  ゆらゆら。
  ゆらゆら。ゆらゆら。
  炎は私以外の全てを襲うように、愛おしむように形を変える。
  熱くはない。痛くもない。私にあるのは脳も蕩けるほどの──────充足感。
  あぁ、でも、でも、この焼けるほどの感情はなんでしょう。
  涙が止まらないの。
  満たされているはずなのに、愛されているはずなのに。
  ─────め、──い、────よ
  頭に声が鳴り響く。
  ─────め、贖い、────よ
  やめて。
  私は叫ぼうとする。けれど、私の心は恍惚としたまま動かない。
  声は諭すように何度も私に、私達に呼びかける。
  罪を清め、贖い、────よ
  すべてを愛してくれるひと、私のすべてだったひと。
  ああ、あなたは、どうして私を──────────。
  罪を清め、贖い、見定めよ
  ──────どうして。

〇暖炉のある小屋
  時計塔 ノアの部屋
「───よ!」
「──ろよ!」
ミカロフ=アイディオ「っだーもう!起きろって!!」
  ゴロ・・・ゴロ・・・ドテン!!!
ノア「んぎゃ!?!?」
ノア「なに!!なに!?地鳴り!?倒壊!?世界の終わり!?!?」
ミカロフ=アイディオ「そんなわけないだろ」
  ミカロフは慌てるノアを見て呆れながらシーツを畳む。町長の一人息子で、世話をされる立場であるミカロフだが・・・
  本人曰くどうも気を遣ってしまうそうで、一通りの家事はできるようになったのだ。
ノア「あれ?ミカロフだ!おはよう!」
  シーツを畳むミカロフを、少女は笑顔で迎える。
ミカロフ=アイディオ「一人で起きれないなんて・・・。お前はいつになったら一人前の塔守になるんだ?数日後に俺たちは成人の儀を迎えるんだぞ?」
ノア「えへへ・・・ごめんなさい・・・」
  少女は逆さに落ちた体勢から恥ずかしそうに起き上がった。
ノア「ミカロフが〜しっかりしてるから〜♫ つい頼りたく〜なっちゃって〜♪」
  ノアは鼻歌を口ずさみながらパーテーションのカーテンを引き、素早くパジャマを脱ぐ。
ミカロフ=アイディオ「・」
  ノアの言葉にミカロフは一瞬、本当にわずかな間手を止めた。
  それは、ノアはおろかミカロフ自身さえも気づかないほど。
ミカロフ=アイディオ「それで、随分うなされていたが何か悪い夢でも見ていたのか?」
  ミカロフの言葉に、今度はボタンを留めようとしたノアの手がピタリと止まる。
ノア「うん? ・・・実はよく覚えてないんだ。幸せだったような、悲しかったような」
ノア「たぶん・・・そんな感じだった気がする」
ノア「はい、着替え終わり!」
ミカロフ=アイディオ「早着替えだけは得意になって・・・」
  ミカロフに同情したのか、コーヒーがフィルターからポトリ、と垂れる。
ノア「はん、わふぁふひふぁふぁひぇふぁ、ふぁっほほんはほんほ! (私にかかればざっとこんなもんよ!)」
ミカロフ=アイディオ「口にものを入れたまましゃべるな!」
ノア「う・・・一気に食べすぎたから喉がきもちわるい・・・」
ミカロフ=アイディオ「お前の感情のスピードには町1番の馬も敵いそうにないな・・・」
ミカロフ=アイディオ「ほら、牛乳。 ゆっくり飲むんだぞ」
ノア「うう・・・ありがとう〜」
ノア「ゴク・・・ゴク・・・ おいしい!これってクルトンさんの牛乳?」
ミカロフ=アイディオ「ああ」
ミカロフ=アイディオ「最近は畑だけでなく、畜産も調子が良くないらしいが・・・」
  町ではここ数年、原因不明の日照りが断続的に発生している。
  次期町長として、彼なりに責任を感じているのだろう。ミカロフは少し悲しそうな顔をした。
ミカロフ=アイディオ「いつも頑張っているノアちゃんに、と言われてな」
ノア「そっか・・・それじゃあ、私も仕事にもっと力を入れないとね」
ミカロフ=アイディオ「まずは朝一人で起きるところからだな」
ノア「う゛・・・それは・・・はい・・・」
  ポッポー! ポッポー! ポッポー!
  ノアの泣き言の代わりに部屋の鳩時計が鳴いた。
  塔守が時計を鳴らす時間の20分前を知らせる号令だ。
ノア「わ!もうこんな時間!行ってきまーす!」
ミカロフ=アイディオ「待て!首飾り!忘れてる!!」
  緑色の水晶のような欠片がついた首飾りは、ノアが捨てられた際、側に落ちていたそうだ。
  いつか親が迎えに来てもノアのことがわかるよう、常に身につけておきなさい
  とノアの父、セルベに言われている。
幼いノア(いつか、私も家族と・・・)
  ノアもその日が来ることを幼い頃から願っているのだ。
ノア「ありがとう!それじゃあ、また後で!」
  首飾りを受け取り、ノアは忙しなく部屋から飛び出す。
  そんなノアをため息を吐いて見送り、ミカロフは足を組んで不作の打開策の資料を漁る。コーヒーは少しぬるくなっていた。

〇らせん階段
  時計塔 大階段
  町の名所になっている時計塔、そのメンテナンスや掃除をするのが塔守の主な仕事だ。
  その中で最も重要なのが、毎朝、毎晩時計塔の鐘を鳴らすこと。
  目指すは時計塔の最上階。永遠にも思われるほど長く、はるか先にある目的地を目指してノアはくるくると渦巻く階段をかけ上がる。
ノア「はぁ・・・っ、はぁ・・・っ、もう! なんで、こんなに、部屋から、遠いのぉっ!」
  赤ん坊の頃から鐘を鳴らして、正式に塔守に任命されたのはちょうど10年前。
  それから毎日階段を昇降している、のに。
ノア「こんなの、キツすぎる〜〜〜〜っっ!!!」
  一軒家10数軒分あるだろう階段は、今日もノアに苦行を強いるのだ。

〇時計台の中
  時計塔 最上階
ノア「や、やっとついた・・・」
ノア「さ!鐘を鳴らす準備をしなくちゃ!」
  呼吸も整えずノアは点検作業を行なっていく。
  足場から足場へ移動する様子は、踊っていると見間違うほど軽やかだ。
ノア「長針、短針よし 歯車、よし・・・」
ノア「舌、よし 鐘撞きヒモ、よし・・・」
ノア「そして天気、はなまるよし!」
  一通りの作業が終わった。ノアはポケットから懐中時計を取り出し、時間を確認する。

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コメント

  • 勇気をもらえるような、私も頑張ろうと思えるようなそんなストーリーで最後まて楽しく読ませて頂きました。今後の展開が気になります。

  • 一人の女性の純粋な心の姿が見えます。又、彼女の生い立ちや首飾りが気になりました。ラストの不穏な雰囲気がこれからのストーリーを楽しみにするでしょう。

  • 町の時間を運ぶ彼女がとても明るくてかわいいです。
    ただ、冒頭のやりとりを見る限り、このまま平穏が続くわけでは無さそうですね。
    終わりのあたりもドキッとしました。

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