日を食らうような日々でした。

戸羽らい

第1話 振り返れば、あの日は天気でした。(脚本)

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戸羽らい

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〇住宅街
春風ひまわり「〜♪」
近所のおばあちゃん「あらひまちゃん、今日は早いのね」
春風ひまわり「うん! 今日はね、一時間目から校外学習なんだ!」
近所のおばあちゃん「あらあら」
春風ひまわり「それでね、登校時間が早いんだよ〜」
近所のおばあちゃん「大変ねぇ」
春風ひまわり「でも、すっごい楽しみ」
近所のおばあちゃん「あらあら」
春風ひまわり「急がないと!」
近所のおばあちゃん「いってらっしゃい。走ったら危ないわよ」
近所のおばあちゃん「あらあら・・・」

〇通学路
春風ひまわり「いてて・・・」
春風ひまわり「あっ、ごめんなさい!」
春風ひまわり「怪我してない? 大丈夫?」
女の子「大丈夫・・・」
春風ひまわり「あ! 君、同じクラスの──」
女の子「触らないで」
春風ひまわり「わっ」
春風ひまわり「・・・そうだよね。転んだ手で触ったら汚いもんね」
女の子「・・・」
春風ひまわり「そうだ。良かったら一緒に登校しない?」
女の子「しない」
春風ひまわり「・・・」
子猫「にゃ」
春風ひまわり「あっ、猫さん」
子猫「にゃあ・・・」
春風ひまわり「わっ! 大変! すごい怪我!」
春風ひまわり「どうしよう・・・。家に戻る時間もないし、とりあえず学校に連れてく?」
子猫「・・・」
春風ひまわり「・・・うん。保健室で見てもらうのが良いよね」
子猫「にゃあ!」
春風ひまわり「ごめんね、痛いよね。でもなるべく優しく運ぶから・・・」

〇大きな木のある校舎
女の子「ねー、いつまで待つの?」
女の子「遅刻の子は置いてけばいいじゃん」
女の子「もしかしたら来ないかもよ」
男の子「その時は校外学習自体が中止になるとか言ってたけど」
女の子「はぁ? なにそれ」
女の子「迷惑すぎ」
女の子「通常授業とかうんざり」
男の子「暇〜」
男の子「鬼ごっこしようぜ」
女の子「怒られるよ〜」
春風ひまわり「遅れちゃった・・・」
春風ひまわり「どうしよう、みんな揃ってる」
男の子「あ、春風だ」
男の子「遅刻したのあいつかよ〜」
女の子「え、てかひまちゃんが抱いてるの・・・」
春風ひまわり「・・・」
女の子「きゃああ!」
男の子「血まみれの猫だ」
男の子「あいつ返り血浴びてんじゃん」
女の子「え、返り血?」
女の子「なにあれ・・・」
女の子「虐めてたんじゃない?」
女の子「え?」
女の子「猫、虐めてたから遅れたんじゃない?」
男の子「こわっ」
男の子「春風ってそんなやつだったんだ」
春風ひまわり「え・・・みんな何言ってるの」
子猫「にゃ・・・」
春風ひまわり「早く保健室行かないと・・・」
男の子「おい逃げたぞ」
女の子「ぐすっ・・・」
女の子「最低だよ・・・ひまちゃん」
女の子「あんな子だと思わなかった」

〇教室
男の子「結局、春風のせいで校外学習中止になったし最悪だな」
男の子「先生たち大騒ぎだったもんな」
男の子「猫虐めるってやばすぎ」
先生「おーい、お前ら席につけー」
男の子「やべっ。先生来た」
先生「えー、春風は今保健室で休んでる」
先生「怪我した猫を運んできたそうだが、その道中で転んでしまったらしい」
女の子「ひまちゃん、そうだったんだ」
男の子「でもずりーなぁ。保健室で休めて」
男の子「仮病じゃね?」
女の子「転んだって先生言ってたじゃん」
女の子「嘘でしょ」
女の子「えっ」
女の子「春風さんは先生に嘘をついてる」
男の子「まじ?」
女の子「だって転んだだけじゃあんな返り血みたいにならないし」
女の子「猫虐めてたなんて言ったら怒られるから嘘ついたんだと思う」
女の子「・・・」
男の子「やっぱあいつ最低だな」
先生「おーい私語やめろー。授業始めるから」
先生「それじゃあ日直──」

〇保健室
先生「大丈夫? もうちょっと休んでていいのよ」
春風ひまわり「大丈夫です!」
先生「子猫は先生たちが責任持って預かるから」
先生「春風さんは心配しないでね」
春風ひまわり「はい!」
春風ひまわり「そろそろ次の授業始まるので教室戻ります!」

〇学校の廊下
女の子「あっ」
女の子「来た・・・」
春風ひまわり「〜♪」
男の子「おいカス風!」
春風ひまわり「カス!?」
男の子「お前、猫虐めてたんだってな」
男の子「その上、仮病で授業までサボって」
男の子「やーい! カース!」
春風ひまわり「い、虐めてないよ! 猫さん怪我してたから・・・」
男の子「嘘つき!」
男の子「嘘つき!」
女の子「・・・嘘つき」
春風ひまわり「嘘じゃないって!」
男の子「証拠はありますか〜?」
春風ひまわり「しょ、証拠・・・」
春風ひまわり「わかんないけど、みんなは私がそんなことする人に見える?」
男の子「見える!」
女の子「・・・」
女の子「見えない」
春風ひまわり「私はそんなことしてない!」
春風ひまわり「猫さんを虐めるなんて、そんな酷いことしないんだから!」
男の子「・・・まあ確かに。春風って良いやつだもんな」
女の子「うん」
女の子「本当に、虐めてないの・・・?」
春風ひまわり「虐めてないよ。怪我してたから保健室まで運んだだけ・・・」
男の子「・・・」
男の子「カス風〜!」
春風ひまわり「カスじゃないです〜」
男の子「カス風はカス風だし〜!」
女の子「コラ! カスはあんただろ〜!」
女の子「良かった・・・。やっぱりひまちゃんはそんな子じゃないよ」
女の子「だから言ったじゃん」
女の子「ひまちゃんは聖人君子な女神様なんだって」
男の子「カス女神〜!」
春風ひまわり「カスじゃないったら!」
男の子「げっ! 逃げろ〜」
男の子「はははっ」
春風ひまわり「もう・・・」

〇教室
男の子「カス風が来たぞ〜!」
男の子「カス風〜」
女の子「ちょっと男子〜!」
女の子「まったく・・・」
春風ひまわり「カスじゃないってば〜」
女の子「ねぇ、猫虐めたって本当?」
春風ひまわり「本当じゃないよ」
女の子「ひまちゃんは猫を助けたの!」
男の子「おいお前ら・・・」
男の子「春風の机の中にこんなのが・・・」
春風ひまわり「えっ」
女の子「なにそれ・・・」

〇教室
「やっぱり猫を・・・」
「こわ。サイコパスじゃん」
男の子「もしかしてこれで俺たちのことも・・・」
男の子「逃げないと・・・」
女の子「きゃああ!」
女の子「あっちいって! 殺人鬼!」
春風ひまわり「・・・」

〇明るい廊下
女の子「・・・」
「だよな〜!」
「やっぱり春風はそんなことするやつじゃないって!」
「誰? ひまちゃんの机にこんなの入れた人」
「ひまちゃん今日教室の来るの初めてだから、他の人がいれた以外にありえないよ」
「ひでー!」
女の子「・・・」
女の子「「そんなこと」「こんなの」」

〇シックなリビング
  どうしてそんなことするの!?
  良いことと悪いことも分からないの!?
  こんな子に育てた覚えないのに・・・

〇明るい廊下
暁月くもり「分からないよ」
暁月くもり「何が良くて、何が悪いかなんて」
???「・・・暁月さん?」
春風ひまわり「授業始まっちゃうよ」
暁月くもり「・・・」
春風ひまわり「あっ、今朝はごめんね。私、急いでて前見てなくて・・・」
暁月くもり「・・・春風さんって良い子だよね」
春風ひまわり「良い子?」
暁月くもり「苦しくない? その生き方」
春風ひまわり「え、何が・・・」
暁月くもり「私が悪い子にしてあげるよ」
春風ひまわり「え」
春風ひまわり「何してるの!?」
暁月くもり「痛い! やめてよ春風さん!」
暁月くもり「誰か! 誰か助けて!」

〇明るい廊下
女の子「ひどい・・・」
男の子「春風・・・お前」
春風ひまわり「・・・」
暁月くもり「ぐすっ」
男の子「春風って悪いやつだったんだな」
男の子「金槌で殴るのはやばすぎ」
女の子「最低」
春風ひまわり「・・・ごめんなさい」
春風ひまわり「暁月さんとは喧嘩になっちゃって、それで」
暁月くもり「え」
先生「おいどうした!」
先生「暁月! 血が出てるじゃないか! 早く保健室に!」
春風ひまわり「先生、ごめんなさい」
先生「・・・」
先生「後で職員室に来なさい」
男の子「なんだ。喧嘩か」
女の子「ひまちゃんって喧嘩とかするの!?」
女の子「すっごい意外!」
男の子「確かに。意外な一面だな」
春風ひまわり「ごめんね、暁月さん。痛かったよね」
春風ひまわり「一緒に保健室行こう」
暁月くもり「・・・」
男の子「雨降って地固まるだな」
男の子「なんそれ?」

〇階段の踊り場
春風ひまわり「暁月さん、保健室そっちじゃないよ」

〇屋上の入口
春風ひまわり「待って。屋上は立ち入り禁止・・・」
暁月くもり「人望、厚いんだね」
春風ひまわり「え?」
暁月くもり「私も、本当はあなたみたいになりたかった」
春風ひまわり「ちょ、ちょっと!」

〇フェンスに囲われた屋上
春風ひまわり「待って」
暁月くもり「もう私は何をしたら良いのか分からない」
暁月くもり「何をしたら良くて、何をしたら悪いのか」
暁月くもり「もう全部・・・終わらせよう」
春風ひまわり「えっ」
春風ひまわり「やだ、うそ」
子猫「あーあ。この高さから落ちたら助からないね」
春風ひまわり「猫さん?」
春風ひまわり「・・・」
春風ひまわり「っ」
子猫「もう遅いよ」

〇血しぶき
  下を覗くと、ぐしゃぐしゃになった彼女の姿があった
  私は思わず、その光景に目を背けてしまった
  どうしてこうなったんだろう。幼い私はわけも分からず、ただ目の前の事実に狼狽えるだけだった

〇フェンスに囲われた屋上
春風ひまわり「う・・・」
子猫「人間って脆いよねえ。身も心も」
春風ひまわり「どうしよう・・・私のせいかな」
子猫「君のせいかもねえ。君が良い子すぎるのがいけないんだよ」
子猫「良い子でいても良いことなんて何もないよ」
春風ひまわり「ぐすっ」
子猫「そんな君に朗報です。僕なら彼女の命を救えるけど、どうする?」
春風ひまわり「え?」
子猫「君には今朝助けられたからさぁ。そのお礼がしたいんだよね」
春風ひまわり「できるの?」
子猫「できるよ。でも一つ条件がある」
春風ひまわり「条件?」
子猫「奇跡には相応の対価が必要で、その対価とは俗に言う“人間の業”なんだけど──」
子猫「君は“業”が足りないからねえ。さぞ“徳”ばかり積んできたんだろう」
子猫「だから僕の出す条件とはつまり──」
子猫「君が悪人になること」
春風ひまわり「悪人・・・」
子猫「君が悪人になれば、彼女を──暁月くもりを救うことができる」
春風ひまわり「どうやって、なるの?」
子猫「方法はいくらでもあるさ。とりあえず今は「悪人になる」という誓いだけ果たそうか」
春風ひまわり「・・・」
春風ひまわり「わかった。なるよ」
子猫「契約成立だね。ちなみにこれは“業”の前借りだから、きちんと返済しないと君にとって最悪の未来が訪れるよ」
子猫「まずは“日頃の行い”を改めることだね」
春風ひまわり「日頃の行い・・・」
子猫「君は良い子すぎるからね〜」
子猫「頑張って悪い子になりなよ〜。友達でもないただのクラスメイトのためにね〜」
春風ひまわり「友達かなんて関係な──」

〇通学路
春風ひまわり「──いっ」
春風ひまわり「暁月さん!」
春風ひまわり「良かった! 生きてたんだね! さっきはどうなることかと」
暁月くもり「・・・」
春風ひまわり「大丈夫? 立てる?」
暁月くもり「触らな──」
春風ひまわり「暁月さん!」
春風ひまわり「え、やだ、うそ」
子猫「転んだ子に手を差し伸べるなんて善行、していいと思ってるの?」
子猫「君は悪人にならなきゃいけないんだ」
子猫「今回はサービスするけど、次はないからね」

〇通学路
春風ひまわり「あ、」
春風ひまわり「あ、あ」

〇学校脇の道
  怖い
  私は夢でも見ているの?
  悪人って何? 最悪の未来って何?
女の子「うう」
春風ひまわり「えっ」
春風ひまわり「しほちゃん、どうしたの!?」
女の子「家の鍵を落としちゃって・・・」
春風ひまわり「それは大変! 私も一緒に探すよ!」

コメント

  • 悪魔の書を開いてしまった。これは怖いです。業と聞いただけで深い、見たくないけど見たいような、ドロドロドラマなんだろうなぁ。癖が強い!

  • ハッピーエンドといっても色々ありますもんね…。どんなラストになるのか今から楽しみです。白くて小さくて喋る生き物にやっぱりロクな奴はいない!

  • 意に反して業を積むなんて考えただけで恐ろしいですね😱
    悪人が徳を積む方がまだ簡単な気がします。いい子だから心配……。

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