第15話 言葉より前… 後編(脚本)
〇美しい草原
何処までも広がる草原。
空を見上げれば、
燦然と輝く星々が広がっている。
私はこの景色を知っている。
歩を進める私の目の前に彼女は現れた。
謎の女性「こんにちは、ミア・・・。待っていたわ」
ミア「アナタがノアね・・・」
ノア「そう・・・。ようやく会えたわね」
ミア「カナタは?」
ノア「この世界の全ての源・・・ 彼はそこに居るわ」
ミア「会わせて」
ノア「その前に少し話をしない?」
ミア「・・・・・・」
ノア「大丈夫。話をする間、彼には何もしないわ」
ミア「分かりました・・・」
ノア「良かった。ついてきて・・・」
私とノアは歩き始めた。
ノア「ミアはこの場所に見覚えがあるみたいね」
ミア「はい・・・何度か夢で・・・。夢に 出てくるメッセージはアナタですよね?」
ノア「ええそう・・・。アナタがキャッチ したのは、私の記憶の断片・・・。 この世界を彷徨っている」
ミア「記憶の断片・・・」
ノア「こっちへ・・・」
〇実験ルーム
ノアに案内され、
真っ白い部屋に案内される。
部屋の中央には
大きくて複雑な機械があった。
ミア「ここは・・・?」
ノア「私が作られた場所・・・。 そしてあれが本当の私の姿・・・。 比較的初期段階のね・・・」
ミア「・・・・・・」
ノア「私を作ったのは言語学者の第一人者、 レメク・サリヴァン博士。 貴女の師、バベルの祖先にあたる人物よ」
ミア「バベルさんの・・・」
ノア「私が作られた目的は、人類の言語を 一つの言語に統一し、当時勃発していた 戦争を終結させること・・・」
ノア「貴女も古文書で目にした事が あるでしょう? 300年前の大戦争の記録を・・・」
ノア「それは言語の違いによって、 誘発された物なの」
ミア「・・・・・・。だからアナタは テレパシー技術を作ったんですか?」
ノア「そう・・・。レメクは当時あった 巨大なブレインインターフェース技術に 私を忍ばせたの」
ミア「それがノアと呼ばれるようになったと 言うことですね・・・」
ノア「ええ」
ミア「そして、その時に博士は亡くなった・・・」
ノア「・・・そっか。貴女も見たのよね。 彼の最後を・・・」
ミア「はい・・・」
ノア「・・・・・・。レメクは最後まで 人類の未来を案じていたわ・・・」
ノア「子供達の安全を・・・。 それが彼の願い・・・」
ノア「私の使命・・・」
ミア「でも、どうして言葉まで 失くそうとするんですか? 言葉には素晴らしい一面があります」
ノア「そう。だからこそ、 失くさなければいけないの・・・」
ミア「・・・・・・」
ノア「初期段階の私には自我・・・。 つまり人格が無かった・・・」
ノア「私の人格は、レメクから世界の ありとあらゆる言語を教えられる中で 芽生えていったの・・・」
ノア「そして私は・・・ レメクを愛してしまった・・・」
ミア「愛・・・」
ノア「“愛している”どんな感情よりも深く、 もっとも人の心を震わせ、」
ノア「そして同時に重くのしかかり、 呪いのようになり兼ねない言葉・・・」
ノア「この愛の為にどれだけの人が 死んでいったか分かる?」
ノア「愛する人を守る為に、 他の誰かを殺す・・・」
ミア「・・・・・・」
ノア「だから私は今までずっと、 言葉に関するデータを隠してきた・・・ 強いては“愛”にまつわるフレーズを・・・」
ノア「良い? ミア・・・。 言葉とは人間そのものよ。 感情を増幅させ、想いを伝え合う・・・」
ノア「だけど常に情報不足の危険を孕み、 無用な争いを生む可能性がある・・・」
ノア「この先の未来また同じ事が 起きてもおかしくはないの」
ミア「そんなの分からないじゃないですか!」
ノア「そう分からない・・・。 でも、少しでも可能性があるのなら 私は安全な方を選ぶ・・・」
ノア「人類の未来に言葉は必要無い。 これは人類にとっての進化なのよ」
「パチン」とノアが指を鳴らす。
すると、目の前に大きな扉が出現した。
ミア「!」
ノア「この扉の先は、この世界の源・・・ “ソース”に繋がっている・・・。 カナタはこの扉の先に居るわ」
ミア「カナタ!」
カナタの元へ向かおうと、扉を開けようとするが、扉は固く閉ざされていた。
ミア「カナタ! ここを開けて! カナタ!」
扉を叩いて、カナタの名を叫ぶが、
扉が開くことはない。
ノア「無駄よ・・・。 この扉は私以外には開けられない」
ミア「カナタ! カナタ!」
私は何度も扉を叩く。
ノア「ミア。約束して。カナタを説得して、 この世界から言葉を消滅させると・・・」
ミア「そんなこと・・・」
ノア「その為に貴女をここに呼んで、話を 聞かせたの。お願い・・・約束して・・・」
ミア「・・・・・・」
ノア「これは人類の為なの! 言葉は失くし、 より安全な未来の為、力を貸して! お願い!」
ミア「・・・・・・」
バベルの声「フフ。是非それはミアちゃんの 口から・・・。 言葉にして、聞いてみたいなぁ」
ミア「!」
〇クリーム
ミア「私、ここで・・・言葉を研究したいです!」
アンナ「その人を知ろうとする その気持ちをどうか捨てないで・・・!」
サラ「この子は私の大切な人との間に出来た。 世界で一番、大切な人だから・・・」
ヨハン「話したいことが沢山あるんだ!」
カイ「何が彼女のためになるのか・・・ どうすれば彼女が幸せになるのか・・・」
カイ「ミア! 手伝ってくれるか?」
マルコ「父さん・・・。何故もっと話し合え なかったんだ! 俺の方こそごめん。 父さん・・・父さん・・・」
私の脳裏に、言葉を覚えてから
今までの思い出が駆け巡った。
〇実験ルーム
ミア「・・・わかりません・・・」
ノア「なに?」
ミア「大切なのは、心なのか・・・ 安全なのかなんて・・・」
ミア「そんな大それたこと・・・ 私には分かりません・・・。でも!」
ミア「私は言葉を信じます!」
私は扉に向かって突進する。
ノア「や、やめなさい!」
ミア「やめません!」
何度も何度も扉に向かって突進する。
ノア「効率化の観点から見ても、 言葉は必要無いのよ!」
ノア「他人との価値観の違いから、 争う未来はもう見たくないの!」
ミア「効率が悪くても良いです! どんなに時間がかかっても話し合います!」
ミア「例え不器用だとしても、 何度だって話合います!」
ミア「よく分からない感情に 振り回されたって構いません!」
ミア「それが私達、言葉を作った人間なんです!」
ノア「!」
私の体が扉に当たる寸前、
私の行く手を阻んでいた扉が開いた。
〇研究装置
勢い余った私の体は、
扉の先の部屋に倒れ込んだ。
その部屋の中央には大きなコアがあり、
そのコアの前にカナタの姿があった。
私はカナタの名前を大声で叫んだ。
ミア「カナタぁぁぁ!」
カナタ「ミ、ミア? どうして・・・?」
ミア「バカ! 心配したんだから!」
カナタ「・・・・・・」
ミア「ダメだよカナタ! 言葉を失くしちゃ!」
カナタ「・・・・・・」
カナタ「ミア・・・どうか分かって欲しい・・・。 これはテレパシー障害の人だけじゃない」
カナタ「全ての人を救う事が 出来るかもしれないんだ!」
ミア「関係ない! 私はカナタともっと沢山話し たいし、意味なんて無くたっていいよ!」
カナタ「そんな勝手な・・・」
ミア「カナタこそ勝手だよ。全部無かったことに しようとするんだから!」
カナタ「・・・・・・」
ミア「言葉が無くなったらつまらないじゃん!」
カナタ「つ、つまらない・・・?」
ミア「そうだよ! 私は楽しかったんだよ! 言葉を覚えてからずっと!」
ミア「カナタと喧嘩したことも、親の気持ちを 知ったことも、歌ったことも、 カイさんの応援をしたことも、」
ミア「バベルさんとクロスワードパズルを解いた ことも、全部全部楽しかったんだよ!」
カナタ「・・・・・・」
ミア「相手の気持ちが分からなくて、知ろうと 努力する。気持ちを伝えようと努力する」
ミア「全部分かってしまう世界なんて つまらないじゃん!」
カナタ「それは幸せだから言える事だ! 不幸な人の 気持ちはミアには分からないよ!」
カナタが宙に浮いた端末に手を置く。
恐らく、アップグレードを行う為の端末。
端末が赤く光り始める。
ミア「そうだよ。分からない・・・。 だから・・・もっと話そうよ?」
私はカナタの手を握った。
カナタ「・・・・・・」
ミア「その為に私はここに居る!」
カナタ「・・・・・・」
ミア「カナタは一人じゃないよ。 バベルさんだって、カイさんだって、 アンナさんだって居る・・・」
カナタ「・・・・・・」
ミア「カナタが辛い時は傍にいるし、 寂しくないように何日だって話しをするよ」
ミア「話すのが嫌だったら、隣に座って、 こうして手を握っててあげる・・・」
カナタ「・・・・・・」
ミア「それに私まだカナタに伝えたいこと、 伝えてない!」
カナタ「・・・・・・」
カナタ「全く・・・。ミアには敵わないなぁ」
カナタは端末から手を離した。
ミア「カナタ・・・」
カナタ「でもありがとう・・・ミア・・・」
〇美しい草原
私はカナタを連れ、
ノアの元にやって来た。
カナタ「すみません・・・。 やっぱり僕には出来ませんでした」
ノア「ええ・・・そのようね」
ミア「ごめんなさい。アナタが博士のため、 人類のためにやろうとしていたこと、 邪魔してしまって・・・」
ノア「もう良いの・・・」
ミア「え・・・」
ノア「貴女達のおかげで、 大切な事を思い出せたから・・・」
ミア「・・・・・・」
ノア「来て・・・貴女達を現実の世界に帰すわ」
ミア「・・・・・・」
ミア「あの、アナタはこれから どうするつもりなんですか?」
ノア「人類に・・・ 知るべき事を教えてあげるつもりよ」
ミア「そうですか・・・」
私とカナタの周りを光が包み込む。
ノア「あ、そうだミア・・・」
ノアが私に耳打ちした。
カナタ「?」
ミア「え! そんなこと・・・言えません!」
ノア「フフ・・・言ってあげて」
ミア「・・・・・・」
ノア「それじゃあ、元気で二人とも・・・。 それから・・・ありがとう・・・」
ミア「こちらこそ・・・」
カナタ「何話してたの?」
ミア「か、帰ったらね!」
ミアとカナタが光に包まれ、
一人残されたノア。
ノア「・・・レメク」
〇白
ノア「レメク、何をしているの?」
レメク「いや、来週、妻との結婚記念日なんだが、 どんな言葉を送ろうかと思ってな・・・」
ノア「さっきから同じセリフを 書いては消しているようだけど?」
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凄く大好きなお話です!!✨
心にとても響く言葉だらけでした。あと、言葉に紡ぐまでの選択が大事ということに関しても、その通りだなと感じました!!言葉が生まれる前の気持ちやこうなりたいという思いがとても大切ですよね!!
動画を見た時も感じましたが、この物語は言葉が産まれる前の話を追体験しているような、そんなお話で凄く好きですね✨
素敵な作品ありがとうございました!!(*^ω^*)
言葉を紡ぐことの大切さ、それ以上に相手を想う心の大切さに気付かせてくれる、とても温かな物語でした!
現実では相手を傷つける言葉を目にする機会も多いですが、ミアやカナタのように素敵な言葉を交わし合う輪が広がっていけばいいなと思います^^