第1話(脚本)
〇貴族の応接間
第1話
母親「まあ、テシウス! まだそんな格好でいるなんて・・・・・・ 早くタイをしなさい」
テシウス「お母さま・・・・・・ その、結び方が分からなくて・・・」
母親「そんな服装では伯母さまのお茶会には 連れていけないわ。 お兄さまを見てごらんなさい」
ユリアス「お母さま、 僕がテシウスの支度を手伝います さあ、テシウス。この間教えてあげたよね?」
テシウス「う、うん・・・・・・」
母親「テシウス、あなたはいつまで そうやってお兄さまに面倒をみてもらうつもりなの。あなたは家に残りなさい」
テシウス「すみません、お母さま・・・ お願いだから、置いていかないで」
母親「いいえ。 今日と言う今日は許しませんよ いつまでもお兄さまに頼りきりで・・・」
ユリアス「お母さま、 あまりテシウスを叱らないでやってください。ほら、こうして・・・」
ユリアス「できた。 お母さま、これならいいでしょう?」
母親「もう・・・仕方ないわね。 テシウス、今度からは時間までに 必ず支度をするのですよ」
テシウス「はい!」
母親「まったく、あなたももう少しユリアスのようにしっかしてくれたら・・・」
ユリアス「お母さま、お小言はそれくらいに・・・ 馬車の準備ができたようですよ」
母親「そうね、では、行きましょうか・・・」
テシウス「兄さま、ありがとう・・・」
ユリアス「いいんだよ。 さ、僕たちも行こう。 急がないとまた叱られるよ」
テシウス「う、うん・・・・・・」
──幼いころから私はいつも、
二つ年上の兄、ユリアスと一緒にいた。
私はあまり気が回るたちではなかったので、よく両親に叱られては泣いていた。
その度に兄は私を庇ってくれた
兄は両親の一番の自慢であり、
学校ではいつも主席。そして評判の美男子だった。
それに引きかえ、私ときたらー
テシウス「・・・またお母さまに怒られちゃった・・・」
〇洋館のバルコニー
母親「伯母さま、今日はお招きありがとうございます」
伯母「まあ、来てくれて嬉しいわ。 あなたの子供たちも随分大きくなって・・・」
母親「ええ。 もう、12歳と、10歳になりました。 ふたりとも、伯母さまにご挨拶を」
ユリアス「ご機嫌いかがですか、伯母さま。 兄のユリアスです」
テシウス「テ、テシウスです・・・・・・」
伯母「まあ、きちんとしてること。 ユリアスは背も伸びたわねえ」
伯母「あとでお菓子をあげましょうね」
ユリアス「ありがとうございます」
母親「ところで伯母さま、 伯父さまはどうなさったの? お姿が見えないようだけど・・・」
伯母「ああ、あの人はその・・・・・・ ちょっと頭痛がするから休むと言って・・・西の離れの方にいるの」
母親「まあ、大丈夫なのかしら」
ユリアス「心配です。 僕、あとで様子を見にいってみましょうか」
伯母「あ、いえ・・・いいのよ。 いつもの持病だと思うわ。少し休めば治るから」
テシウス「西の離れって・・・ 前に、兄さまが言っていたブランコがあるところ?僕も、乗ってみたいなあ・・・」
母親「テシウス。ダメですよ。 伯父さまの具合が良くないのに そんなことばかり・・・」
テシウス「ご、ごめんなさい・・・つい・・・」
伯母「いいのよ。 また伯父さまが元気になったら、 乗せてもらいましょうね」
ユリアス「テシウス、あっちで詩の朗読が始まるよ。 一緒に聞きに行こうよ」
テシウス「う、うん・・・」
ユリアス「それでは伯母さま、失礼します」
テシウス「し、失礼します」
母親「伯母さま、すみません。 テシウスが失礼なことを・・・」
伯母「いいのよ。 子供らしくてかわいいわ」
伯母「うちにも子供がいれば、今頃は楽しかったんでしょうけど・・・」
伯母「そうすれば、あの人もあんなものには夢中にならなかったかもしれない・・・」
母親「あんなもの・・・?」
伯母「なんでもないのよ。 さあ、お茶を頂きましょう」
〇洋館のバルコニー
詩人「おお、春の宵よ 香る恋の花よ あなたは私の胸を焦がす あの月のように美しい・・・」
テシウス(全然分からない・・・つまらないなあ・・・・・・)
ユリアス「ねえ、テシウス・・・・・・ 西の離れへ行ってみない?」
テシウス「えっ」
ユリアス「あそこは広いから、 伯父さまには会わないだろうし・・・ テシウスだって退屈だろ?」
テシウス「で、でももし見つかったら・・・」
ユリアス「その時は僕がうまいこと 言い訳するよ」
テシウス「だ、だけど・・・」
詩人「ああ、どうして 水面に映るあの人は 私を見つめてはくれないのか 揺れる三日月のようなその心・・・!!」
ユリアス「君がブランコより、 この詩の方が好きなら 僕ひとりで行くけど・・・・・・」
テシウス「い、いや好きなもんか! 僕も行く!!」
ユリアス「決まりだね。 それじゃ、こっそり抜け出そう」
詩人「うるわしき月の乙女よ 我がヴィーナスよ・・・!」
〇古い洋館
テシウス「こ、これが西の離れの館・・・? なんだか雰囲気が・・・」
ユリアス「そうだね。 なんだかあまり手入れもされてないみたいだ」
テシウス「ねえ、やっぱり戻らない?」
ユリアス「まったく、テシウスは怖がりだな。 ブランコを探そうよ。 確か温室の近くに・・・・・・」
テシウス「に、兄さま~・・・・・・」
──どれほど時間が経っただろう。
テシウス「兄さま、ブランコも見つからないしもう戻ろうよ」
ユリアス「あっ!あ、あれ・・・」
テシウス「な、何!?」
ユリアス「あ、あそこ・・・・・・」
──ユリアスが指さした方を見ると・・・
二階の窓から、僕たちを見ている
ひとりの少女がいた
テシウス「あの女の子は・・・・・・?」
ユリアス「すごく・・・綺麗な子だ・・・」
テシウス「いなくなっちゃった・・・」
ユリアス「一体だれなんだろう・・・?」
アダム「誰だ!そこで何をしてる!!」
テシウス「ひゃあっ」
ユリアス「お、伯父さま・・・・・・?」
アダム「なんだ・・・お前は、ユリアスか・・・?とすると、そちらはテシウスだな。こんなところで何をしてる」
ユリアス「申し訳ありません、伯父さまのご気分が良くないと聞いたのでお見舞いに・・・」
アダム「私なら別に何ともない」
テシウス「だ、だけど伯母さまはそう言ったんです。 西の館で休んでいらっしゃるって」
アダム「そうか・・・。 そんなことはどうでもいい。この館に近づくな」
アダム「二度とな!」
ユリアス「は、はい!!分かりました」
アダム「分かったらさっさと行け」
テシウス「は、はい・・・!ごめんなさぁ〜い!!」
アダム「・・・ちょっと待て。お前たち、ここで何か見たか?」
テシウス「な、何かって・・・?」
ユリアス「何も!何も見ていません。伯父さま!」
アダム「・・・ならいい」
テシウス「ねえ、さっきの子・・・それに、伯父さまってあんな方だったっけ・・・?」
ユリアス「いいから早くここを離れよう!行くぞテシウス!」
テシウス「う、うん・・・」
──こうして私たちは慌ただしくその場を離れた。
温厚だった伯父の変わり様と、 窓際に佇む美しい少女のちぐはぐなコントラストは、いつまでも心に残って離れなかった。
──思えばこれが、僕たちふたりとマリーの初めての出会いだったのだ
2話へ続く・・・
こんにちは!福山詩と申します
詩の朗読や温室、タイを結ぶシーンの絵柄の使い方などヨーロッパのゴシックの世界観がイメージしやすくそこで生活する人々が思い浮かびました!
女の子を兄弟でみて すごくきれいな子だ って、なんかドラマ生まれそうな感じとてもしてわくわくしました!
兄弟、親子、家族、親戚とそれぞれの関係に問題や謎がどんどん出てきそうと予感させるプロローグでした。舞台にヨーロッパの雰囲気があるのがよりストーリーを魅力的にしていると思います。
えーっ!ここで続く?あの女の子は⁉︎すごく気になります!