怪異探偵薬師寺くん

西野みやこ

エピソード16(脚本)

怪異探偵薬師寺くん

西野みやこ

今すぐ読む

怪異探偵薬師寺くん
この作品をTapNovel形式で読もう!
この作品をTapNovel形式で読もう!

今すぐ読む

〇木造校舎の廊下
  昼休み。薬師寺に呼び出され、俺は旧校舎へと来ていた。
  旧校舎の廊下は、窓から差し込む光に照らされて明るい。
  夕方の不気味さが嘘のようだ。
  図書館を目指して歩きながら、俺は1週間前のことを思い出していた。
  もしもあのとき薬師寺がいなければ、スワは死んでいたかもしれない。
  今までも薬師寺に助けられた場面は多いが、それらはそもそもの原因が薬師寺であることがほとんどだった。
  しかし前回は別だ。
  薬師寺がいなければ、スワはきっと誰にも打ち明けることはなかっただろう。
  スワの件で俺は薬師寺を少しだけ見直した。
茶村和成(まあ、それ以外は靴下は脱ぎっぱなしだし弁当に詰める予定だったおかずは勝手に食べるしで問題点ばっかりだけど・・・)

〇木造校舎の廊下
  4階にたどりつき、見慣れた図書館のドアの前に立つ。
  手をかけようとすると、中から話し声が聞こえた。
  首を傾げつつも、ドアを開ける。

〇古い図書室
茶村和成「薬師寺? だれか来てるのか?」
  返事はない。
  そのまま図書館の奥まで進むと、ふたつの人影が目に入った。
  ソファに腰を下ろす薬師寺と、薬師寺に向かい合って座る男。
  男の姿を見て、思わずドキリとした。

〇古い図書室
  くびれた茶のジャケットとシャツ。
  左目の上には、大きな傷跡が走っている。
  けだるげな雰囲気と、それに似合わない鋭い眼光が印象的だった。
薬師寺廉太郎「あ、茶村。紹介するよ。 この人は刑事の八木(やぎ)さん」
茶村和成「・・・け、刑事?」
  こいつ、なにかやらかしたのか?
  背中にひやりと汗が伝う。
  八木と呼ばれた男はジャケットに手を突っ込み、なにかを取り出した。
八木要「ご紹介の通り、俺は八木。 正真正銘の刑事だよ」
  開かれた刑事手帳には、たしかにこの男の写真が載っていた。
  八木が手慣れた様子で手帳をしまう。
八木要「・・・で、君が茶村か」
茶村和成「・・・?」
  じろじろと値踏みするかのような八木の視線が俺へ向けられる。
  その不遜(ふそん)な態度に、思わず顔をしかめた。
  立ち上がった八木は思ったよりも大きく、軽く180cmはありそうである。
  すれ違いざま、ジャケットから染み付いた煙草のにおいがした。
八木要「じゃ、薬師寺。 例の件については頼んだぞ」
薬師寺廉太郎「は〜い」
  八木はドアの前で立ち上がり、そう言い残して図書館から出ていった。だんだんと足音が遠のいていく。
  俺は八木が先ほどまで座っていた場所に座って、薬師寺に尋ねた。
茶村和成「で?」
薬師寺廉太郎「え?」
茶村和成「なにしに来たんだ? 今の人」
薬師寺廉太郎「あ〜、依頼だよ」
茶村和成「?」
  怪訝な表情をする俺に、薬師寺が補足する。
薬師寺廉太郎「んー、警察に持ち込まれる事件や事故の中にたまにあるんだ」
薬師寺廉太郎「明らかに人間以外の、なにかの力が働いていること」
薬師寺廉太郎「そういうときは八木さんから俺に話がくるってわけ」
  薬師寺は、頭につけている狐面を指差した。
  ・・・そういえば、初めて会ったときに“怪異探偵”とか名乗ってたっけ。
  変なこじらせかと思ってたけど、本当にそういうことしてたのか・・・。
薬師寺廉太郎「あ、茶村のことは助手だって紹介しておいたから」
茶村和成「・・・ちょっと待て。 いつ誰がお前の助手になった?」
  薬師寺はえへ、とだらしなく頰を緩めた。
  八木の意味深な眼差しを思い返して、呻(うめ)きながら頭を抱える。
  薬師寺の助手なんて、そりゃ変なやつだと思われるよな・・・。
薬師寺廉太郎「ちなみに今回の依頼はねー」
  薬師寺はスッと人差し指を立て、勝手に話を進めていく。
薬師寺廉太郎「こんな話があってね?」
  5年ほど前——あるホテルの一室で殺人事件が起きた。

〇ビジネスホテル
  宿泊したのはカップルで、女が浮気したと勘違いした男が逆上。女を殺してしまった。
  女の死因は、首絞めによる窒息だったが、隠蔽(いんぺい)を企んだ男が刃物を持ち込み死体をバラバラにした。
  小分けにされた女は川に捨てられたが、突発的な犯行で粗が多く、すぐにバレて男は逮捕された。
  しかし事件はこれで終わらなかった。
  その後、逮捕された男が獄中で目を見開いたまま泡を吹いて死んでいるのが見つかった。
  そしてこの出来事以来、犯行現場の部屋に異変が起こるようになった。

〇ダブルベッドの部屋
  数ヶ月後、清掃されてすっかり元通りになった部屋に、別のカップルが宿泊した。
  翌日、チェックアウトの時間になっても姿を現さないふたりを不審に思った従業員が様子を見に行った。
  ベルを鳴らしたが返事はなく、部屋をマスターキーで開けると、室内には喉をかきむしって死んでいるカップルの遺体があった。
  あまりの気味の悪さに、犯行現場の部屋はいわくつきとして封印されることになった。
  だがしばらく経ったある日、新人が間違えてとある夫婦にその部屋を手配してしまった。
  気づいた従業員は、夫婦に部屋の変更を申し込んだが、面倒くさいと断られてしまう。
  ・・・翌日、夫婦は遺体で発見された。
  ホテルの従業員はただの偶然ではないと思い、現場検証に来た警察に相談した。

〇古い図書室
薬師寺廉太郎「・・・で、八木さんのとこに話がきて、それから俺に話がきたんだ」
薬師寺廉太郎「だから茶村、今日の放課後・・・」
茶村和成「断る」
薬師寺廉太郎「ええ〜? まだなにも言ってないのにぃ」
茶村和成「もう囮にされるのは散々だっての!」
茶村和成「だいたい、今日は稽古もあるし・・・」
薬師寺廉太郎「それなら大丈夫だよぉ。 師範さん、昨日から旅行行ってるもん」
茶村和成「・・・なんでお前が、そんなこと知ってるんだよ」
薬師寺廉太郎「茶村がお風呂入ってるときに電話がきてね、出ちゃった」
茶村和成「・・・はあ」

このエピソードを読むには
会員登録/ログインが必要です!
会員登録する(無料)

すでに登録済みの方はログイン

次のエピソード:エピソード17

成分キーワード

ページTOPへ