キーリングタイムズ~女神達の下らない戯れ~

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エピソード1(脚本)

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〇電脳空間
  ああ・・・退屈だ・・・
  私──多田羅タララはあまりの退屈さにあくびをした。
  しかし、周りの少女達は真剣そうな表情で壇上に立ち演説をする男を見つめている。
  壇上に立つ男──彼に名前はない。
  ただ、しいて言うなら、全てを統べる”創造主A”だ。
創造主A「君たち女神候補生は選ばれし存在だ!」
創造主A「何故なら私が直々に造り、新たなる創造主になる為の”餌”だからだ!」
  女神候補生「ワー!ワー!」
  明らかにオカしい創造主Aの言葉に私以外の女神候補生は黄色い声を上げる。
多田羅タララ「狂ってんな・・・」
  私はそう思いながらも創造主Aの話を聞き流す。
創造主A「君たちは今から私が造ったゲーム盤α──愛其学園で目を覚ますことになる!」
創造主A「そこで君たちは互いに競い、高め合いたまえ!」
創造主A「そして・・・最も優秀な女神候補生には”女神”となってもらう!」
  女神候補生「ワー!ワー!」
創造主A「女神となった者は男神とつがいになり、男神が新たなる創造主へと昇華させるのが使命だ!」
創造主A「皆、覚悟を持って学び、そして糧となれ!」
  女神候補生「ワー!ワー!」
  辺りが熱狂する中、私だけが冷めていた。
多田羅タララ「つまらないことに巻き込まれたもんだ・・・」
  そう、私は本来こんなところにいる存在ではない。
  しかし、まあ──色んなことが巡り巡ってこんな訳のわからない世界に飛ばされたわけだ。
創造主A「それでは行け!女神候補生達よ!新たなる世界のために!」
  女神候補生「ワー!ワー!」
多田羅タララ「はぁ・・・やれやれ・・・」
多田羅タララ「せめてでも何か面白いことでも起きないもんかね・・・」
  私は諦めにも似たため息を吐いた。
  そして、次の瞬間、世界は真っ白になった──

〇フェンスに囲われた屋上
  ──愛其学園屋上
  ・・・私が目覚めてどれくらいの時間が経っただろうか?
多田羅タララ「・・・ふあーあ」
  屋上でいつものように昼寝をしていた私は目を覚ました。
  いつの間にか日も傾いており、午後の授業か、遠くの体育館からボールをつくような音が聞こえてくる。
多田羅タララ「今日も退屈だったな・・・」
  ここ愛其学園で目覚めてはや数か月が経とうとしていた。
  他の女神候補生は色々頑張っているようだが、一方、私は全く何もやっていなかった。
多田羅タララ「だーれが、創造主なんぞに従うかよ!」
  そう、私は創造主の言う”女神レース”にこれっぽちも興味がなかった。
多田羅タララ「と、言っても・・・何もしないままでこのまま終わるのも癪だな・・・」
多田羅タララ「想像以上に他の奴らも真面目にやってるみたいだし・・・」
多田羅タララ「「・・・・・・・・・・・・・・・・・」」
多田羅タララ「ここはいっちょゲーム盤をぶち壊してやりたくなってきたぞ。」
  そう、いい加減私は退屈していたのだ。こうもただただ屋上で寝ているのも私らしくない。
多田羅タララ「けど、何か・・・何か面白そうなおもちゃはないかな・・・?」
  私は適当に屋上から地上を見下ろす。
多田羅タララ「ま、そんな簡単に見つかるわけないか・・・」
多田羅タララ「・・・ん?」
  ふと校舎裏の方に何か人影が見えた。
  現時刻はまだ授業時間のため、真面目な生徒──つまり私以外は校内をうろつかない。
  そして、その人影はそのまま校舎裏の陰に消えていった。
多田羅タララ「ふん、なかなか面白くなりそうかもな。」
  私は屋上の地面を蹴り、そのままフェンスを飛び越えた。
多田羅タララ「さぁて、どんな面してるか拝ませてもらおうかね♪」
  地面にストンと着地すると、私は久々に笑みを浮かべている自分に気づいた。

〇教室の外
  ──愛其学園校舎裏
多田羅タララ「おーい、そこのあんた何してんだ?」
天門冬祥子「・・・・・・・・・・・・・・・」
多田羅タララ「・・・おーい?」
天門冬祥子「はっ!? すみません、私ですか!?」
  どうやら声を掛けられたのを気づいてなかったらしい。
多田羅タララ「そうだよ。今、授業中だけど何してんの?」
天門冬祥子「じゅ、授業ですか・・・?」
多田羅タララ「そうだよ。体調でも悪いのか?」
  私が聞くと、その謎の少女はぽかんとこちらを見つめていた。
多田羅タララ「何だ・・・? 私に何かついてるか?」
天門冬祥子「い、いえ・・・そうではなくて・・・」
  謎の少女は歯切れも悪く、恐る恐る私に聞く。
天門冬祥子「あの・・・入学式の会場はどちらでしょうか・・・?」
多田羅タララ「は、はぁ!?」
多田羅タララ「お前、今がいつか分かってんの!?」
天門冬祥子「すみません・・・実は私、入学式の日に会場に行こうと思ってずっと迷ってたんです・・・」
  私は一瞬めまいがした。
  私たちがここ愛其学園で目覚めた日──つまり入学式から既に数か月が経過している。
多田羅タララ「いや、もうとっくの昔に入学式終わってるよ。入学式は向こうの体育館であったけど、今は体育の授業中だ。」
天門冬祥子「え、そ、そうだったんですか・・・? うわーん、残念だなぁ・・・」
天門冬祥子「私って本当にドジで・・・何をやっても上手くいかないんだ・・・」
  謎の少女は自虐的に語る。
多田羅タララ「いやいやいや、ドジで済まないだろ・・・」
  既に入学式から数か月が経過している。それなのに、彼女はその間ずっと学園内を彷徨っていたことになる。
  私たちは女神候補生なので疲れは感じないが、よく見ると確かに少女の着ている制服はボロボロだった。
  「「・・・・・・・・・・・・・・・」」
  ──沈黙が落ちた。
天門冬祥子「あ、お名前がまだでしたね。私、天門冬祥子といいます。」
天門冬祥子「この度は私を助けてくれてありがとうございます。」
天門冬祥子「もしあなたがいなければ、私は一生学園内を彷徨っていたかもしれません。」
  そう言って祥子は頭を下げる。
多田羅タララ「い、いや、気にしなくていい。私の名前は多田羅タララ。よろしく。」
天門冬祥子「タララさんですね! よろしくお願いしますー!」
  再び祥子は頭を下げる。
  しかし、こうなんだろう・・・天然? いや、それにしては度が過ぎている。
  それと同時に私はふとワクワクしている自分に気づいた。
  ──ぐううううううう
  突如、校舎裏に獣の唸り声のような音が響いた。
天門冬祥子「あ、あわわ・・・安心したら急にお腹が空いちゃいました・・・」
  そりゃそうだ、愛其学園は広い。女神と言えど飲まず食わずで数か月歩き回ればそうなるだろう。
天門冬祥子「わ、私、食堂でご飯食べてきます!!!」
多田羅タララ「あ、ちょっと!? そっちは食堂じゃないぞ!!」
  私が止めるのもむなしく。祥子は走り出しその場を去っていった。
多田羅タララ「くっ、くそう! あんな面白そうな奴、見逃すわけにはいかない!」
  私もまた地面を蹴り、突如現れた少女を追いかけることにした。

〇木造校舎の廊下
  ────愛其学園生徒会室前
天門冬祥子「あ、あれ? こちらはどこでしょうか?」
多田羅タララ「どちらでしょうか?じゃないよ! ここは生徒会室だよ!」
  ようやく追いついた私は祥子がとある部屋を開けようとしたのを止めた。
天門冬祥子「生徒会室・・・? じゃあつまりはここにご飯はないんですね?」
多田羅タララ「あたりまえだよ!!」
多田羅タララ「はぁ・・・」
  祥子は思いのほか足が速く、私でもなかなか追いつけなかった。
多田羅タララ「ほら私のご飯をやるから、これで我慢しろ。」
  私は祥子に持っていたおにぎりを二つあげた。昼に食べようと購買で買っていたものだ。
天門冬祥子「えっ!? いいんですか!?」
多田羅タララ「ああ、いいよ。私はそれほど腹減ってないし・・・祥子こそ腹減ってるだろ?」
天門冬祥子「わー、ありがとうございます!」
  ガサガサ モチャモチャ
  おもむろに祥子は立ったままおにぎりを貪り始めた。よっぽど腹が減っていたのだろう。
天門冬祥子「おいひいでふ!!!!!」
多田羅タララ「うわっ!? 飲み込んでからしゃべろ! 米粒が飛ぶだろ!」
  ガラッ
  その時、突如私たちが立っている前──生徒会室の扉が開いた。
  ?「ちょっとなんですの!? 騒がしい!?」
  生徒会室から出てきた一人の女子学生は私たちを怒鳴りつける。
西中島柚子「あなた達、ここが愛其学園生徒会だと分かっているのかしら?」
天門冬祥子「ごくん・・・そうだったんですねー? すみません、初めて知りました。」
  おにぎりを飲み込み、無垢に祥子が言う。
  それもそのはず、彼女は体育館の場所すら知らず入学式の日から一人学園内を彷徨っていたのだから・・・。
  しかし、同時に生徒会の女子生徒はピクリと肩を震わせた。
西中島柚子「じゃあ、あなたはここ生徒会がこの学園内で最も賢く──あなたの様な汚らしい子が近寄ってはいけないことも知らないのね?」
天門冬祥子「すみませーん・・・全然知りませんでした。」
西中島柚子「そ、それでも私が学園No.5、西中島柚子ということは流石にご存じでしょう?」
天門冬祥子「すみません、わかんないです!」
天門冬祥子「それにしても柚子って名前おいしそうですね! 私は蜜柑の方が好きですけど・・・」
  「「・・・・・・・・・・・・・・・」」
  ────プチッ
  何かが切れた音がした。
西中島柚子「・・・なるほど。」
西中島柚子「それではちょっとお茶でもいかがかしら? あなたには”この学園の事”をたっぷり教えないといけないようだから。」
  柚子は顔が笑っているが、身体はぶるぶると怒りで震えているのが私には分かった。
天門冬祥子「タララさん、お茶をくれるらしいですよ! 私ちょうど喉も乾いていましたからちょうどいいかもです!」
多田羅タララ「あのなぁ・・・」
  どうやら祥子は全く、柚子の目的に気づいていないようだ。
  この学園の事──それは私達、女神候補生なら普通は誰でも知っているはずである。
  しかし、祥子は入学式をサボったことで掟を全く教わっていないらしい。
多田羅タララ「けど、ま、いいか。どうせ退屈していたし・・・」
多田羅タララ「祥子、折角だからいただいていくか。生徒会のお茶とやらを。」
天門冬祥子「わーい! お茶菓子とかも出ますかねー?」
多田羅タララ「ああ、”たっぷり出る”と思うぞ。」
  祥子は呑気に喜んでいる。
  ま、最悪私が何とかするか・・・
  それにどちらに転んでも面白いしな。
  こうして私たちは柚子の提案を受けることにしたのだった。

〇豪華な部屋
西中島柚子「どうぞいらっしゃいました。我らが生徒会に。」
天門冬祥子「ふわー、すごい豪華なお部屋ですねー」
  祥子は目を丸くして部屋中を眺める。
西中島柚子「そうでしょう、そうでしょう。それではそちらのソファーにおかけになって。」
天門冬祥子「分かりました。えっと、こちらですかね? よっと・・・」
西中島柚子「ん、ああああ!? 待ちなさい! その椅子は!!!!!!!」
天門冬祥子「うわー、すごいふかふかな椅子ですねー。」
  そう、祥子が座ったのは促されたソファーではなく、奥にある立派なチェアーだった。
西中島柚子「ああああああああ!!!!」
西中島柚子「早く!早くあなたそこをお退きになりなさい!!!」
天門冬祥子「わっ!? ど、どうしたんですか!?」
  祥子は半分跳ね除けられる様に椅子から立った。
西中島柚子「こ、この椅子は生徒会長様のもの! あなたのような小汚い子が決して座っていいものではないのよ!!!」
西中島柚子「・・・わ、私だって座ったことないのに!」
  柚子は苦虫を嚙み潰したような顔をする。
多田羅タララ「くくっく、こりゃあ面白いや。」
  私は笑いをこらえるのに必死だった。
  まさかこうもまあ、この学園の中心部にいきなり潜入することが出来、そして奴らをコケに出来ているのだからたまらない。
多田羅タララ「おい祥子、こっちの棚見てみろよ! なんか高そうな物がいっぱいあるぞ!」
天門冬祥子「え、どれどれー?」
  祥子は私に言われるまま棚に近寄ると明らかに高そうな陶磁器のカップを手に取った。
西中島柚子「だ、駄目です!それは生徒会長の大切にしているカップ!触らないでください!」
天門冬祥子「え?」
  急に叫ばれたからか、振り向いた祥子の手からカップがつるりと落ちた。
西中島柚子「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!」
  先ほどまでの余裕からは考えられぬほどの早業で柚子は地面をスライディングしてカップを何とか受け止めた。
多田羅タララ「お、ナイスキャッチ。」
西中島柚子「ナイスキャッチじゃございませんわ!!!」
西中島柚子「はぁはぁ・・・これだから野蛮な愚民どもは・・・」
  柚子は私たちを何とかソファーに追いやることが出来て安どのため息を吐いた。
西中島柚子「ともかく貴方だけはしっかりとおもてなししてあげないとね・・・ッ!」
天門冬祥子「え、それは楽しみです。きっと素敵なお茶とお茶菓子が出てくるんでしょうね。」
西中島柚子「違いますわ! どうしてあなたはそんなにも能天気なんですか!?」
  祥子の天然さに柚子は完全に翻弄されているようだった。
西中島柚子「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
西中島柚子「それではお茶ができるまで少し私とゲームをしませんか?」
天門冬祥子「ゲームですか?」
西中島柚子「ええ、そうよ。簡単なゲーム。もしあなたが勝ったら素敵なお菓子をあげますわよ。」
天門冬祥子「ええ!? 本当ですか!? やります! やらせてください!」
  祥子は二つ返事で了承する。
多田羅タララ「ちょっと待て。」
西中島柚子「何ですの?」
多田羅タララ「もしお前が勝ったらどうなるんだ?」
  そうまだ柚子は自分が勝った場合のことを言っていない。
  私が何故、こんなたかがゲームに対して質問するには理由がある。
西中島柚子「そりゃあ、もちろん・・・」
西中島柚子「少しばかり私のお手伝いをしてもらおうかしら?」
多田羅タララ「なるほど、お手伝い・・・ね」
  柚子はあくまでオブラートに包んで言った。
  しかし、私は彼女の目的がはっきりと分かった。
天門冬祥子「働かざるもの食うべからずですからね! 分かりました! やりましょう!」
  しかし、祥子は全く事態に気づいていないのかあっさりと言った。
西中島柚子「それでは決定ですわね。」
多田羅タララ「ま、いいだろう。」
  最悪、私がなんとかするし。
天門冬祥子「やりましょう! 楽しみですね!」
  祥子は楽しそうに言う。
  心配をしているわけじゃないけど、この祥子の能天気さは本当に危うい。
  だけど面白い。こいつなら何かやらかしてくれるという謎の期待が私にはあった。
西中島柚子「それではいきますわよ・・・」
西中島柚子「『主よ!我らは争うものなり!今ここに決闘の場を!』」
  柚子が叫ぶと室内は光に包まれた。

〇戦地の陣営
  まばゆい光が消えたと思いきや、そこは今までいた生徒会室ではなかった。
  中央に円卓があり、それ以外は何もない。円卓の周りを囲むのは私、祥子、柚子の三人だけである。
  そう、こここそ私達、女神候補生が戦う『決闘場(キリングフィールド)』である。
西中島柚子「それではゲームを始めましょうか。」
  柚子は不敵な笑みを浮かべて口を開く。負けることなんて考えていない顔だ。
西中島柚子「そちらはどちらが参加するのかしら? まあ二人とも一緒にかかってきてもいいですけどね?」
多田羅タララ「いや、最初は祥子に任せるよ。私は応援係だ。」
天門冬祥子「え、私ですか? 緊張しますねー。」
  私が指名すると、祥子は全く緊張感のない様子で言う。
西中島柚子「はぁ・・・それではゲームのルールを説明しますわよ。」
西中島柚子「これからやるのは簡単なトランプのゲームですわ。」
西中島柚子「ルールは至極簡単、まずはトランプのカードを順番に4枚取るわ。」
西中島柚子「そして1枚ずつ出して互いの強さを勝負するの。つまりは計4回の勝負ね。」
西中島柚子「カードの強さは単純に数字が大きなものの方が強い。ジョーカーは抜いてあるから数字だけを見ておけば大丈夫ですわ。」
西中島柚子「よくスペード>ハート>ダイアモンド>クラブの順の強さって言われるけど、それは今回は無視。同じ絵柄は引き分けね。」
西中島柚子「で、準備の際、1回だけカードを交換できるわ。1枚だろうが4枚でも構わない。」
西中島柚子「だけど、準備が終わったらもう交換はできない。あとは勝負のみ。簡単でしょ?」
  確かに思った以上にシンプルなゲームだった。
多田羅タララ「おい、祥子、大丈夫そうか? ちゃんとルール理解したか?」
天門冬祥子「うん! 大丈夫だよ! 簡単そうだし! 私でも出来そう!」
  本当に大丈夫かな・・・
  私の心配をよそに、祥子は円卓について柚子と対峙する。
西中島柚子「それではゲームの準備に取り掛かりましょう。」
天門冬祥子「うん!!」
西中島柚子「それじゃあ先にあなたがトランプをシャッフルして真ん中に置いてね。」
西中島柚子「ジョーカーはすでに抜いたけど、不正がないかもちゃんと確認してくださいね。」
天門冬祥子「了解ですー!」
  祥子はトランプの束を受け取ると、適当にシャッフルして、ほとんど確認せずに円卓に置いた。
西中島柚子「・・・ちゃんと、チェックしましたの?」
天門冬祥子「うん! 大丈夫だよ!」
西中島柚子「そ、そう・・・ならいいけど・・・後悔しないことね。」
  私は柚子の反応を見て苦笑した。
  柚子が困惑するのも当然だ。
  このゲームは明らかに運が絡んだゲーム──完全な運ゲーだ。
  それをわざわざ自信ありげにやるということは、十中八九、柚子はイカサマを仕込んでいることになる。
  まあ豪運があれば問題ないが、少なくとも柚子がその手の能力を持っているようには失礼ながら見えない。
  にもかかわらず、祥子は特に警戒もせずゲームを開始しようとしている。
  それはまるで純粋無垢な子供を虐めるようなものだ。どんな人でも多少の良心の呵責があるだろう。
  しかし、残念ながらそんな常識は私達、女神候補生・・・そして、ゲーム盤α『愛其学園』では通用しない。
西中島柚子「それではいきますわよ。順番にカードを取りましょう。まずは私から。」
  柚子は山札から1枚カードを取った。
天門冬祥子「それじゃあ私もー。」
  むんず
西中島柚子「え、え・・・?」
  柚子は困惑した。何故なら祥子が柚子の持っているカードに手をかけ引き抜こうとしていたからだ。
西中島柚子「ちょ!ち、違いますわよ!最初は山札からカードを取るのですわ!」
  祥子がぐいぐいと柚子の持っているカードを抜こうとするので、柚子は悲鳴を上げるように叫ぶ。
天門冬祥子「あ、そうなんですか。すみません、間違えました。」
天門冬祥子「てっきりどこからでも取ってよいものかと・・・」
  祥子は詫びるとすぐにカードから手を放し、山札からカードを1枚取った。
西中島柚子「こ、この子…ッ」
多田羅タララ「くくくく・・・」
  私は笑うのが我慢できなかった。
  確かにルール説明の際に柚子は”山札から取る”とは説明しなかった。
  常識的に考えて、まずは山札から取ることは誰でも分かるだろうからだ。特に多くのゲームをしてきた柚子だから略したのだろう。
  でも、やはり祥子はちゃんとルールを把握してなかったようだ。本当に滅茶苦茶な奴だ。ってか、アホだろ。
  そして、柚子のあの反応、間違いなく早速イカサマをしていたようだ。
多田羅タララ「おーい、どうした? 何、焦ってんだ? 次、あんたがカードを引く番だよ。」
  私は半ば呆然としながら祥子を睨む柚子に声をかける。
西中島柚子「はっ!?」
  私の声に反応して柚子は慌てて山札に手を伸ばす。
西中島柚子「ギャラリーがやかましいですわ!ふん、少し動揺しましたが・・・まだ関係──」
西中島柚子「なっ!?」
多田羅タララ「どうした?もしかしてキラカードでも当たったか?」
西中島柚子「うるさいですわ!!!!!」
西中島柚子「けど、どうして・・・」
  柚子は自分の引いたカードに困惑しているようだ。
  それもそのはず。柚子に渡ったのはキラカードなんかじゃない”キラーカード”だ。
多田羅タララ「随分と良いカードだったようだね。」
西中島柚子「あ、あなた・・・まさか・・・」
多田羅タララ「さ、祥子の応援に戻ろうかな。祥子、頑張れよ♪」
  私は何事もなかったかのように観戦に戻る。
  そう、先ほど祥子が柚子の手札を抜こうとして、柚子が困惑している時、私は山札を少し弄ってやったのだ。
  その結果、柚子には嫌なカードが入るって寸法だ。
  あまり小手先の技は苦手だけど、まあこの程度の小細工なら私でもできる。重要なのは度胸とタイミングを逃さない目だ。
西中島柚子「くっ・・・!!こんなはずでは・・・!!」
  どうやら完全にリズムが崩れた様で柚子はギリッと奥歯をかみ鳴らす。
西中島柚子「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
  しかし、次の瞬間、ふっとそれこそ気づかないレベルで柚子の顔の緊張が消えた。
  あー、これまたなんかヤル気だな・・・
  私は祥子を見た。
天門冬祥子「わー、結構いいカードです! これなら勝てるかも!」
  祥子は呑気にそんなことを言っている。というか、そんな正直に言うなよ。手札がばれるだろ。
西中島柚子「ふ、まあいいですわ。」
西中島柚子「こういった時でも私達生徒会は美しく優雅に相手を倒す───」
西中島柚子「貴方みたいな雑魚は一生私の奴隷にしてあげますわ!」
  いや、ついに本音もれとるがな・・・
  まあそんなこったろうとは思ったけどな・・・
  そう、愛其学園ではゲームで優劣を決める。
  未来の創造主の嫁になるためとは言え、女神候補達の争いは実に醜く、ドロドロしていた。
多田羅タララ「はぁ、これが嫌なんだよな・・・」
多田羅タララ「けど、ま、とりあえず二人の手札は揃ったな。」
多田羅タララ「あとは、カードの交換とどの順番でカードを出すか・・・」
  私は二人の次なる動きに注目した。

〇戦地の陣営
西中島柚子「それでは次にカードの交換を行うわ。」
西中島柚子「あらかじめ言っておくけど、交換は山札からですわ。決して相手の手札から取ってはいけません。」
天門冬祥子「はい! 分かりましたー!」
西中島柚子「まったく・・・本当に分かってるのかしら・・・」
西中島柚子「まあいいわ。とりあえず私は3枚交換するわ。あなたは何枚交換する?」
天門冬祥子「あ、私は結構です。これだけで十分なので。」
西中島柚子「えっ!?」
西中島柚子「あなたそれでいいの?」
天門冬祥子「はい、私はこの子達で頑張りますー。」
  どうやら祥子の手札はかなりいいらしい。
  先ほどの様子を見ると、結構よさそうな手札が入ってるみたいだということは分かる。
多田羅タララ「キングが入ったか・・・少なくともクイーンか・・・」
  まあとりあえず、手が悪ければ普通交換するはずだから間違いなく勝負手が入ったのだう・・・
天門冬祥子「だって!なんかハートがいっぱいでかわいいですし!」
多田羅タララ「・・・うん?」
多田羅タララ「お前、もしかしてハートのカードばかり集まったのか?」
天門冬祥子「はい、そうです! なんか真っ赤でハートだらけでテンションがあがっちゃいます!」
多田羅タララ「はぁ・・・」
多田羅タララ「いいから交換しとけ。」
天門冬祥子「えー・・・でもー・・・」
多田羅タララ「いいから変えとけ。それじゃあ勝てん。」
天門冬祥子「本当ですかぁ・・・じゃあ2枚だけ・・・」
  私が命令すると祥子はしぶしぶといった様子で宣言した。
  ハートがいっぱいということはおそらく9とか10とか分かりやすくハートがちりばめられているカードだろう。
  決して弱くはないが、相手が強い数字を間違いなく出してくるだろうこの戦いでは明らかに歩が悪い数字だ。
  どうやら相変わらず祥子はルールを把握していなかったようだ。
西中島柚子「まったく・・・調子狂いますわね・・・」
西中島柚子「けど、分かりましたわ。2枚ですわね。」
西中島柚子「それでは私から、あなたの順で交代で1枚ずつ交換していきましょう。」
天門冬祥子「はーい・・・」
  祥子は明らかにテンション低く返事をした。
  しかし、やはりここで柚子もイカサマをしてくるはずだ。
  ま、別にしてきても良いけど、それよりかは祥子が一体どんな対応をするのかが気になる。
  私は二人の動きを観察した。
西中島柚子「それではまずは私が──」
天門冬祥子「はい、私これ!」
  柚子が話している最中、先に祥子が手札に手を伸ばして1枚交換した。
西中島柚子「ちょ、ちょっと! さっき私が先って言いましたわよね!?」
天門冬祥子「・・・はえ?」
  呆然としながらも祥子はもう1枚カードを交換しようと、再びカードの山札に手を置いていた。
西中島柚子「お馬鹿さん! あなたは本当に自分勝手なんですから!」
天門冬祥子「ご、ごめんなさーい・・・」
  急に大声で怒鳴られて流石の祥子もしゅんとする。
西中島柚子「くっ・・・ちゃんと話は聞いてなさい!」
西中島柚子「あなたはもう2枚交換したわね? じゃ、仕方ないから私が次に宣言通り一気に3枚取るわね!」
  さて、柚子がイカサマするとしたらここだ。
  まーおそらく、あらかじめ祥子に嫌なカードを仕込もうとしていたのだろう。
  順番にカードを取るというのはそういう意味だ。だけど、祥子は自由すぎて奴が動く前にカードを変えてしまった。
  妨害は失敗した。だから自分のこれからのターン、おそらく良いカードを引くために何かやるはずだ。
  多分だが・・・私の勘が言うには柚子はキングのカードの位置が分かっている。
  このゲームは本当にシンプルだ。
  勝つには単純にキングを持っていればいい。
  つまりは手札にキングが2枚以上あれば最悪引き分け──間違いなく負けることはないのである。
  としたら、確実に柚子はキングを手に入れようと考える。
  そう、それはまるで新たなる創造主を求めるように──
西中島柚子「じゃ、3枚取りますわよ。」
  トランプの山札に手を伸ばした柚子の腕が小さく揺れた。
多田羅タララ「お」
  私は少し感心した。それは柚子の手さばきにだ。
  柚子は普通では知覚できないほどの速さで山札を一瞬浮かし、カードを3枚抜き、それをあたかも上から取ったように見せかけた。
  おそらく私以外には彼女の細かな指先の動きは見えないだろう。それほどの素早さだった。
  おそらくキングのカードに普通では分からない塗料でも塗っているのだろう。それを識別してキングの場所を元より知っているのだ。
  細工した現場は見ていないが、たぶんジョーカーを抜いた時だろう。
  よっぽどバレない自信があるのか・・・どうやら指先の器用さにかなり長けているらしい。さすが学園No.5を名乗るだけはある。
多田羅タララ「・・・だが、お前は策に溺れたな。」
  私が指摘するまでもない。
西中島柚子「え、なっ・・・なんですのこれぇ!?」
  柚子は悲鳴にも似た声を上げる。
  何故なら確実に3枚抜き取ったはずのカードに他数枚のトランプがくっついてきていたからだ。
  つまり柚子は3枚以上を一気にとってしまったことになる。
多田羅タララ「カードをよく見てみろ。」
西中島柚子「え? ん、これは・・・なんだかカードがべたべたしていますわね・・・」
西中島柚子「まるで糊みたいな物が付いていて、そのせいでカード同士が張り付いている・・・?」
天門冬祥子「ああ! ごめんなさい! それご飯粒です!」
  柚子の身に起きたことに祥子は気づいたようで声を上げた。
西中島柚子「ご、ご飯粒・・・?」
天門冬祥子「実はさっきまでおにぎりを食べてまして・・・慌てて食べたせいか手が、ちょっと・・・えへへ」
西中島柚子「ちょ、汚いわね! ってか、そんな手で生徒会室の備品を触ってたの!? 信じられませんわ!」
  そう、それは私が祥子にあげたおにぎりのご飯粒だった。
  祥子が先にカードを触った際に、手についていたご飯粒がカードに付着し、その影響でカード同士が張り付いたのだ。
  丁寧に扱うならまだしも、繊細な動きを要求される柚子のイカサマにとっては致命的だった。
多田羅タララ「欲をかいたのが裏目に出たな。」
西中島柚子「な、なんですって!?」
多田羅タララ「どうせお前は最初のカードでキングを引いているだろう? それにキングの位置も分かっている。」
多田羅タララ「つまりあと1枚キングを引きさえすれば、最悪でも引き分けにもつれ込ませることができ、少なくとも負けはしない。」
多田羅タララ「しかし、勝利に固執したお前はキングを一気に3枚も抜こうとした──そう相手を完膚なきまでに叩きのめすために。」
西中島柚子「くっ・・・!」
多田羅タララ「その結果がこれだ。祥子の意地汚さは予定外だったろ? まさかおにぎりに足元をすくわれるなんてな。」
  バッ
  私は柚子が先ほど山から抜いた数枚のカードを奪い取る。
西中島柚子「な、何するのよ!?」
多田羅タララ「これは無効だ。一気に数枚持ってても仕方がないだろう?」
多田羅タララ「正々堂々もう一度、引き直した方がいいと思うぞ。」
西中島柚子「ぐぐぅ・・・」
  柚子は声にならない唸り声を上げる。
  私は奪い取ったカードに目をやる。
  予想通り数枚のカードの中にキングがしっかりと3枚挟まっていた。
  おそらく柚子が1枚持っているので、つまりは現在、この山札にはキングが消失している。
  柚子の一勝は確実だが、後の3戦は予定通り運ゲーになった。
西中島柚子「うううううっ! わ、分かったわよ! それじゃあもう一回引き直すわよ!」
西中島柚子「私が負けるわけない! だって私は学園No.5、最強の生徒会の一人なんだから・・・!」
  おー、なかなか気合入っているな。これなら引けるかもな・・・
西中島柚子「ぐっ・・・あ・・・・」
西中島柚子「悪くない・・・悪くないけど・・」
  私の期待とは裏腹に、どうやら微妙な数字だったらしい。
  さて、こんな泥仕合もまあ面白いな。あとはどの順番で出すか──
天門冬祥子「あのーちょっといいですか?」
西中島柚子「え?」
  さっきまで黙っていた祥子がふと口をはさんできた。
天門冬祥子「私、あまりルールが分からないんですけど、もう一気に出して勝負しません?」
西中島柚子「え、ええ?」
多田羅タララ「お前、本当にルール理解してないんだな・・・あのな、ここからはどの順番を出すかで駆け引きがあるんだぞ?」
天門冬祥子「はい・・・だけど、私、どの順番に出しても同じカードなので・・・」
多田羅タララ「はぁ!?」
天門冬祥子「では、私のカードを出しますね。」
  そう宣言して祥子はカードを円卓に一枚一枚並べる。
多田羅タララ「おいおい・・・マジかよ・・・」
天門冬祥子「じゃーん! カードが揃っちゃいました! これ強いですか?」
多田羅タララ「いや、強いも何も・・・」
  そう・・・祥子の手札は全てクイーンだった。
西中島柚子「そ、そんな・・・ありえない・・・」
  柚子の手からカードが零れ落ちる。1枚は予想通りキング、後から引いたそれ以外はジャックと10だった。
  確かに悪くないカードだが、完璧に負けている。そもそもキングより強いクイーンは全て祥子が握っていた。
天門冬祥子「タララさん、どうです? いい勝負ですか?」
  どうやらこの状況になっても、まだ祥子はルールを理解していないらしい。
多田羅タララ「ああ・・・いい勝負だった。」
多田羅タララ「だが、お前の勝ちだよ。」
天門冬祥子「本当ですか!? やったー!!」
  本当にうれしいのか。祥子は飛び跳ねて喜ぶ。
西中島柚子「ううっ・・・どうして私が・・・」
  両膝をついて叫ぶ柚子の肩を私は叩く。
多田羅タララ「いや、お前は弱くはない。いい勝負だったよ。」
多田羅タララ「ただ・・・」
多田羅タララ「あいつが規格外のアホだっただけだ。」
西中島柚子「そんなぁ・・・」
  がくり
  完全にうなだれた柚子をしり目に、私は喜ぶ祥子を見た。
  天門冬祥子──あいつ、本当に何ものなんだ・・・?
  しかし・・・やっぱり少しは私の退屈を和らげてくれそうだな。
天門冬祥子「わーい! お菓子!お菓子!」
多田羅タララ「ん-、けどやっぱりアホかも・・・」
  ──────
  これが私と祥子の初めての出会いだった。
  これから私たちは生徒会──そして愛其学園の女神候補生達とのゲームに興じることになる。
多田羅タララ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
多田羅タララ「けど、あいつの力ならもしかしてこの世界をぶち壊せるかもな。」
多田羅タララ「まったく・・・他の世界から飛ばされてむしゃくしゃしてたんだ。」
天門冬祥子「あれー? タララさん、何か言いました?」
多田羅タララ「んにゃ、何も?」
多田羅タララ「そんなことより、折角勝ったんだし生徒会の高いもの全部パクッて帰ろうぜ!」
西中島柚子「ちょ・・・やめ・・・やめなさーい!!!」
  エピソード1おわり

コメント

  • 天然の女の子と見せかけてるのか…、実際は全て計算のうちなような気もします!
    全く興味ないように見せかけてる人ほど、恐ろしいのかもしれません…。

  • 突如現れた少女に学校中が振り回されていくのが面白い設定だと思いました。これも創造主から与えられた課題の、1つだったりして…簡単に女神様にはなれないものですね、

  • それぞれのキャラクターの言葉尻が可愛くて、会話のテンポもよかったです。ストーリーも楽しく最後まで一気に読ませて頂きました。

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