ポン吉の過去(脚本)
〇居酒屋の座敷席
風呂上り。ほっと一息、傷養生。
されど、哀れポン吉。心の傷は癒えぬまま、
ぼんやり目の前、差し出された牛乳を眺めながら、在りし日の父母の姿思い出して涙。
米山ポン吉「おとッつぁん・・・おっかさん・・・」
姿イチロー「大丈夫かい、ポン吉。辛いことがあったら、なんでも話してくれよ」
米山ポン吉「イチローさん、ありがとうございます」
振り返るように、ポン吉は過去を語った。
〇道場
東京の端にある道場。父母の命を思い出したポン吉が訪れた場所。
間抜けなれど、ポン吉。生まれながらに化けの才ある小タヌキで、父母より授かりし化け才を磨くため、この道場へとやってきた。
天龍斎化犬「きさま!!!さっきから何をやっておるんだ!」
米山ポン吉「す、すみません!すみません!」
されど、その才、なかなか上手く使いこなすこと出来ず、日々、修行の連続。
天龍斎化犬「しっぽが見えておる!」
米山ポン吉「あ、しまった!」
天龍斎化犬「まったく、そんなんじゃいつまで経っても一流の化け狸になれぬぞ!」
天龍斎化犬「お前の両親はな、化けの世界じゃ比類のない両親だ。その両親の息子であるお前が、そんなに化けるのが下手くそじゃならんだろ!」
米山ポン吉「ううう・・・すみません。すみません!」
天下に名をとどろかせる化け犬、天龍斎化犬の元で、幾日も幾日も化け術に励み、
遠き国で待つ父母のため、ポン吉は精一杯、努力をした。
雨宮オミツ「ちょっと、おとッつぁん。あんまり厳しくすると、ポン吉さんが可哀そうでしょ」
道場の花、雨宮オミツ。
厳しい修行に耐えるポン吉の姿に、心惹かれた優しい女。
天龍斎化犬「うるさい。お前は口を出すんじゃない」
雨宮オミツ「こんなに一所懸命頑張っているんだから、おとッつぁんも認めてあげたらどうなのよ」
米山ポン吉「い、いいんです。オミツさん。全部、僕が悪いんですから」
???「そうだ、そんなグズのポンコツ。放っておけばいいんだ!」
どこからともなく、嘲笑うような声。
米山ポン吉「あ、あなたは・・・」
左化之丈「化ける才能もねぇポンコツが。さっさとどっかで野垂れ死んでしまえ」
雨宮オミツ「な、なんてこと言うの化之丈!!!」
左化之丈(ひだり・ばけのじょう)。道場で最も化ける力のある男。
ポン吉は化之丈の化け才には何も言うことができなかった。
左化之丈「何年、何十年と修行をしたって、クズはクズ。ポンコツはポンコツ。さっさと消えて狸汁にでもなった方がよっぽど身のためだぜ」
雨宮オミツ「ひどい・・・なんてひどいことを言うの・・・」
ポン吉。何も言い返すことができず。
左化之丈「へっ、下手くそが移るといけねぇ。俺は失礼するぜ」
高笑いをしながら、道場から去っていく化之丈。
そうして月日は流れて行った。
〇居酒屋の座敷席
姿イチロー「そ、そんなことが・・・」
米山ポン吉「ええ、5年ばかり修行をして、ようやく師匠に認めていただき、道場を出ることができました」
姿イチロー「それで、化之丈はどこへ?」
米山ポン吉「さあ、わかりません。もともと、道場にはあまり来ない奴でしたから・・・」
姿イチロー「そうか。じゃあ、ポン吉くん。その道場に行ってみないか」
米山ポン吉「えっ!」
姿イチロー「きみの両親が殺されたこと、まだ師匠に言ってないだろう。言えば、きっと君の力になってくれるさ」
米山ポン吉「そ・・・そうでしょうか」
姿イチロー「おせっかいかもしれないけれど、きみを育ててくれた師匠だ。力になってくれるはずだよ!」
米山ポン吉「そ、そうかもしれません」
こうして、ポン吉とイチローはポン吉の師匠、天龍斎化犬の道場へと向かった。
ポン吉の化ける能力が劣るから5年間も修行した所は褒めてあげたい。嫌味を言われてもよく頑張ったね。よく諦めなかったね。これからも努力していきましょう。