奪われた道場(脚本)
〇道場
米山ポン吉「お師匠様ー!いらっしゃいますかー!」
東京の端の小さな道場。地域密着型の化け専門の道場へとやってきたポン吉とイチロー
姿イチロー「うわぁ、凄い広いな」
目をキラキラと輝かせて道場を眺めるイチロー。久しぶりの故郷に心湧きたつポン吉。
それもそのはず、五年間の修行を積んだ場。忘れられよう筈もなく、道場を出て半月。日はまだそれほど経ってはいない。
トメ「お師匠さん、留守ですよ」
道場の奥からやってきた着物の女。ポン吉、この女を知らず。
米山ポン吉「え!?そ、そうですか。では、帰ってくるまで待っています」
トメ「いえ、お師匠様は奥様とお出かけで帰って参りません」
米山ポン吉「え、そんな、、、化犬師匠はどちらにご旅行で」
トメ「はて?化犬ですか?あの犬はとっくに引退しておりますが?」
米山ポン吉「引退?何かのご冗談でしょうか。この道場の主、化犬師匠ですよ」
トメ「何を仰っているのですか?ここの師匠は、天龍斎化之丈様ですよ?」
米山ポン吉「ええええええええ!!!!!!?????」
姿イチロー「だ、大丈夫かい!?ポン吉くん」
トメ、怪訝な顔をして経緯を語り始める。
トメ「つい先日のことでございます。化犬様が病に倒れまして、後継ぎを指名しなければならない事態になりました」
トメ「寝床で、ポン吉、ポン吉はどこかだと呟いておりましたが、そのポン吉とやらは道場を出たばかりで行方知れず」
米山ポン吉「ぼ、ぼくです!僕がそうです!」
トメ「はあ、そうですか?まあ、もう時すでに遅しというやつですね。ポン吉がいないので、代わりに化之丈様がやってまいりまして、」
〇病院の廊下
左化之丈「おい、クソジジイ。忌々しいポン吉の名なぞ口にするな。どうせ、お前は短い命。俺が後継ぎになってやろう!」
トメの前で、化之丈は笑いながら言った。化犬は朦朧とする意識の中で、
天龍斎化犬「ならん、なら・・・ん・・・」
左化之丈「黙れ!黙れ!黙れ!あんなポンコツより、俺の方がよっぽど化ける才に優れている!認めろ!俺が次の天龍斎だ!」
雨宮オミツ「おとッつぁん、やめて!化之丈に天龍斎の名を継がせてはダメよ!おとッつぁん!」
化犬の一人娘、オミツは涙を流して訴えた。
天龍斎化犬「だがな、オミツ。ポン吉は行方知れず。わしの命も、そう長くはない。仕方がないのじゃ、仕方がないのじゃ・・・」
左化之丈「そうだ!物分かりがいいじゃないか。ふっはっはっは。これで、今日から俺が、」
左化之丈「天龍斎化之丈だぁあああああ!!!!!」
雨宮オミツ「いやぁあああああああ!!!!!!!!!!!」
〇道場
トメ「そういうことがあったのち、化犬は亡くなりました」
米山ポン吉「そ、それで・・・やつは、化之丈はどうしたんですか!!!」
トメ「天龍斎の名を継ぎ、オミツさんは化之丈様の奥様になられました。最初は嫌な素振りをしておりましたが、今ではそんな素振りもなく」
トメ「しっかりと、天龍斎の妻として努めておりますよ」
姿イチロー「な・・・なんてことに・・・」
米山ポン吉「全部、僕がいけないんだ・・・」
米山ポン吉「師匠が体調が悪いのに、両親の元に帰るなんて・・・」
姿イチロー「それは違うぞ!ポン吉くん!」
姿イチロー「きみには、きみの思いがあったんだろう。これは仕方の無いことじゃないか」
姿イチロー「だったら、きみがその化之丈に勝てばいいんだ。きみの化ける力で、そいつを打ち負かしてやろうよ!」
???「誰を打ち負かすって?」
鋭い大声がどこからともなく聞こえてきた。
米山ポン吉「お、お前は・・・」
左化之丈「汚ねぇタヌキの匂いがすると思ったら、どこぞのポンコツ野郎じゃねーか」
米山ポン吉「ば、ばけのじょう!」
左化之丈「おいおい。俺は天龍斎だぞ。そんな軽々しく口を聞いてもらっちゃぁ、困るねぇ」
???「そうよ!ポン吉さん!」
耳になじんだ、美しい声。ポン吉、思わず耳を奪われて、
米山ポン吉「お、オミツさん!」
雨宮オミツ「あたしの夫に、楯突いたら、容赦しないからね!」
米山ポン吉「はわわ、はわわわわ・・・」
左化之丈「そういうことだ。ポン吉。お前に帰る場所なんてないんだよ。俺が天龍斎になったからには、免許はく奪だ!」
米山ポン吉「ぐ、ぐうう、ぐううう・・・」
雨宮オミツ「目障りよ!消えなさい!二度とこの道場に戻ってこないで!!!このポンコツタヌキ!!!!」
米山ポン吉「ああああ・・・・ああああ・・・・」
まるで、巨大な岩に上下左右から押し挟まれて、ぺしゃんこになってしまうかのような悲しみがポン吉を襲った。
姿イチロー「い、行こう!!ポン吉くん!」
茫然自失のポン吉を背負って、道場を飛び出したイチロー。
二人の未来に、希望はあるのか。