流れのポン吉とイチローの出会い(脚本)
〇神社の石段
柴田ヤクザエモン「おい、ちょっと待ちな」
柴田ヤクザエモン「お前、流れのポン吉だな?」
米山ポン吉「は、はい。私がポン吉ですが、あなた、どなた?」
柴田ヤクザエモン「どなたもこなたもあるもんかい。俺は柴田のヤクザエモンってんだ。お前の両親だが、食い殺してやったよ」
米山ポン吉「え!?ど、どうしてそんなことを・・・」
柴田ヤクザエモン「知る必要なんざねぇよ。お前もこれから俺が食い殺してやるんだからなぁ!」
米山ポン吉「な、なんでですか!?ぼくが一体、何をしたというんですか。ぼくは、父と母の命を受けて、一匹、東京で生きていました」
米山ポン吉「されど、道中、父母の命を忘れてしまい、途方もなく道に迷い、天涯孤独」
米山ポン吉「空腹しのぎにゴミ箱をあさり、見知らぬ人から習って芸を覚え、」
米山ポン吉「なんとか今日まで一人で生きて、やっと命を思い出して果たし、両親に恩返しができると、何十年ぶりかに帰ってきたというのに、」
米山ポン吉「どうしてあなたに、食い殺されなくちゃいけないんだ!」
毛利ゴロツキマル「やっちまいましょう!アニキィ!」
暗雲立ち込める空。長い階段の入り口で、地獄の扉を開けるかのごとく、咆哮が鳴り響く。
チリチリと全身の毛がそそけだつも、足の震えの収まらぬポン吉。
脳裏には、自分を愛してくれた父母の笑顔。
米山ポン吉(そんな・・・嘘だ・・・)
ギラリと左右から光る牙と牙。
柴田ヤクザエモン「グルルルルゥゥウウウウ」
毛利ゴロツキマル「ガルルルルゥウウウウウ」
米山ポン吉「止してください!止してください!」
階段を上っては降り、降りては上り、牙を避けて、必死のポン吉。
柴田ヤクザエモン「うらぁああああ!!!」
米山ポン吉「ああああああっっ!!!!!」
ヤクザエモンの牙が体を裂き、たらりとポン吉の体から血が滴り落ちる。
毛利ゴロツキマル「キャウウウンッッ!!!!」
突如、悲鳴とともに一匹が階段から転がり落ちた。
見れば、遥か階段の上の方から、石を投げる者がいる。
柴田ヤクザエモン「ち、ちくしょう。覚えておきやがれ!」
一匹は石を投げられて気を失い、もう一匹は足早にその場を去った。
米山ポン吉「はあ、はあ、怖かった・・・怖かったよう・・・」
姿イチロー「大丈夫!?」
階段から駆け下りてきた幼い少年、姿イチロー。先ほどの争いに助太刀をした勇敢なる男。
米山ポン吉「た、助かりました!どこのどなたか存じませんが、ありがとうございます」
姿イチロー「いやいや、たまたま通りかかっただけだから。怪我がなくて良かったよ」
イチローの満面の笑顔を見て、さらに泣き出すポン吉。
米山ポン吉「ぼ、ぼくの、おとっつぁんとおっかさんが、あの犬達に、殺されたって・・・」
姿イチロー「そ、そんな酷いことが・・・」
米山ポン吉「せっかく、おとッつぁんとおっかさんに、立派になった姿を見せられると思ったのに・・・」
米山ポン吉「ぼくは、ぼくは・・・」
米山ポン吉「うわぁああああああああああん!!!!!!!」
姿イチロー「な、泣かないでタヌキさん。ほら、僕が連れて行ってあげるから」
イチロー、そっとポン吉を抱きかかえると、一歩一歩階段を上った。
米山ポン吉「親切なお方。あなた、お名前は?」
姿イチロー「僕は姿イチロー、君は?」
米山ポン吉「ぼくは、米山ポン吉。みんなからは、流れのポン吉って呼ばれてます。いっつもフラフラ流れてるから・・・」
姿イチロー「そっか、ポン吉くんだね。心を強く持たなくちゃダメだよ。ポン吉くん」
米山ポン吉「ううう・・・ありがとうございます。イチローさん・・・」
〇墓石
米山ポン吉「ううう・・・おとッつぁん、おっかさん・・・」
神社に着いたイチローとポン吉は、そこでポン吉の両親の無残な姿を発見した。
イチローの手を借りて、ポン吉は両親の亡骸を土に埋めて墓を作った。
姿イチロー「ポン吉くん、泣かないで。泣いちゃダメだ・・・」
米山ポン吉「できません・・・できません・・・」
墓の前で、ポン吉とイチローは泣いた。
米山ポン吉「どうして・・・どうしてこんなことに・・・」
訳も分からず途方に暮れて、茫然自失のポン吉。
姿イチロー「ポン吉くん、行くあてはあるのかい?」
米山ポン吉「元は流れのポン吉。行くあてなんて、どこにもありません」
姿イチロー「だったら、僕の家に来ないかい」
米山ポン吉「え、そんな・・・」
姿イチロー「いいんだ。僕のお家は銭湯を営んでいてね。草津の湯にも肩を並べるくらいの名湯なんだよ」
米山ポン吉「そ、そんな。ぼくのようなタヌキ一匹を、そこまで大切に扱ってくださるなんて」
姿イチロー「ポン吉くんさえ良ければ、ずっといてもらっても構わないよ。できることなら、僕は君にいてもらえたら嬉しいんだ。どうかな?」
米山ポン吉「ううう・・・恩にきります」
父母の墓前。涙にくれるポン吉。
されど、人の情の厚さに心を打たれて、勇敢なるイチローの家にご厄介。
〇昔ながらの銭湯
姿イチロー「モノベさーん!帰ったよー!」
米山ポン吉「ふわぁあああ、なんて立派なお家なんだあ・・・」
イチローに連れられるがまま、家へとやってきたポン吉。
物部セイ「はいはい。あら!イチロー坊ちゃま。もうお帰りですか」
姿イチロー「うん!ちょっと用事が出来てしまってね」
姿イチロー「こちら、今日から一緒に暮らす、僕の家族、ポン吉くん!」
米山ポン吉「か、かぞく・・・」
物部セイ「あら!いけませんよ。こんな小汚い犬っころ、お父様に叱られてしまいますよ!」
姿イチロー「酷いことを言わないで!ポン吉くんは犬っころなんかじゃない!立派なタヌキなんだ!」
米山ポン吉「イ、イチローさん・・・」
物部セイ「と、とにかく・・・お父様にまずはご相談をなさらないと」
姿イチロー「お父上には僕の方から言っておくから!もう、モノベさんはどっかに行って!」
物部セイ「は、はあ・・・」
困惑した様子で、家の中へと消えていくモノベ。
米山ポン吉「だ、大丈夫だったのかな・・・」
姿イチロー「いいんだよ。モノベさんはいつもあんな感じなんだ。僕のやることなすこと、全部否定する感じでさ」
姿イチロー「ま、そんなことよりさ、まずはお風呂に入ろうよ!」
米山ポン吉「う、うん!」
流れのポン吉が可哀想です。折角両親に会えると思ったら殺されたなんて。親切なイチローと共に頑張って下さい。ところで、タヌキが人間の言葉を喋るなんて、イチローがツッコミをしないところが笑えましたー。