〇大樹の下
　　子どもの頃、あたしの目には他の人と違う世界が広がっていた
　　そのことに気がついたのは、ママに「あるお話」をしたからだ
ひとみ(幼少時)「ねぇママ、あの赤い糸ってなぁに？」
ママ「赤い糸って？」
ひとみ(幼少時)「みんなの指から出てる、赤い糸！」
ママ「もしかしたらそれは、運命の赤い糸かもしれないね」
ひとみ(幼少時)「運命の赤い糸ってなぁに？」
ママ「この世界にはね、運命の人がいるんだよ」
ママ「運命の人っていうのはね、神様が決めた恋の相手なの」
ママ「運命の人と恋をすると、お父さんとお母さんみたいに、ずっと仲良く幸せに暮らせるのよ」
　　ママの言葉は少し難しかった
　　だけど、この赤い糸が繋がっている人同士は、ずっと一緒にいられるってことは分かった
ママ「ねぇひとみちゃん」
ひとみ(幼少時)「なぁに？」
ママ「パパとママは、運命の赤い糸で結ばれている？」
ひとみ(幼少時)「うん！パパの指とママの指は赤い糸でつながってるよ！」
　　その日、あたしは初めて嘘をついた
　　ママの指から出ている赤い糸は、ぶらんと下に垂れ下がっている
　　パパの指から出ている赤い糸は、ぴんと張っていて、どこかにつながっている
　　だけどそれはママじゃない
ひとみ(幼少時)「パパとママはずーっと一緒だね！」
ママ「もちろん！ひとみもずーっと一緒だよ」
　　初めての嘘に、ずきっ、と胸の奥が痛んだ気がした

〇華やかな寮
　　人は誰でも、運命の相手がいるわけじゃない
　　赤い糸は小指から出ているけれど、どこにも繋がっていない人もいる
ひとみ「あたしにも、運命の相手はいるはずなんだけどなぁ」
　　そう分かるのは、運命の相手がいる場合、ぴんと糸が張っているからだ
　　何を隠そう、あたしの小指からどこかに繋がっている赤い糸は、ぴんと張っている
　　相手がいない場合、あたしのママみたいに赤い糸は地面にぷらぷらと垂れ下がっているのだ
　　あたしはちゃんと運命の相手を見つけて、幸せになるんだ
　　パパとママみたいに、途中でお別れなんてしたくない！
　　一生そばにいられるような、運命の人を探す、それがあたしの人生の目標になっていた
ひとみ「えっ、あれ？」
　　あたしの赤い糸が揺れている！
ひとみ「こんなの初めて・・・！」
ひとみ「もしかして、運命の相手が近くにいるのかも・・・！」
　　あたしは校内に入り、学園中を回った

〇教室
ひとみ「いない・・・」

〇学校の廊下
ひとみ「ここにもいない・・・」

〇図書館
ひとみ「一体どこにいるのー!?」

〇フェンスに囲われた屋上
　　学校中を探し回ったあたしは、いつのまにか屋上にたどり着いていた
ひとみ「ここにもいない・・・か、」
　　赤い糸は相変わらず揺れている
　　だけど、運命の人が近くにいるかもしれないっていうのは、あたしの勘違いだったのかも
　　そう思ってフェンスに近づいたときだった
ひとみ「あ、あれは・・・！」
　　中庭に佇むひとりの男、ネクタイの色からしてたぶん先輩だ

〇中庭

〇フェンスに囲われた屋上
ひとみ「あの人・・・なんかあの人に会わなきゃいけない気がする！」
　　それはただの予感だった
　　だけどあたしは、自分の直感を信じて、中庭に走った

〇中庭
雄大「ふふふーん」
ひとみ「はあっはあっ、・・・あのっ！」
　　中庭でひとり歌っていたその人に声をかける
　　同時に気がついた
　　あたしの赤い糸は、この人と繋がっている！
雄大「ん？なに？一年生かな？」
ひとみ「は、はい！一年の佐久間ひとみです！」
　　ずっと気になっていた運命の相手
　　その人と出会えたことが嬉しくて、あたしは舞い上がっていた
雄大「俺は三年の小堀雄大」
　　雄大先輩かぁ・・・
　　まだ知り合ったばかりだというのに、付き合った後のことを考えて、心の中で名前を呼んでみる
ひとみ「ん？」
雄大「なに、どうしたの？」
ひとみ「せ、先輩・・・！左手を見せてもらってもいいですか・・・！」
雄大「不思議な子だね」
雄大「はい、どうぞ」
　　差し出された左手に、あたしは絶句する
　　なんとこの男、小指から五本も赤い糸が繋がっているのだ！
　　それも全てピンと張っている、つまり相手がいる糸！
ひとみ「う、嘘でしょ・・・・・・!?」
　　どうなる、あたしの恋の行方！
　　そしてどうなる、あたしの運命の人！