Riverside Baron ~蓬莱番外地~

山本律磨

バロンと男爵(1)(脚本)

Riverside Baron ~蓬莱番外地~

山本律磨

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〇黒
  『帝都よいとこ凄いとこ~♪一度住んだら帰れない~♪』
男「やかましい・・・」
  『星はないけどネオンはあるさ~♪母ちゃんはいないけどママさんはいるさ~♪』
男「やかましい・・・」
  『見上げりゃ鉄の塔、見下ろしゃ人の波~スッチャカランランメッチャカバンバン!アチラもコチラも大騒ぎ~♪』
  『スッチャカランランメッチャカバンバン!アナタもワタシも大騒ぎ~♪』
男「やかましーッ!」

〇荒れた小屋
男「・・・!」
男「どこだここは?」
男「安物・・・」
男「偽物・・・」
男「ガラクタ・・・」
男「?」
  ただ一つ、ベッドに横たわる男の胸に置かれた『バイオリン』だけは上等なものらしかった。
男「バイオリン・・・」

〇劇場の舞台
  『やめろ・・・』
  『演奏をやめろ・・・』
  『やめぬか!』

〇荒れた小屋
???「気が付いたかい?バロン」
男「?」
お蝶親分「全く悪運の強い奴だね」
お蝶親分「もっとも、その悪運を生かしてやったのは私達御堂組だって事、覚えときなよ」
男「俺は一体・・・」
男「クッ・・・頭が・・・」
お蝶親分「どうしたんだいバロン」
「バロン?バロンが起きたの?」
ヒナ「バロン!」
男「・・・?」
ヒナ「この・・・」
ヒナ「バカ親父がああっ!」
男「あ、頭あああッ!」
ヒナ「うるさい!どんだけ心配したと思ってるんだ!」
ヒナ「じゃあ安心したんで仕事に行ってきます」
ヒナ「お蝶親分の言うことよく聞いて大人しく寝とくように」
ヒナ「あと当分禁酒ね」
男「な、何なんだアレは」
お蝶親分「ヒナだよ。娘じゃないか」
男「娘?」
男「誰のだ?」
お蝶親分「頭頭って・・・バロン。アンタまさか記憶を・・・」
男「・・・」
男「・・・記憶か」
お蝶親分「待ちな。どこに行く?」
男「風に当たってくるだけだ」
男「何か思い出すやも知れんからな」
男「ククッ・・・」
お蝶親分「・・・バロン?」

〇荒廃した市街地
  下層労働者、移民層、ゴロツキ
  無力な活動家、無能な芸術家
男(帝都に集る陸(ろく)でなしどもめ)
  ある者は叶わぬ夢に纏わりつき、ある者は現実にその身を喰い破られ、それでもなお帝都を離れられない浮かれ人達がいる。
蓬莱合唱団「スッチャカランランメッチャカバンバン!」
蓬莱合唱団「アチラもコチラも大騒ぎ~!」
  人はそこを蓬莱街と呼んだ。
  大都会が生み出す混沌の全てが流れ着く、この川辺の街を

〇川沿いの原っぱ
  Riverside Baron
  ~蓬莱番外地~

〇中世の街並み
美島「現在帝都には無数の貧民窟が存在している」
美島「かの蓬莱街の特筆すべき点は音曲舞踏など芸能活動が盛んであり、あたかも現代の山水河原者の様相を呈している所にある」
美島「特に『仮面のバロン』」
美島「炎のバイオリンと称される彼の演奏は人々の心を鼓舞し、その人気はブルジョワ層にまでも」

〇散らかった職員室
「美島、まだいるか?」
編集長「おーいたいた!仕事だぞ~」
美島「本日の業務は終了致しました」
編集長「その原稿は?」
美島「趣味です」
編集長「なあ美島君。僕は今の時代、仕事に男女の隔てがあっちゃあいけないと思ってる派だ」
編集長「ストだのデモだのに現をぬかす軟弱男どもを見返したいんだろ?」
美島「これは・・・」
編集長「裏のスジからスッパ抜いた。昼間起こった大芸能博の爆発事故。憲兵司令来栖川男爵が巻きこまれたらしい」
美島「来栖川司令が?」
美島「それって事故じゃなく事件の可能性が出てきたってことですか?」
編集長「お、喜々としてきたね~」
美島「で、ヤツは死んだのですか?」
編集長「お、喜々をひた隠してるね~」
編集長「そこんところをさ、君、憲兵の『恋人』がいるらしいね~」
美島「分かりました。あたってみます。憲兵の『顔見知り』に」

〇殺風景な部屋
最上「・・・」
「御令嬢をお連れ致しました」
最上「お入りください」
最上「一瞥以来です」
桜子「顔を見ても宜しいでしょうか」
最上「それがその・・・損壊が激しく」
桜子「・・・」
桜子「速やかに葬儀を執り行います。華族来栖川家当主、義孝男爵に相応しい葬送を」
最上「陸軍省の威信をかけて。ですから桜子さんはどうかお心安らかに・・・」
桜子「有難うございます」
桜子「・・・」
最上「閣下、どうか安らかに・・・」

〇大学の広場
最上「・・・」
「動くな!検閲だ!」
美島「なんちゃって」
美島「こんな夜更けに陸軍病院に何の御用ですか?」
最上「そっくりそのままお前に聞き返すよ」
美島「お前って呼ばないで」
最上「健診だ」
美島「この時間に?」
最上「忙しいんだよ。日々君達のような不穏分子を取り締まらないといけないからな」
美島「軍では開かれた報道がそんなに不穏なんですか?最上少尉」
最上「拡散し扇動し責任は取らない。不穏以外の何ものでもなかろう」
美島「ますます来栖川男爵に似てきたわね」
美島「遺志は自分が継ぐ。って感じ?」
最上「い、遺志?」
最上「遺志って、何だよ」
美島「ホラすぐ顔に出る」
最上「あ!」
美島「向いてないのよ。軍人なんて」
最上「・・・」
美島「ゴメン。その言葉聞き飽きたよね」
美島「お互い自由に生きる。だから別れたんだっけ」
最上「・・・ああ」
最上「近いうちに軍から正式に発表がある。それまで報道は待ってくれないか」
美島「・・・全く」
美島「待て!でいいの。憲兵なんだから」
最上「扶美江・・・さん」
美島「おっと惚れ直すなよ」
最上「だ、誰が!」
美島「本当、向いてないわね。軍人とか」
美島「取材とか・・・」

〇荒廃した市街地
「はあ・・・はあ・・・」
男「なんだこの街は。おなじ所をぐるぐると。まるで迷路だ」
鹿沼「はーいそこまで」
猪頭「娘を置いてどこに行くんだ?バロン」
お蝶親分「夜逃げするほどのショバ代は取ってないと思うけどね」
お蝶親分「安心安全がモットーの御堂組。それも忘れちまったのかい?」
男「安心安全?笑わせるなヤクザ者め」
猪頭「おいバロン。誰に口きいてんだ?」
男「記憶を失っているのだ。大目に見ろデクノボウ」
猪頭「てめえ!」
お蝶親分「よしな。コイツの皮肉は今に始まったことじゃないだろ」
お蝶親分「とはいえ何かと鬱陶しいからいい加減色々思い出してもらうとしようか」
お蝶親分「力ずくでね」
猪頭「へい親分!」
「な、何をする!やめよ!」

〇荒れた小屋
ヒナ「たっだいまー」
男「・・・」
ヒナ「あれ?バロン、傷増えてない?」
男「誰がバロンだ」
ヒナ「へ?」
お蝶親分「うりゃ!」
ヒナ「また増えた」
お蝶親分「バロンさ、ちょっと頭打ってたらしくて。記憶がこんがらがってるみたいなんだ」
ヒナ「え?じゃあオイラ達のこと忘れてるの?」
お蝶親分「医者が言うには一時的なもんらしいんだけどさ」
お蝶親分「下手に動くと命に係るかもねえ」
男「・・・貴様」
ヒナ「ま、まあ一時的ならいいけどさ」
お蝶親分「しばらく私も泊まってやらあな。子供一人じゃ看病も心もとないだろ」
ヒナ「ありがとうございます!」
お蝶親分「見ヶ〆一割増しで手をうってやるよ」
ヒナ(そっか、極道だったこの人)
ヒナ「じゃあお休みバロン」
ヒナ「それともお父さまって呼んでやろうか~?ひっひっひ」
男「・・・」
ヒナ「大丈夫かな?」
お蝶親分「コラァ!」
男「今度はなんだ!」
お蝶親分「ちったあ空気読みな。てか芝居心とかねえのかい。愛想って言葉知らないのかい」
男「なぜあんな見ず知らずの小娘に愛想など」
お蝶親分「だったら何もかも思い出しちまうこったね」
お蝶親分「偽物さん」
男「偽物だと?」
お蝶親分「シッ!ヒナが気づくだろ」
男「・・・」
お蝶親分「あんた、バロンじゃないね」
男「さて、何も思い出せんのだ」
男「クククッ・・・」
お蝶親分「バロンはねえ、そんな厭らしい笑い方はしなかったよ」
お蝶親分「畜生。私は誰を助けちまったんだ」
お蝶親分「そのツラは何だ?変装かい?物の怪かい?」
お蝶親分「お前は何者だ?バロン吉宗はどこにいる?」
男「バロン吉宗」
男「そうだ・・・奴はそんな名だったな」
お蝶親分「話せ!あの芸能博の爆発で何があった!」
男「何が芸能博覧会だ。片腹痛い」
男「百鬼夜行の乱痴気騒ぎ。まさに、今の世の縮図であったわ」

〇劇場の舞台
「さて皆さまお待ちかね!続いては蓬莱街の英雄!炎のバイオリニスト!」
男「英雄?」
「バロン吉宗!」
バロン「フランツ・シューベルト『魔王』」
男「魔王・・・」

〇西洋風の駅前広場
男「怯むな!暴徒どもを鎮圧せよ!」
男「ねじ伏せよ!踏み潰せ!この国の秩序を守るのだ!」

〇炎
  『魔王』『魔王』『魔王』
男「黙れ」
  『魔王』『魔王』
男「黙れ・・・」
桜子「魔王」
男「だ、黙れ・・・」

〇劇場の舞台
男「黙れえええーッ!」
バロン「・・・」
男「何が自由だ」
男「何が新たなる時代だ」
男「何もかも・・・何もかもふざけおって」
男「こんな世界など、こんな時代など、俺は認めん!」
男「断じて認めん!」
バロン「・・・確かにそうかもな」
男「騒乱罪で捕縛する」
男「そのふざけた衣装を脱げ!道化!」
バロン「全く、何もかもふざけてらあ」
バロン「だから面白れえ」
男「こ、これは一体?」
男「何の奇術だ・・・貴様あ!」
男「なに?」
バロン「ど、どけッ!」
男「・・・!」

〇荒れた小屋
お蝶親分「そ、そんなことって・・・」
男「だが現実だ」
男「文明開化と共に我を忘れてしまった、ふざけた国のふざけた現実だ」
男「私は左様な輩どもから、この帝都の秩序を守る憲兵司令」
男「バロンなる紛いものの道化ではない」
義孝「華族来栖川(くるすがわ)家当主、来栖川義孝男爵である!」
お蝶親分「憲兵司令がバロンと同じ顔・・・」
義孝「ふざけた町にふさわしいふざけた現実だな」
義孝「帝都を汚し蝕む寄生虫ども。さてどうしてくれようか?」
義孝「ククク・・・ハハハハ!」

〇黒
  第一話 バロンと男爵

〇簡素な部屋
ヒナ「う~ん」
ヒナ「お帰り~父ちゃん~」

次のエピソード:バロンと男爵 (2)

コメント

  • これが現実なのか夢なのか、たまに私も夢虚な気になる時はあります。
    世の中に対する不満であったり、そりゃあ立場が違えば色々な悩みがありますよね。

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