2.失踪(脚本)
〇学校の部室
問間 覚 (トイマ サトル)「ではカイくん。きみの悩みはお母さんのこと、そしてそれに妖怪が関わっている──少なくともきみはそう思っている。そうですね?」
神宮 開 (ジングウ カイ)「な、なんで母さんのこと……。 まだ何も言ってないのに。」
神宮 開 (ジングウ カイ)「やっぱり妖怪なんじゃ──。」
問間 覚 (トイマ サトル)「カイくん。妖怪でなくとも、ある程度相手の心を読むことはできるんですよ?」
問間 覚 (トイマ サトル)「少しやってみせましょうか。」
トン、トン、トン──
サトルは片方の手で頬杖をつき、もう片方の指先で机を叩いた。
少し暗くなってきた教室に、一定のリズムでそれが響く。
問間 覚 (トイマ サトル)「きみは今まで運動をやってましたね? 中学の部活──」
問間 覚 (トイマ サトル)「うん、中学では運動部だった。 それも外でやる部活のようですね。 サッカー──」
問間 覚 (トイマ サトル)「ではなさそうだ。 では、陸上──? いいや、これも違いますね。」
問間 覚 (トイマ サトル)「道具を使うスポーツですよね? けれどバトミントンやテニスではない。 となれば簡単です。」
問間 覚 (トイマ サトル)「野球かソフトボール──野球ですね。」
問間 覚 (トイマ サトル)「けれど強豪校ではないようだ。 きみはそこそこ真面目にやっていたけれど、練習をサボる不良じみた先輩もいたんじゃないですか?」
神宮 開 (ジングウ カイ)「す、すごい! 当たってます、俺は野球部だったしそこは 地区予選でおわる弱小校だった。 どうしてわかって──!?」
問間 覚 (トイマ サトル)「もう少しわかりますよ。 きみはこの学校の他にもいくつか受験した。そこでは筆記試験だけでなく、面接もありましたよね?」
問間 覚 (トイマ サトル)「きみは面接が苦手だった。 けれど、いいや”だから”、一生懸命練習をした。」
問間 覚 (トイマ サトル)「苦手なことにも真摯に向き合い、克服しようとする。真面目でいい性格ですね。」
問間 覚 (トイマ サトル)「練習の甲斐あって、無事面接も合格した。 けれどそこは滑り止めだったみたいですね?」
問間 覚 (トイマ サトル)「最終的にここにいるということは、きみは 馬鹿ではないようだ。中学ではトップレベルの成績だったんじゃないですか?」
神宮 開 (ジングウ カイ)「な、なんか照れますね。 けど、実際それで合ってます。」
神宮 開 (ジングウ カイ)「自分で言うのもアレだけど、俺は中学ではいつもトップの成績でした。」
神宮 開 (ジングウ カイ)「ここ以外にも、ふたつ私立高校を受験しました。筆記のレベルは問題なかったけど、面接は何度も先生に練習してもらって。」
神宮 開 (ジングウ カイ)「そのおかげでふたつとも受かったけど、 最終的には公立のここに決めました。 全部先輩の言う通りです。」
神宮 開 (ジングウ カイ)「けど、なんでわかったんですか? やっぱり心を読んだとしか……。」
問間 覚 (トイマ サトル)「雰囲気。」
神宮 開 (ジングウ カイ)「えっ!?」
問間 覚 (トイマ サトル)「などと言うとまた妖怪だなんだと言われそうなので、解説しましょうか。なに、簡単なことですけどね。」
〇学校の部室
問間 覚 (トイマ サトル)「まず、なぜきみが野球部だとわかったか。 これは簡単です。」
問間 覚 (トイマ サトル)「デモンストレーションとしていろいろ話し ましたが、教室に入った時点で野球かソフトをやっていたなと思いましたよ。」
神宮 開 (ジングウ カイ)「そんなにすぐ……!?」
問間 覚 (トイマ サトル)「体格と日焼けの痕で外でやるスポーツをしていたことがわかる。それに、手のひらの マメ。道具を使っていたようだ。」
問間 覚 (トイマ サトル)「ここまででもうだいぶ絞れます。」
問間 覚 (トイマ サトル)「それと自己紹介のとき僕らに謝りましたね。 大きな声で勢いよく頭を下げた。 随分謝り慣れている様子だった。」
問間 覚 (トイマ サトル)「つまり、礼儀にうるさい環境にいた。 ──野球部が礼儀にうるさいなんて、これは多少偏見かもしれませんが。」
問間 覚 (トイマ サトル)「ともかく、以上から野球をやっていたと 推測できます。」
問間 覚 (トイマ サトル)「地元のクラブチームの可能性も考えましたが、きみは僕の「中学の部活」という言葉に大きく反応した。」
問間 覚 (トイマ サトル)「同様に「野球かソフトボール」と言った とき、「野球」で大きく反応した。 これでもう確定です。」
問間 覚 (トイマ サトル)「──どうです、これで?」
神宮 開 (ジングウ カイ)「なるほど、そうやって推理を重ねていったということですね。 でも、強くなかったとか嫌な先輩がいたとかまではどうやって……?」
問間 覚 (トイマ サトル)「ああ、それはですね。この辺の中学で野球部が強いとこなんてないんですよ。」
神宮 開 (ジングウ カイ)「えっ!?」
問間 覚 (トイマ サトル)「きみがどこ出身かまで当てるのは難しいですが、僕の噂を知っているということは そう遠くないところに住んでいるはずだ。」
問間 覚 (トイマ サトル)「で、この辺に野球強豪校はない。 遠い中学に通っていた可能性もありますが──その手のマメ。」
神宮 開 (ジングウ カイ)「マメ!? これが?」
問間 覚 (トイマ サトル)「それ、少し古いですよね。 中学で強い部活に入り一生懸命練習した なら、高校でも続ける可能性が高い。」
問間 覚 (トイマ サトル)「そして続ける気なら自主練くらいするでしょう。」
問間 覚 (トイマ サトル)「自主練をしていたならマメはもっと新しく なる。それがないということは、引退して からほぼやっていないということ。」
問間 覚 (トイマ サトル)「ということは、きみは野球に対してそこまでの思い入れがない。よって強豪校ではなかったと推測されます。」
神宮 開 (ジングウ カイ)「な、なるほど……。 でも、先輩のことは?」
問間 覚 (トイマ サトル)「それはきみの喋り方です。」
神宮 開 (ジングウ カイ)「喋り方?」
問間 覚 (トイマ サトル)「きみは礼儀正しい部分もあるが口調が乱暴だ。周りにそういう話し方をする人がいた からでしょう。」
問間 覚 (トイマ サトル)「それに教室に入ってきたときやけに高圧的 だった。 ──今までの反動ですか? いじめられると、誰かをいじめたくなる。」
神宮 開 (ジングウ カイ)「そ、そんなつもりじゃ……。 それに嫌な先輩はいたけど、いじめられてたわけじゃないですよ。」
問間 覚 (トイマ サトル)「そうですか、それはよかった。」
問間 覚 (トイマ サトル)「ともかく、きみの喋り方、謝り慣れた様子、弱小野球部、このあたりからきみの先輩を イメージしてみました。」
問間 覚 (トイマ サトル)「やる気のない人が群れると荒れますからね。」
問間 覚 (トイマ サトル)「ちなみに面接についてもきみの喋り方です。「貴校」なんて、面接以外じゃそうそう使いませんからね。」
問間 覚 (トイマ サトル)「どうですか、これで僕の妖怪疑惑は晴れましたか?」
神宮 開 (ジングウ カイ)「はい……。妖怪じゃなくてもそれだけわかるものなんですね。すごい。」
問間 覚 (トイマ サトル)「訓練すれば誰でもできるようになりますよ。 そこまですごいものではありません。」
神宮 開 (ジングウ カイ)「でも……。」
仁悟 未来 (ジンゴ ミライ)「はいはい、サトルのことはこの辺でもう いいだろ。 それよりそろそろお前の話を聞かせてくれ。」
仁悟 未来 (ジンゴ ミライ)「お前の母親にいったいなにがあったんだ?」
神宮 開 (ジングウ カイ)「……はい。わかりました。」
神宮 開 (ジングウ カイ)「もうだいぶ昔の話なんですが──」
〇学校の部室
しばらく前からサトルは机を叩くのをやめていた。
シンとした教室に、カイの声が暗く響く。
神宮 開 (ジングウ カイ)「今から10年以上前のことです。 俺はもう全然覚えてないけど、もともと 俺たち家族は別の場所に住んでました。」
神宮 開 (ジングウ カイ)「けれど俺が産まれて数年後、この辺に引っ越してきました。母さんの両親、つまり俺の祖父母にあたる人が高齢だからと」
神宮 開 (ジングウ カイ)「それも立派な理由のひとつだったけど、 実はもうひとつ引っ越しの理由があって。」
神宮 開 (ジングウ カイ)「母さんはストーカーされてたらしいんです。」
仁悟 未来 (ジンゴ ミライ)「「らしい」。 物的証拠はなかったってことか?」
神宮 開 (ジングウ カイ)「いえ、俺が覚えてないだけで、脅迫状とか 届いてたらしいです。警察にも相談して 引っ越しを勧められたとか。」
問間 覚 (トイマ サトル)「ストーカーから逃げるためにきみたちはここへ越してきた。 だけどストーカーは諦めなかった?」
神宮 開 (ジングウ カイ)「はい・・・・・・。 しばらくは平和だったらしいけど、また脅迫状がくるようになって」
神宮 開 (ジングウ カイ)「そしてある日、母さんは僕に「ちょっと出かける」と言って出て行ったきり、帰ってこなかったんです」
神宮 開 (ジングウ カイ)「仕事で出かけていた父さんが帰ってきて、慌てて辺りを探したけど見つからなくて。代わりに出てきたのが最後の脅迫状でした」
神宮 開 (ジングウ カイ)「そこには「木霊ノ森公園へ来い。来なければ息子がどうなっても知らないぞ」という内容が書いてあって……。」
神宮 開 (ジングウ カイ)「警察が公園周辺を捜索したけど、なにも見つかりませんでした。公園までは目撃情報もあったけど、森へ入って行ったらしくて……。」
神宮 開 (ジングウ カイ)「その後の足取りはまったく掴めないまま、 10年経ちました。」
「…………。」
神宮 開 (ジングウ カイ)「くそっ! あのとき俺が母さんを止めていれば……!」
仁悟 未来 (ジンゴ ミライ)「・・・・・・カイ、気持ちはわかるがそれはもうどうにもならない。 それより、その母さんの失踪と妖怪がどう関係あるんだ?」
神宮 開 (ジングウ カイ)「だって……。」
神宮 開 (ジングウ カイ)「だって、もう10年ですよ。10年!!」
神宮 開 (ジングウ カイ)「森へ入った途端、足取りがいっさいわからなくなる!!警察犬もダメだった!!」
神宮 開 (ジングウ カイ)「手がかりも音沙汰も何もなく、もう10年経った。10年ですよ? こんな、こんなの──」
神宮 開 (ジングウ カイ)「妖怪じゃなきゃなんなんですか!? 人間以外の存在が関わっていないとおかしいでしょう!?」
カイの声が教室中に響きわたる。
それは何度も反響し、カイの苦しさをふたりに伝えた。
それが収まり再び静寂に包まれたとき、ゆっくりとサトルが口を開いた。
問間 覚 (トイマ サトル)「……カイくん。」
問間 覚 (トイマ サトル)「非常に言いづらいですが・・・・・・、遭難事故というのはそう珍しいものではないんですよ」
問間 覚 (トイマ サトル)「木霊ノ森は公園付近はともかく、奥に行けば行くほど深くなる。あそこでの遭難は何件か聞いたことがあります。」
問間 覚 (トイマ サトル)「だから、きみのお母さんも……。」
神宮 開 (ジングウ カイ)「……そんな、」
神宮 開 (ジングウ カイ)「そんなことは警察から何百回も聞きました!! だからって、だからって母さんを諦めろっていうんですか!?」
神宮 開 (ジングウ カイ)「まだ死体も見つかってないのに!!」
問間 覚 (トイマ サトル)「──っ、それは……。」
仁悟 未来 (ジンゴ ミライ)「へいへい、カイ、いったん落ち着こうぜ。 ほらチョコ食え。」
神宮 開 (ジングウ カイ)「あ、す、すみません……。」
仁悟 未来 (ジンゴ ミライ)「なあ、ストーカーの犯人は見つかってないのか? そっちの手掛かりもゼロなのか?」
神宮 開 (ジングウ カイ)「そっちも・・・・・・川島流太郎という男が容疑者として上がってたんですが、決定的な証拠はないみたいで。完全に手詰まりでした」
仁悟 未来 (ジンゴ ミライ)「そうか……。」
神宮 開 (ジングウ カイ)「あの、妖怪の話に戻るんですけど。 もうひとつあって。」
仁悟 未来 (ジンゴ ミライ)「お、なんだ?」
神宮 開 (ジングウ カイ)「……聞こえるんですよ。」
仁悟 未来 (ジンゴ ミライ)「聞こえる?」
神宮 開 (ジングウ カイ)「はい。母さんが消えてから、俺も父さんも 母さんの友達もその他いろんな人も、何度も森へ探しに行きました。」
神宮 開 (ジングウ カイ)「それで、森の奥へ行くたび聞こえるんですよ。」
神宮 開 (ジングウ カイ)「「カイ、どこなの、母さんはここよ、カイ、カイ──」って、母さんの声が。」
「…………。」
仁悟 未来 (ジンゴ ミライ)「……それ、他の人には? 森へ行くと誰でも聞こえるのか?」
神宮 開 (ジングウ カイ)「いえ、俺だけです。」
神宮 開 (ジングウ カイ)「幻聴だろうって、何度も精神病院連れて 行かれて薬飲みましたよ。 ……でも、何回薬を飲んでも俺には聞こえるんです。」
仁悟 未来 (ジンゴ ミライ)「そうか……。」
神宮 開 (ジングウ カイ)「・・・・・・こんな話、信じてもらえませんよね。 父さんにも、もう何度も母さんのことは諦めろって言われてるんですよ」
神宮 開 (ジングウ カイ)「でも俺は諦められない。 森へ行けば声が聞こえるんです。」
神宮 開 (ジングウ カイ)「だから、だから──、」
〇学校の部室
問間 覚 (トイマ サトル)「…………。」
仁悟 未来 (ジンゴ ミライ)「…………。」
生活指導委員「おっつかーれさーまでーーす!!」
生活指導委員「あれあれ? どした? ジンゴもサトルも暗い顔しちゃって?」
生活指導委員「仕事サボった上にテンション低いとか勘弁 してくれよ〜委員長。」
仁悟 未来 (ジンゴ ミライ)「おう、おつかれ。 俺はお悩み相談部の仕事があったの、 サボりじゃねぇよ。」
生活指導委員「本当か〜〜?誰もいないじゃん。 どうなの、サトル?」
問間 覚 (トイマ サトル)「本当ですよ。お客ならさっき帰ったとこです。」
生活指導委員「そかそか、じゃあ俺ら全員で服装点検してた甲斐があったな。」
生活指導委員「お前が「やっかいな客が来る気がする」とか言うから、わざわざ全員出払ってやったんだぜ、ジンゴ。」
生活指導委員「こんな入学式初日から服装違反するような 生徒、そうそういないって! あはは、後でなんか奢れよ!」
仁悟 未来 (ジンゴ ミライ)「うっす、ありがとな、みんな。 今度差し入れ持ってくるわ。」
仁悟 未来 (ジンゴ ミライ)「サトル、帰ろうぜ。」
問間 覚 (トイマ サトル)「はい。 ではみなさん、お疲れ様です。」
生活指導委員「お〜っす、おつかれーぃ。」
〇住宅街
仁悟 未来 (ジンゴ ミライ)「あの新入生くん、どう思う?」
問間 覚 (トイマ サトル)「初っ端から随分重い話でしたね……。」
仁悟 未来 (ジンゴ ミライ)「いやいや、そうだけどさ、そうじゃなくて。」
仁悟 未来 (ジンゴ ミライ)「あいつ、お前のこと一発で当ててたぜ!? 妖怪「サトリ」くん?」
問間 覚 (トイマ サトル)(カイ君には妖怪なんていないと言い切ったし、僕も純粋な妖怪は見たことないけど。)
問間 覚 (トイマ サトル)(どこかで妖怪の血が混ざって、それがたま たま濃く出ることがある。 そしてさらに低い確率で、特殊能力を使えることがある。)
問間 覚 (トイマ サトル)(──僕やジンゴさんみたいに。)
問間 覚 (トイマ サトル)(もっとも、世代を重ねるごとに血は薄まって、能力に制限があったり副作用があったりと劣化はしてるけど。)
問間 覚 (トイマ サトル)「あんなのただの偶然でしょう。ジンゴさんのことはなにも言ってなかったし。 ていうかそもそも、僕もあなたも立派な人間です。」
仁悟 未来 (ジンゴ ミライ)「あっはっはっ。 心を読む妖怪「サトリ」が、逆に正体を暴かれるなんてな!」
問間 覚 (トイマ サトル)「ジンゴさん、聞いてます?」
仁悟 未来 (ジンゴ ミライ)「聞いてる聞いてる。 じゃあ、カイ本人は置いといて。」
仁悟 未来 (ジンゴ ミライ)「──どう思う? カイの話。」
問間 覚 (トイマ サトル)「そうですね。カイ君には同情しますが…… 正直、どうしようもないです。」
問間 覚 (トイマ サトル)「警察が捜査して見つからなかった上に、もう10年も前の話だ。」
問間 覚 (トイマ サトル)「いくら僕らに特殊能力があるとはいえ…… 結局はただの高校生だ。なにもできませんよ。」
仁悟 未来 (ジンゴ ミライ)「だよなあ……。写真でも持ってきてもらって顔と名前がわかれば、生きてるか死んでるかくらいは”視れる”けど……。」
問間 覚 (トイマ サトル)「ジンゴさんがそこまですることないですよ。 ……少し気になるとすれば、木霊ノ森というくらいですが。」
仁悟 未来 (ジンゴ ミライ)「ああ、あそこは代々、木霊一族が管理してる土地だもんな。」
問間 覚 (トイマ サトル)「ええ。木の精霊である木霊の血を引いていれば、誰かを迷わせて森から出れなくするくらいワケない。 けど──。」
仁悟 未来 (ジンゴ ミライ)「木霊一族にそんなことをするメリットが ない。」
問間 覚 (トイマ サトル)「ですよね……。 ストーカーが木霊一族のメンバーだったならあるかもしれませんが、「川島」だと……。」
仁悟 未来 (ジンゴ ミライ)「まあ名字はいくらでも変わる可能性あるし、そのセンから調べるのもアリだけど……。 望み薄かなぁ。」
仁悟 未来 (ジンゴ ミライ)「「声」っていうのも、カイにしか聞こえないんじゃな……。妖怪より幻聴の方が可能性が高い。」
仁悟 未来 (ジンゴ ミライ)「俺らにできることといったら、母親のことであいつが嫌な思いをしないようにサポート するくらいか?」
問間 覚 (トイマ サトル)「そうですね。カイくんのお母さんのことを 解決しようとするより、そちらの方が現実的です。」
仁悟 未来 (ジンゴ ミライ)「よし、とりあえずお悩み相談部に入れよう。」
問間 覚 (トイマ サトル)「なんでそうなるんですか……?」
仁悟 未来 (ジンゴ ミライ)「母親だの妖怪だのを忘れるくらい、楽しい 高校生活にさせてやろうぜ!ってことよ! がんばれよ、次期部長!」
問間 覚 (トイマ サトル)「ええ、僕まかせですか……。」
仁悟 未来 (ジンゴ ミライ)「しょーがないじゃん、俺途中で引退するし。 任せたぜ! ……あれ。」
仁悟 未来 (ジンゴ ミライ)「なんか曇ってね? もしかして今日雨降る?」
問間 覚 (トイマ サトル)「天気予報で夜から明け方にかけて降るって 言ってましたよ。でも明日は晴れるって。 傘持ってないんですか?」
仁悟 未来 (ジンゴ ミライ)「ない。でも帰るまではギリ持つか? 急ごうぜ、サトル。」
問間 覚 (トイマ サトル)「はい。 ……カイくんのお母さんの失踪と妖怪が関わっているとは思えないけど、最後に言って いた”アレ”は気になりますね。」
仁悟 未来 (ジンゴ ミライ)「ああ、”アレ”な。 あの考えはよくないな。」
〇学校の部室
神宮 開 (ジングウ カイ)「……こんな話、信じてもらえませんよね。 父さんにも、もう何度も母さんのことは 諦めろって言われてるんですよ。」
神宮 開 (ジングウ カイ)「でも俺は諦められない。 森へ行けば声が聞こえるんです。」
神宮 開 (ジングウ カイ)「だから、だから──、」
神宮 開 (ジングウ カイ)「妖怪でもいい。人間じゃなくて構わない。 だから、もう一度母さんに会いたいんです。」
〇住宅街
仁悟 未来 (ジンゴ ミライ)「妖怪でもいいから会いたい、ね。 アレはマズイな。」
問間 覚 (トイマ サトル)「妖怪は人の想いから産まれるもの。誰かが 望めば”そういう”妖怪が新たに産まれる。 ──でしたっけ?」
仁悟 未来 (ジンゴ ミライ)「そ。カイの母親が生きてても死んでても……カイがそう思ってたら母親が人間じゃなく なる可能性がある。」
仁悟 未来 (ジンゴ ミライ)「生きていたら生き霊に、死んでいたら怨霊に。そして息子のカイを襲いかねない。」
仁悟 未来 (ジンゴ ミライ)「そうならないためにはその考えを捨てさせるのが1番手っ取り早い。──うん、ますますお悩み相談部に入れないとな。」
仁悟 未来 (ジンゴ ミライ)「てなわけで頼んだぜ、次期部長。」
問間 覚 (トイマ サトル)「はい。……カイくんが楽しく高校生活を過ごせるように頑張りましょうね、部長。」
仁悟 未来 (ジンゴ ミライ)「おう! 俺が引退してからも頼んだぜ、次期部長!」
仁悟 未来 (ジンゴ ミライ)「よし、楽しい高校生活をおくるためにまずはダッシュだ! ほら、急いだ急いだ! 遅いぞ次期部長!」
問間 覚 (トイマ サトル)「ちょ、引っ張らないでください!」
問間 覚 (トイマ サトル)「まったく、僕は傘持ってるんですよ!」