1話 母、ヒロインになる(脚本)
〇散らばる写真
桜がいれば、私はなんでもできる気がした
どんな理不尽なことでも我慢できる
わたしの大切な娘・・・・・・
そんな娘の桜が行方不明になった
〇二階建てアパート
娘が消えたのは突然だった
私がパート先の職場から自宅のアパートに帰ると、桜の姿はなかった
桜は高校一年生で6月まで公立の高校に通っていた
しかし、訳あって登校拒否になってからは、ずっと家にいた
桜が家にいないことを不思議に思ったが、
近くのコンビニにでも出掛けているのだろうと思い、私は夕飯の準備を始めた
〇二階建てアパート
しかし、深夜になっても桜は帰って来なかった
桜の部屋には財布や携帯電話が置いたままになっていた
その時になって私はようやく事の重大さに気づいた・・・
〇古いアパートの部屋
私はすぐに警察に捜索願いを出した
しかし熱心に捜索されることはなかった
事件性が高いと特異行方不明者になるが──
子どもや老人に当たらない桜は一般家出人と警察に判断されたからだ
内気な桜がこれまで家出なんてしたことは一度だって無かったのに
それから、私は桜の中学や高校生の同級生と連絡を取ってみたり、桜の写真を持ってネットカフェを回ったりした
しかし、まだ桜の行方はわかっていない
桜が消えてから既に二週間経とうとしている
真知子(もし、桜がこのまま帰って来なかったら?)
真知子(あの人と同じように──)
真知子「そんなはずない! 桜は死んだりなんかしてない!」
真知子(絶対にどこかで生きてるはずよ・・・)
桜・・・!?
〇アパートの玄関前
莉子「あ!桜ちゃんのお母さん!」
真知子「莉子ちゃんじゃない。どうしたの?」
莉子ちゃんは桜の幼なじみだった。高校も同じで、桜が登校拒否になるまで一緒に学校に通っていた
莉子「桜ちゃんに漫画を借りていて・・・」
莉子「ずっと借りたままは桜ちゃんに悪いと思って・・・」
真知子「わざわざありがとうね。良かったら上がって。お菓子があるの」
莉子「そんな!悪いですよ! 私はただ漫画を返しに来ただけなので」
真知子「知り合いからカステラをもらったんだけど、私ひとりじゃ食べきれないから・・・」
莉子「・・・」
莉子「そうしたら、お言葉に甘えて・・・」
〇古いアパートの部屋
真知子「良かったらどうぞ」
莉子「ありがとうございます!頂きます!」
真知子「莉子ちゃんには本当に感謝しているの」
真知子「ずっと桜の宿題やプリントも届けてくれたし」
莉子「気にしないでください!」
莉子「桜も私も同じ漫画やゲームが好きで・・・」
莉子「最近なんて、ふたりでマジキャンの話しするために会いに来てるような感じでした」
真知子「マジキャン?」
莉子「マジック★キャンパスっていう乙女ゲームです。桜もわたしも大好きで・・・」
真知子(そういえば、よく桜が話していた気がする)
真知子(家事や仕事で忙しくて、桜の話をちゃんと聞けてなかったな・・・)
真知子「どんな内容のゲームなの?」
莉子「マジキャンは普通の女の子が魔法が使える異世界にトリップしてしまう話なんです。よくいう異世界トリップものですね」
真知子「異世界トリップもの?」
莉子「そういうのが流行りなんです」
莉子「異世界で主人公が大活躍するようなお話が」
莉子「・・・桜ちゃんみたいな子が家出するなんて私考えれなくて・・・」
莉子「桜ちゃんも、もしかしたら異世界にトリップしちゃったんじゃないかなんて考えちゃうんですよね・・・」
莉子「桜ちゃんマジキャンの世界が大好きだったから」
莉子「こんな妄想、馬鹿げてるかも──」
真知子「そうよ!莉子ちゃん!」
真知子「きっと桜は異世界に迷いこんでしまって、帰れないんだわ!」
莉子「えっ・・・?」
莉子「桜ちゃんのお母さん・・・?」
莉子「ご、ごめんなさい・・・わたし。 そんなつもりじゃ──」
真知子「なんで謝るの?莉子ちゃんは悪くないわ!」
真知子「莉子ちゃんのおかげよ!ありがとう!」
真知子「これで桜を見つけられるかもしれない!!」
莉子「・・・っ」
〇木造の一人部屋
莉子ちゃんが帰ってから、私は桜の部屋を調べた
桜の机には携帯ゲーム機が置かれていた
まるでつい先程までゲームをしていたようだった
携帯ゲーム器にはマジック★キャンパスのゲームがセットされている
真知子(きっとこの世界にとじこめられて桜は帰れないんだわ・・・)
真知子(私が絶対に桜を助けるわ)
ゲーム器の近くに置かれたケースから取り扱い説明書を取り出す
真知子(これがゲームの説明書ね)
マジック★キャンパスは、魔法世界にある学校で、生徒たちと交流を深め、パートナーと共に一級魔術師を目指す乙女ゲームです
主人公のあなたは、運命のパートナーを見つけるため、生徒たちと親密な関係を築いていく必要があります
真知子(乙女ゲームってなにかしら・・・?)
ゲームの注意事項
1.ゲームは明るい場所でプレイして下さい。著しく視力が低下する可能性があります
2、長時間の使用は健康を害する可能性があります。体調不良や睡眠不足でのプレイは控えてください
3、現実世界に影響を及ぼす場合がございます
真知子「これは!」
真知子「やっぱりゲームの世界とこっちの世界が繋がっているんだわ」
真知子(でも、そもそもゲームのやり方がよくわからないわ・・・)
真知子(桜にゲームの使い方を教わっておくべきだった)
真知子(とりあえず、やってみましょう)
わたしは取り扱い説明書をポケットに入れた
真知子(それに、どうやったらゲームの世界に入れるのかしら?)
真知子(世界中には異世界にトリップした物語がたくさんある。それを参考にできないかしら?)
真知子(不思議のアリスなら鏡から──)
真知子(オズの魔法使いならハリケーンに巻き込まれて異世界に行ったけれど・・・)
真知子(このゲーム機がきっかけにならないかしら?)
真知子(とりあえず、メニューからマジック★キャンパスを選択と)
真知子「なんなの!?」
〇ステンドグラス
真知子「こ、これは!」
真知子「ゲームの中に入れたのね!」
真知子「良かった!」
真知子「桜に会えるわ!」
あなたの名前は?
真知子「私の名前は真知子よ・・・」
真知子「この声は誰なの?」
わたしはこの世界の案内人だ
真知子「桜!桜はこの世界にいるんでしょ!」
真知子「桜の居場所を今すぐ教えて!」
真知子「あなたが桜をつれてったんでしょ!」
真知子「この誘拐犯め!懲らしめてやるから!」
真知子よ・・・異世界からきた乙女よ・・・
真知子「人の話を聞きなさいよ!」
真知子「乙女ってだれのことを・・・」
パートナーを見つけ一級魔術師を目指すのだ
真知子(パートナーって・・・)
真知子(つまり私は・・・)
〇西洋の城
真知子「ここは・・・?」
真知子「凄いわ・・・まるで遊園地にあるお城みたい」
真知子「もしかしてこれがマジックキャンパス?」
真知子(さっき案内人とやらが、私のことを乙女と呼んでいた)
真知子(異世界から来た乙女が桜のことじゃないなら・・・)
真知子「つまりわたしがこのゲームの主人公に・・・!?」
母が娘を追って異世界にという設定が凄く面白そうでした。母の娘への思い入れも深く、ショックも深そうだなぁと思いました。娘の友達を家にあげたり、異世界トリップを間に受けたりと精神にダメージが入っている描写がわかりやすく、娘の友達の側は逆に異世界トリップなんて突飛なことを吹き込んでしまったと罪悪感?みたいなものを抱えてそうだったりとリアル感がありました。本当にトリップしちゃって、先が気になります。
面白かったです!一瞬サイコホラーが始まったのかと焦りましたが…無事(?)異世界トリップできたようでとりあえずホッとしました。
子を想う母の切実さが伝わってきてハラハラ…そして導入のセリフに切れるお母さんでちょっと笑いました😂
お母さんは異世界で娘を、そしてパートナーを見つけてしまうのか…?続きがとても気になります。
いきなり異世界の乙女になったお母さん!
娘さんがいなくなって、探し続けていたところにこのゲームって、やっぱり藁にもすがる思いだったのかな?って思いました。
この先が楽しみです!