あいいろ

さくり

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〇沖合
  ──今でも昨日のように思い出すことができる。
  ──彼女と初めて会ったあの日。
女性「・・・あなたは、愛ってどんな色をしていると思いますか?」
  眩しいぐらいの青さの空と海を背にして、僕が一目惚れした女性は僕にそう問いかけた。

〇沖合
女性「こんにちは」
僕「こんにちは」
  いつも通り、彼女はそこにいた。
  彼女は楽しそうな口ぶりで僕に話しかける。
女性「今日こそは満足の行く答えを持ってきてくれましたか?」
僕「えーと・・・」
  とりあえず回答は用意してきてはいるが、自信の無さからどうも口籠もってしまう。
  そんな僕を見て、彼女はくすくすと上品に笑った。
女性「ふふっ、そんなに気負わなくても大丈夫ですよ」
  その言葉に決心がついて僕は話し出す。
僕「それじゃあ、今回は黒で! なぜなら愛には色んな感情があるし、色は混ざりあうと黒になるから!」
僕「・・・とか、ダメですかね」
女性「面白い答えですね! でも・・・」
女性「なんだか、違うように思えます」
僕「・・・そうですか」
  今回もダメだった。
  思わず口から出そうになるため息を必死に堪える。
  出会ってすぐに一目惚れした事を伝えると彼女は愛とはどんな色をしているのかという質問を僕に投げかけた。
  僕が立ち尽くしていると、彼女はその問いに満足する答えを出さなければ付き合うことは出来ないという。
  なぜそんな訳の分からないことをするのか、より一層彼女に興味が湧いてなんとしてでも上手くやって見せようと思った。
  その気持ちを伝えると彼女は驚き、ならば1週間考える時間をくれると言った。この場所で、同じ時間で待っていると。
  ──1週間後。
  僕が答えた情熱の赤という答えに彼女は少し考えてから首を横に振った。
  ごめんなさい。
  そう言いかけた彼女を止めて僕はまた違う答えを考えるから、待っていてくれと言った。
  絶対に満足の行く答えを見つけてみせる。
  真っ直ぐに伝えれば、彼女はまたしても驚き、そして僕に告げた。
  それなら今回も一週間待ちます。あなたが諦めるか、私が納得するまで、毎週ここで落ち合いましょう。
  そうして今に至るまでの彼女との恒例行事が始まった。

〇沖合
僕「・・・はあ〜! 自分が情けない!」
僕「あんな大口叩いといて一年経っても納得させられないなんてさ!」
女性「・・・一年?」
女性「そう、一年間あなたはずっと・・・」
  そう呟いたあと彼女は僕に向き直って話しかける。
女性「少し砂浜を散歩しませんか? 話したいことがあるんです」
僕「えっ、あっ、もちろん!」
  彼女からこんな提案が飛んでくるとは思わず、僕は食い気味に答えた。
女性「ふふっ」
  そんな僕を見ておかしそうに笑う彼女は太陽よりも眩しかった。

〇海辺
  砂浜で二人並んで歩きながら、僕は彼女が語り出すのを待って、波が3回砂浜に打ち上げられた後に彼女は語り出した。
女性「私、実は美大に行ってるんです」
女性「・・・そして、あなたと会ったあの日、振られました」
僕「・・・」
女性「それまでの日々は幸せでした」
女性「ただ気持ちを筆に乗せるだけで、今までよりもずっと素敵な絵が描けたように思えて」
女性「恋って、愛ってなんて素晴らしいんだろうって思って」
女性「どんな色だって、私の思う愛の色になれたんです」
女性「けれども彼は私を捨てました。私がよく分からないと」
女性「私だけじゃなく、私の絵は分かんないしつまんないと」
女性「私が込めた気持ちはつまらなかった。なら、愛って何?どんな物なの?それが全然わからなくなってしまったんです」
僕「あっ・・・」
  涙を流す彼女に駆け寄り、何か声をかけようとしてハッと頭に一筋の考えが浮かんだ。
僕「藍色・・・」
女性「え?」
僕「やっと分かったんです。俺にとっての愛の色が」
  そう言って指で彼女の涙を拭えば、ビクッと肩を震わせながらも彼女は抵抗しなかった。
僕「くすんだ青。あなたと初めて会った日と同じような、澄んだ空や海の色ではないけれど、」
僕「分かりますか? 俺、実は話聞いててむずむずしてたんですよ? あなたを捨てた人が嫌で、あなたに愛されているのが羨ましくって」
女性「・・・」
僕「それでも、泣いたあなたを見て最初に思ったのは、その涙を拭いたい、笑った顔がみたいだったから」
僕「初めて会った時からずっとこの景色の様に青く輝いているあなたへの気持ちが、」
僕「あなたが振り向いてくれない事や嫉妬や劣等感でくすんで藍色・・・になりました」
女性「・・・掛けてますか?」
僕「あっ、そんなつもりじゃ・・・」
  慌てて取り繕うとして、止まった。
女性「ふふっ、あはは!」
  見惚れていたからだ。
女性「物好きですよね! 一年間、飽きもせずこんな変な女の出した質問にずっと真摯に向き合ってくれて・・・」
僕「それじゃあ・・・」
女性「いえ、返事はもう少し待っていただけませんか?」
女性「私、今、やりたい事が出来たんです」
僕「!?」
  焦り出した僕に彼女は笑みを深める。
女性「藍色の絵を描きたいんです。 私の隣で、描いているところを見守ってくれませんか?」
僕「・・・はい!」
  悪戯っぽく笑う彼女に手を引かれ、僕らは砂浜を駆け出した。

コメント

  • 私自身に芸術的な才能がカケラもないので、こういうミステリアスな才能のある方に惹かれる気持ちってなんだかすごくよくわかります。解けない謎を解く感じで、すごく引き込まれたんだろうなあと思いました。

  • 藍色って青の中でも深くて、独特な色みの色ですよね。藍色ってきくと私の中では藍染めが思い浮かぶので、ぱきっとしたイメージとは正反対の、柔らかいメージもありますね。わかりやすいピンクよりもある意味とてもロマンチックな表現だと感じました。さて、どんな絵が仕上がるんでしょう。楽しみですね。

  • 色って不思議だと思うんですよね。
    特に夕焼けとか、綺麗だなぁと思いますが、地球の位置が少しズレていたら色は変わっていたようです。
    でも例え夕焼けがピンクだったとしても、違和感を感じずそれが当たり前として捉えられるんですよね。
    好きな色、お気に入りの色、それは思い出の色なのではないでしょうか。

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