旅立ち(脚本)
〇体育館の舞台
厳かに式が進む中、僕はそわそわと落ち着かなかった。
学年主任「次に、答辞。卒業生代表──」
理玖(先生、感慨深く目を閉じてる場合じゃないですよ。ああ、なんで僕が緊張してるんだろう)
学年主任「いしか、わっ・・・?!」
烈ちゃん「はい!」
真っ赤になびく髪がステージの照明を跳ね返す。保護者席から上がった悲鳴は、おそらく烈ちゃんのお母さんのものだ。
唯子「烈ちゃん、かわいい〜〜〜〜💕最強ツインテールだ!あの髪色、理玖ちゃんがやったの?」
理玖「うん、僭越ながら。良かった、指定の制服でも違和感ないや」
烈ちゃん「弥生の柔らかな日差しが、変わらず学舎を照らす今日──」
烈ちゃんの烈は、熾烈の烈。大衆のざわめきなど、彼女に届くはずもない。
良かった、とりあえずステージからは降ろされないようだ。
唯子「ピンクのカラコンとお化粧もすっごく素敵!理玖ちゃん、また腕上げたねえ!」
理玖「お褒め頂き恐悦至極。唯子さんも緑のおめめ、とってもお似合いです」
唯子「ありがとう、烈ちゃんが初めて会ったとき褒めてくれたの、嬉しくて!早く式終わらないかなあ、あの烈ちゃんと写真撮りたい〜💕」
理玖「嬉しいよね。僕も、おんなじ理由でこんな格好してる」
烈ちゃんの烈は、苛烈の烈。思ったことを口にし、美しいものを愛で、今日も世界を愛している。
烈ちゃん「私たちはこの自由で無責任な学校で過ごした三年間を糧にし──」
唯子「あらら、言っちゃったよ無責任って。まあずっと黒髪で制服着てたの、烈ちゃんだけだもんねえ」
理玖「そうだねえ。成績さえ良ければなんでもオッケーの学校で、優等生フォルムの烈ちゃんがぶっちぎり1位なの、いい塩梅の皮肉だよね」
唯子「烈ちゃんパパが超厳しいから真面目ちゃんしてたんでしょ?今日来てないのかな?」
理玖「ううん、来てるよ。後ろの方、お母さんが必死に抑えてる」
唯子「烈ちゃんは好きな格好してても1位だったと思うけどなあ。時に理玖ちゃん、告白しないの?卒業式だよ?」
理玖「いやあ、ああいう人だからねえ。あとたぶん、今日から烈ちゃん、それどころじゃ──」
烈ちゃん「私から言えることは、たったひとつ!みなさん、ここまで支えてくれた大人たちに感謝なんてしなくても、生きていけます!」
唯子「あ、始まった」
理玖「まあ、何度も生徒代表辞退してたのに、聞かなった先生たちにも責任がね・・・」
烈ちゃん「県内トップのこの学校にいるのも、有名大学に受かったのも、全てみなさんの実力です!つまり!」
唯子「あ、お父さん走り出しちゃった」
理玖「まあ、堪えてくれた方じゃないかな・・・話聞いてると、凄まじい時代錯誤パパだもんねえ」
烈ちゃんパパ「ふざけるな!!!」
唯子「わあ、ステージよじ登ってる・・・。あっちに階段あるのにね」
理玖「烈ちゃん、自分でお父さん似って言ってたもんね。わー、マイク持って走るの似合うなあ」
烈ちゃん「もう怒鳴り声に怯える必要はありません!18歳は成人で、大学は何歳になっても行けるのです!今すぐに家を出たっていい!」
理玖「さて唯子さん、これから何故か体育館の照明が消えちゃうからね、危ないからじっとしてるんですよ」
唯子「ええっ理玖ちゃん!?まさか!?」
烈ちゃん「この世界を、自分の力で愛しましょう!それでは!」
〇体育館の舞台
彼女がそう叫んだ瞬間、体育館が真っ暗になった。唐突にもたらされた非日常に、あちこちで歓喜の悲鳴が上がる。
烈ちゃんパパ「礼子!!どこだ、出てこい!!!」
そういえば、彼女はそんな名前だった。熾烈で苛烈で鮮烈な烈ちゃんは、与えられた名前すらも塗り替えてしまった。
理玖「烈ちゃん、こっちこっち」
烈ちゃん「理玖、ありがとう!ほんとに助かったよ、私一人じゃできなかったよ〜!」
理玖「いやいや、ブレーカー落とすくらい。それより、ほんとにこのまま東京行っちゃうの?捜索願いとか出されない?」
烈ちゃん「平気よ、後で彼には弁護士から連絡がいくから。代理人立てるんだし、失踪じゃないもん!」
理玖「さすが弱冠17歳で司法試験に受かった人はやることが違いますね・・・。烈ちゃん、でも寂しいよ。これは本当」
烈ちゃん「一生の別れじゃないんだから、そんな顔しないで」
烈ちゃん「それより、この髪!本当に素敵、理玖は絶対に美容師になるべきよ!」
烈ちゃん「あなたが夢の通り自分の店を持ったら、私、どこへだって駆けつけるから!」
烈ちゃんは絶対に嘘をつかない。そのまっすぐさがどれほど僕の背中を押してくれたか、とても言葉では言い表せない。
理玖「うん、ありがとう。もう一度、親と話してみるよ。烈ちゃん、体には気をつけてね」
烈ちゃん「ええ、本当にありがとう!それじゃあ、また!」
そうして彼女は走っていった。一度も振り返らずに。
〇名門校の校門(看板の文字無し)
唯子「まったく、理玖ちゃんも烈ちゃんもなんにも教えてくれないんだから。写真撮れなかったじゃない!」
混乱のまま卒業式は終わり、僕たちは興奮と希望を胸に帰路に着く。
理玖「ごめんごめん、写真は僕とで我慢してよ」
唯子「うん!いつか烈ちゃんに会えたら、見せてあげようね!」
今日みたいな勢いが続かないなんて、賢い烈ちゃんは分かっている。彼女を待ち構えているのは、想像もつかない多難の日々だ。
彼女の強烈な言葉たちが僕らの道を照らしたように、彼女にも、道標や安息の場所が必要なはずだ。
いつか僕がその場所になれるまで、この恋心はしまっておくことにしよう。
烈ちゃんの行動は驚くべきなもので圧倒されますね。その圧倒的な行動力はとても痛快なものである意味スッキリしてしまいますね。
列ちゃんの言葉に大人たちに感謝するべきでないというところ、初め少しひっかかかったんですが、なるほど彼女のように時代錯誤の親を持つ身にとって、レベルの高い学校の生徒という事は親の名誉にもなりますからね。彼女の潔さ、決意の固さが勇ましいです!
こういう自分が強い人は自分の道を突っ走っていくんでしょうね〜。後ろも振り向かず前だけ見て。
そんな生き方に、憧れるし羨ましいなぁと思います….。、