特別でしかないアナタ

西東友一

エピソード1(脚本)

特別でしかないアナタ

西東友一

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〇個別オフィス
  ──俺は特別な存在。
  そうだろ?千秋──
枢木「今日はこれで失礼する」
秘書「承知しました・・・あっ」
  社長室を出ようとしたが、秘書の言葉が気になって俺は足を止めた。
枢木「どうした?」
秘書「いえ、今日はお帰りが早いと思いましたが今日は「特別な日」でしたね」
  今日は3ヶ月ぶりに恋人の千秋とのデート。
  千秋に毎日でも会いたい。
  けれど、複数の企業の代表取締役をしている俺には時間がない。
秘書「たまには社長もお休みください」
枢木「ん? 俺は十分に休んでいるが?」
秘書「・・・」
枢木「?」
秘書「そろそろ、時間では?」
枢木「あぁ。それじゃあ、頼んだ」
  俺は今度こそ社長室を飛び出した。

〇クリスマスツリーのある広場
枢木「いつまで待たせるんだ?」
  人を待つのはいつぶりだろうか。
枢木「って、前回のデートだから3ヶ月ぶりか」
  仕事では人を待たせることが多い俺。
  そんな俺を10分も待たせるような取引先があれば、今後の取引はNOだ。
  だが、今は30分も待っている。
「枢木!!」
  後ろから声が聞こえて振り返ると、千秋がこちらへ手を振りながら歩いていた。
千秋「お待たせ! 待った?」
枢木「当たり前だろ。 今何時だと思ってるんだよ?」
千秋「えーっと、6時28分?」
枢木「・・・約束の時間は?」
千秋「6時だったよね、あはははっ」
  千秋は悪びれもなく笑っている。まぁ、こんな感じの女性だから、俺も仕事を忘れられて心地良いのだが──
枢木「ポップコーンは千秋の奢りね」
千秋「えーっ。枢木ぃ〜。 ポップコーンぐらい逆に奢りなさいよ〜」
  ──大切な時間。
  けれど、水を差す音が鳴った。
千秋「・・・電話。鳴ってるよ?」
枢木「・・・あぁ、そうみたいだな」
  千秋を待っている間にスマホの電源を切っておけばよかった。そんな俺を責めるように着信音は鳴り止まない。
  俺は仕方なくスマホを取り出し、画面を見ると秘書からだった。
  彼女がプライベート中に電話をかけてくることなどほぼない。つまり──
枢木(・・・すまない)
  俺はスマホの電源を切った。
千秋「・・・いいの?」
枢木「ああっ、友達からだったわ。 ほらっ、誰かさんが遅れたから早くしないと映画が始まるぞ?」
千秋「良かったわ。 じゃあ、行きましょうっ」
枢木「おうっ!!」
  俺はこの彼女の満面の笑みを取った。
  ──たまには、いいだろ?神様。

〇映画館の入場口
千秋「でね、友達の優子が──」
枢木「・・・あぁ」
枢木(大阪に店舗を出す件か?それとも、システムのトラブル・・・いや、それならエンジニアが対応すればいいはず)
  全てが順調だったし、そうなるよう調整してきた。だから、秘書の電話の要件はわからなかった。
千秋「ねぇ、枢木!! 聞いてるの!?」
枢木「んっあぁ。聞いているよ、聞いてる。 優子ちゃんがペット禁止のマンションに住んでいるのにネコを飼おうとした話だろ?」
  俺は仕事柄、複数のことを同時にできる。
  だから、俺は別のことを考えていても、ちゃんと千秋の話も頭に入る。
千秋「さっきの電話・・・仕事の人からだったんでしょ?」
  普段大雑把な千秋も、こういう時だけ勘がいい。
千秋「今日は・・・嫌だよ?」
  千秋が上目遣いで目を潤ませながら、俺の腕の袖を握り締めてくる。
千秋「みんな普通に彼氏と・・・ ううん、他の人がどうとかじゃない。 私が枢木といたいの!!」
  俺だって──そうだ。
枢木「じゃあ、電話するわ」
千秋「・・・っ」
枢木「ちゃんと、デートに集中したいから、だよ」
千秋「・・・いいの?」
  俺はスマホの電源をオンにすると、秘書からメールが来ていた。
  件名欄には【至急】の文字があり、操られるようにメールを開封した。
千秋「どうか、したの?」
  千秋が俺の背中に手を添え、心配そうに俺に話しかけてきた。
枢木「・・・悪い。やっぱり、俺が行かなくちゃならないようだ」
  俺は手を上げて道路を走ってきたタクシーを止める。
千秋「ちょっとっ」
枢木「この埋め合わせは必ず・・・」
  タクシーの開いたドアから乗り込もうとすると、千秋が──
千秋「ねぇ、私たちって・・・普通にデートもできないの?」
枢木「俺は『特別』なんだ。すいません、運転手さん。急いでいるんで、出してください」
タクシー運転手「えっ、あっ、はい」
  俺は千秋をその場に残して、会社へと向かった。
千秋「枢木・・・アナタにとって、私は『特別』じゃないの・・・」

〇個別オフィス
枢木「よしっ」
  俺は速やかに仕事を片付けた。スマホを確認すると千秋からメールで『一人で映画を見ます。さようなら』と来ていた。
枢木「件名は『特別なアナタへ』か・・・」
枢木「・・・」
枢木「・・・見せてやるか」
  俺は電話の受話器を取った──

〇映画館の座席
千秋「枢木の・・・バカ」
  エンドロールを見ながら、一人千秋は泣いていた。
千秋「えっ」
  そこに俺が現れるとも思わずに。
枢木「見てるか?千秋」
千秋「なんで、枢木がスクリーンに映るのよ!?」
枢木「ん?この映画館を買収した」
千秋「はぁ!?」
枢木「だって俺、『特別』だろ?」
  買収は大変だったが、大金で解決したのだ。
千秋「バッカじゃないの!?」
枢木「俺は普通の恋はできない」
  千秋は何も言わず、俺をまっすぐ見ている。
枢木「でも、俺は千秋が好きなんだ!!」
枢木「だから──」
枢木「結婚してください・・・」
  こんな方法でいいのかわからない。でも、悩んでいたら、いつまで経っても千秋と一緒になれない。そんなの絶対──嫌だ。
千秋「ぷっ」
千秋「何最後ひよってんのよ」
枢木「うっせ」
千秋「いいよ」
枢木「え?」
千秋「一緒に特別な人生、歩んでやんよ」
  俺たちは普通にはなれない。
  だけど、どうやら幸せにはなれそうだ。
  だって、『特別なパートナー』がいるのだから。

コメント

  • ”特別”な存在による”特別”なデートですね。世の分刻みで動いている人たちって、どんなふうなデートをしているのでしょうね。

  • 仕事が忙しすぎてデートがままならなくても、彼女が特別であるということを伝えることができましたね。こんなに嬉しいサプライズは一生忘れることはないでしょう。

  • 代表取締役社長ともなれば仕事も私生活も大変ですね。特別な彼は特別なことができる能力があるから、そこが魅力的です。二人で特別な人生を歩いて下さい。

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