キュンかもしれない

tomato4t

差出人はすぐそばに(脚本)

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〇女の子の一人部屋
「キュンとは・・・何ですか・・・」

〇女の子の一人部屋
  担当の篠原さんの言葉が、ぐるぐると頭を回る
  前回の打ち合わせから何も出来ないまま、今日の打ち合わせ時間は刻一刻と迫っていた。

〇女の子の一人部屋
篠原 涼「『世俗的な言葉で申しますと、近頃の先生の作品にはキュンがありません。』」

〇女の子の一人部屋
  美しすぎる顔から放たれた言葉に、思わずドキッとした。
  それは甘さなんて微塵もない、言葉通り心臓が痛くて息が詰まるような苦しさ。
  見透かされている、自分がこの作品も好きでないことを。

〇女の子の一人部屋
篠原 涼「『・・・先生、今日はここまでにしましょう。』」

〇女の子の一人部屋
  高校生マンガ家としてデビューして早10年。
  最近は、目に見えて連載が取れなくなっていた。
  私の焦りが、篠原さんにも伝わっているからだろう。
  打ち合わせ時間は、日に日に短くなっていく。
  その気遣いが余計に、私の頭を真っ白にした。

〇女の子の一人部屋
「あ、手紙・・・」

〇女の子の一人部屋
  苦しい時、辛い時、何のアイディアも思い浮かばない時
  いつも私を支えてくれるものを机から取り出した。

〇女の子の一人部屋
  シンプルなレターセットに綴られた、差出人の名前がないファンレター。
  丁寧な字が一生懸命作品への想いを伝えてくれて、手紙全体から応援されている気持ちになる。

〇女の子の一人部屋
「よし、やるぞ!」
  貰った元気でベッドから跳ね起き、篠原さんを出迎える準備に取り掛かった。

〇玄関内
篠原 涼「先生、お疲れ様です」
「お疲れさまです!」

〇玄関内
  扉を開けると、いつもの様に篠原さんが丁寧にお辞儀をしてくれる。
  いつだって背筋が伸びていて、ゆったりとした所作はまさしく王子の様だ。

〇玄関内
篠原 涼「お元気そうでよかったです」
「ご心配おかけしました!今は大丈夫です!」

〇女の子の一人部屋
篠原 涼「異世界ものですか」
「近未来の設定を活かして、弾けるような可愛さを描きたくて・・・」
篠原 涼「なるほど、先生の画風に合っていると思います」

〇女の子の一人部屋
  篠原さんは落ち着きがあって、私の話を最後まで聞いてくれる
  今までのリードしたがる編集さんとは全然違って、打ち合わせが毎回新鮮だ
  話しやすいし、本当に頼れる編集さんだなぁ・・・

〇女の子の一人部屋
篠原 涼「先生、一旦休憩しましょう。話し込んでしまって失礼しました」
「本当だ、外が真っ暗ですね」

〇女の子の一人部屋
  次こそ連載取らなきゃと、いつの間にか余裕を無くして頭が回らなくなっていた。
  篠原さんとちゃんと話せたおかげで、久々に打ち合わせが楽しい。

〇女の子の一人部屋
篠原 涼「先生、申し訳ありませんでした」
「な、何がですか!?」

〇女の子の一人部屋
篠原 涼「先生の作品を連載に導けないのは、ひとえに私の努力不足です」
篠原 涼「私は寝る時間も食事する時間も惜しんで、命懸けで漫画を描いている先生の姿を知っていますから・・・」
篠原 涼「苦しんでいる先生を見ても何もできない自分が、本当に情けないです」

〇女の子の一人部屋
  苦しそうな篠原さんの表情を見て、胸が熱くなる
  そんな風に考えてくれていたなんて、気づきもしなかった

〇女の子の一人部屋
篠原 涼「私は先生のキャラクターへの愛が伝わってくる作風が、とても好きです」
篠原 涼「主役だけでなく、悪役やサブも信念があるからこそ生き生きしていて・・・」
篠原 涼「作品から先生ご自身の温かい人柄を感じ取れるようで、読んでいると前向きな気持ちになれます」

〇女の子の一人部屋
  部屋にこもって1人で漫画を描いていると、不安で押し潰されそうになることがある。
  こんなの面白いの?
  誰が喜ぶの?
  何の意味があるの?・・・と
  そんな時に純粋に作品が好きだと言ってもらえることが、こんなに励みになるなんて

〇女の子の一人部屋
「・・・私が人生で初めて貰ったファンレター、今の篠原さんみたいに私の作品をストレートに好きって伝えてくれたんです」
「だから今日も元気をもらいました」
篠原 涼「そうだったんですね」
「今まで頂いたファンレターの中でも、特に思い入れがあるんです!これ!」

〇女の子の一人部屋
篠原 涼「えッ!?」
「えッ!?」

〇女の子の一人部屋
  汚れたりしないようにとファイルにはさんでおいた手紙を取り出して見せると、篠原さんが大きな声を出した
  見ると顔が真っ赤になっているし、明らかに様子がおかしい

〇女の子の一人部屋
「篠原さん!?大丈夫ですか!?」
篠原 涼「す、すみません・・・!俺・・・!」
「俺!?」
篠原 涼「し、失礼しました!」

〇女の子の一人部屋
  珍しく取り乱す篠原さんから、目が離せない
  素だと俺なんだ・・・と、意外な一面に心臓もドキドキうるさい
篠原 涼「その・・・手紙の差出人も、ファン冥利に尽きると申しますか・・・」
篠原 涼「先生が大事になさっていることを知ったら・・・喜ばれる、かと・・・」

〇女の子の一人部屋
  尊い、可愛い、嬉しい
  感情が入り混じって、私まで顔が熱くなってきた

〇女の子の一人部屋
「れ、連載が取れたら・・・この方に返事を書こうかな・・・なんて」

〇女の子の一人部屋
  恐る恐る顔を上げると、目が輝いている篠原さんが見える

〇女の子の一人部屋
篠原 涼「頑張りましょう先生!」
  初めて見た篠原さんの満面の笑みに、また胸が苦しくなった
  この感情、もしかして・・・?

コメント

  • 孤独な創作に向き合う主人公の姿も、そうして作られたものも真剣に見ていてくれる存在って尊いですよね。そんな担当さんって最高ですね、しかもイケメンってw

  • 小説を読むのが大好きでいつも楽しませてもらっていますが、裏では作家さんも悩んだりしながら書いている、そんなことを思い出すことができました。私も仕事が辛いなと思うこともありますが、応援してくれている人がいることは本当に力にになりますね。勇気がでました。

  • 自分の知らない世界を知れて楽しかったです、物をうみだす方は、色々な感情と向き合ってそれを形にする大変な仕事ですよね、最後まで一気に読ませて頂きました。

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