〇シックな玄関
　　『ただいまー』
　　玄関から颯人の声が聞こえた。
　　夕飯の準備を途中で止め、出迎えにいく。
　　おかえりー
颯人「ただいま。 はい、これ。おみやげ」
　　突然、紙袋を手渡された。
　　そっと中を見ると駅前の喫茶店のロゴマークが見えた。
　　おみやげ？
　　あ、これ駅前の喫茶店の・・・
颯人「うん、お前の好きなカフェオレ」
　　驚いて、颯人の顔を見ると様子を伺うようにこちらを見つめている。
　　急にどうしたの？
颯人「あのさ、お前・・・朝、仕事行く前に何回もため息ついてただろ？」
　　・・・うん
颯人「元気ないなって思って」
　　気づいてたの？
颯人「ああ、正確には一昨日の夕飯のあたりからか？ 休みなのに、なんか落ち込んでるから」
颯人「お前のことなら何だってわかるよ、何年幼馴染をやってると思ってるんだ？」
　　ふふ、そうだね
颯人「それで、カフェオレで元気出るかなって思って買ってきた」
颯人「もしかして・・・要らなかった？」
　　ううん！そんなことない！
　　・・・嬉しいな、ありがとう
颯人「よかった。じゃ、冷める前にどうぞ」
　　うん、いただきます。
　　熱すぎず、ほどよい温度のカフェオレの優しい甘さが体に染み渡る。
颯人「美味しいか？」
　　うん！
颯人「それは良かった」
颯人「・・・少し表情が明るくなったな」
　　颯人は安心したように微笑むと、そっと私の頬を撫でてくる。
　　指先から優しさが伝わってきて、カフェオレの香りと合わさり癒される。
颯人「よし。じゃあ夕飯食べたらさ・・・ちゃんと話聞くから。準備、手伝うよ」
　　私がカフェオレを飲み終わるのを見届けると、部屋の中へと足を進めた。

〇高級マンションの一室
　　ー夕飯の後ー
　　夕飯の後、颯人に促されてリビングのソファーに並んで座った。
　　床を見つめたまま、どう話そうかと悩んでいると、颯人から声をかけられる。
颯人「それで、どうした？」
颯人「お前が何日も落ち込むなんて・・・何があったんだ？」
　　えっと、それは・・・
　　私が話をはじめると、颯人は最後まで真剣な表情で話を聞いてくれた。
颯人「うん・・・うん・・・なるほどな」
颯人「お前の話をまとめると、最終的には些細なミスで済んだけど、一つ間違えたら大問題になるところだったのか・・・」
颯人「そして、周りからもフォローしてもらえたけれど、どうして私ってダメなんだろうって情けなくなったって感じ？」
　　え・・・！どうしてわかったの？
　　颯人に心配かけさせたくなくて、隠していたことを当てられて驚いてしまう。
颯人「どうしてって、お前のことだぞ？」
颯人「幼い頃から一緒にいるんだから、何でもわかるに決まってるだろ」
　　颯人はすごいね
颯人「すごいって・・・こんなの当たり前だろ？」
　　ううん、そんなことないよ。
　　自分の気持ちを理解してくれていたことが嬉しくて、頬が緩んでしまう。
颯人「・・・やっと、俺の好きな笑顔が戻ったな」
颯人「でも・・・あまり心配させんなよ。俺までどうにかなりそうだった」
　　うん・・・ごめんね。
颯人「謝んなくていいって」
颯人「それよりも、お前が落ち込んでた理由もハッキリとしたところだし・・・」
颯人「・・・はい」
　　颯人がこちらに向けて、大きく腕を広げる
　　えっと・・・急にどうしたの？
颯人「急にどうしたの？じゃないって」
颯人「俺は頑張ったお前をぎゅーって抱きしめてあげたいんだけど？」
颯人「ほら、こっちにおいで？」
　　こちらに腕を広げて、優しく微笑む颯人にそっと腕を伸ばすと、
　　待ちきれないというように勢いよく抱きしめられた。
　　わっ、ちょっと、颯人！
　　びっくりして、大きな声をあげると
　　更にぎゅっと力一杯に抱きしめられた。
颯人「はいはい。大人しく抱きしめられていろ」
颯人「俺に心配かけた罰でもあるんだからな」
　　う、うん・・・
颯人「今日は、お前の好きなだけ、 たくさん甘やかしてやるから・・・」
　　優しく囁かれ、心地良い体温に包まれていると、心が安らいでいく。
颯人「よしよし。お疲れ様。 もう大丈夫だ」
颯人「お前はよく頑張った。いいこだな」
　　何度も優しく頭を撫でられると、
　　なんだか泣きそうになってしまって、颯人の服を握りしめる手に力が入る。
　　それが伝わったのか、更に言葉が降ってくる。
颯人「俺は・・・どんなことがあったとしても、そのままのお前が大好きだ」
颯人「何事にも一生懸命で、頑張り屋で、優しくて、何よりも笑顔が可愛くて・・・」
颯人「・・・全部が愛しい、俺の自慢の彼女だよ」
颯人「俺と、一緒にいてくれてありがとう」
颯人「愛してる」
　　沢山の愛情が込められた言葉が嬉しくて、
　　颯人の胸に顔を押し付けて、何度も頷いた。