例えばあの日に戻れたとして

相沢梓

読切(脚本)

例えばあの日に戻れたとして

相沢梓

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〇教室
  あの日のことははっきりと覚えている
  あの時彼に気持ちを伝えられていたら付き合えていたかもしれない
  
  そんな妄想を何度もしてきた
  我ながら痛い女だ

〇大衆居酒屋
高宮誠「鈴川だよな?」
「え?・・・あ、もしかして高宮君?」
  芝居がかったセリフで私は返事した
  もしかしてじゃない
  当然高宮君だ
  当時と変わらないかっこよさだった
「おせーぞ高宮」
「お前目立ちたいからわざと遅れてきただろ」
高宮誠「バーカ そんなわけあるか」
  あの頃と変わらない
  高宮君はいつもみんなの中心にいた
  高校時代に戻ったようだ
高宮誠「さーてさっそく飲むか」
「お前は相変わらずだな高宮」
「ま、とにかくこれで全員揃ったな じゃあ始めるか」
  ハキハキしたあのしゃべり方は確か学級委員長の・・・名前は思い出せないが
  彼もまたクラスの中心人物だったのは覚えている
「ではこれより桜ヶ丘高校3年3組の同窓会を始めます」
「全員グラスは持ったな じゃあいくぞ せーの」
  かんぱーい!
  みんなが盛り上がる中、恐らくこんなに緊張しているのは私だけだと思う
  今日私は長年の片思いにケリをつけるためこの同窓会に来たのだ

〇大衆居酒屋
「あー分かる分かる俺のところの上司もさ・・・」
「えっ嘘 結婚したの?」
  みんな最初こそ高校の時の思い出話に花を咲かせていたが、少しすると仕事や結婚の話になった
  もう私たちは大人なんだと再認識させられ、それが少し寂しく感じた
高宮誠「はーちょっと飲みすぎた」
「た、高宮君?」
高宮誠「おう ちょっと休憩 あっち騒がしくてさ」
  そう言うと彼は私の隣に腰を下ろした
  お酒のせいで少し顔を赤らめている高宮君は、私の知る凛々しい彼のイメージと違い、少し戸惑ったが、それも可愛く感じた
  なるほど、これが世に言うギャップ萌えか
  悪くない

〇大衆居酒屋
高宮誠「へーそれで?」
「うん でもそれって本当は別の部署の業務でね・・・」
  私は緊張してろくに会話出来ないんじゃないかと心配していたが思った以上に彼とスムーズに話せていた
  どうやら私も少しばかり大人になっていたようだ
高宮誠「・・・・・・なあ、鈴川」
「ん?」
高宮誠「卒業式の日のこと覚えてるか?」
「え?」
高宮誠「卒業式の日にさ、二人で話したじゃん 教室で」
  当然覚えている
  忘れるはずがない

〇教室
鈴川なごみ「あっ高宮君? まだ残っていたの?」
「ん? ああ、ちょっとな」
「そっちこそまだ帰ってなかったんだな」
鈴川なごみ「う、うん もうこれで卒業かと思ったら名残惜しくて」
「分かる 俺もそんな感じ」
鈴川なごみ「・・・・・・」
鈴川なごみ「あ、あのね」
「ん?」
鈴川なごみ「あの・・・」
鈴川なごみ「な、なんでもない 私もう帰るね 高宮君も気をつけて」
「あ、鈴川」
鈴川なごみ「な、なに?」
「いや、そっちこそ気をつけて帰れよ」

〇大衆居酒屋
「う、うん、覚えているよ それがどうしたの?」
高宮誠「いや」
  私と彼の間に沈黙がずっしりと腰を下ろす
  言うしかない
  あの時言えなかった言葉を
  例え振られても言うと決めたんだ
  この生きた化石みたいな片思いにケリをつけてやる
「高宮君、実はね・・・」
「よーしみんなそろそろお開きにしようか」
「え?」
  彼を前にして時間の感覚を忘れていたのか
  いつの間にか閉店の時間だった

〇ネオン街
  結局私は高校生の頃から何も変わっていない
  
  例えばあの日に戻ったとしても
  きっと私はまた彼に気持ちを伝えられずに終わるに違いない
  タイムマシンも成長しない人間には無意味だ
高宮誠「なあ鈴川、俺たちって似てるよな」
「え?」
  急に話しかけられ、私はタクシーを拾おうと歩きだした足を止め、振り返った
「似てるって私と高宮君が?」
高宮誠「うん 度胸のないところとかそっくりだと思う」
「度胸がないって・・・私はそうかもしれないけど高宮君は違うでしょ?」
高宮誠「俺もだよ お酒の力を借りてるってのに、言いたいこともなかなか言えないからな」
「言いたいこと?」
高宮誠「鈴川と俺はさ、あの日に戻ったとしても、また同じ会話をしそうだよな」
「え?あの、それってどういう意味・・・」
  そう言えば、あの時も彼はこんな表情をしていた
  真剣な表情だけど、どこか照れくさそうで、緊張しているような
  ・・・一つ不思議に思っていたことがある
  なぜあの日、高宮君は夕方まで教室に残っていたんだろう
  私は告白するかどうか悩んでいるうちに夕方になり、彼も帰ってしまったと諦めていたから教室にいる彼に驚いたのを覚えている
高宮誠「でもさ、俺の方はあの時より少しだけ度胸がついたみたいなんだ」
高宮誠「だから鈴川、あの日の続きを聞いてほしい」
  彼の声が、あの時の情景を脳内によみがえらせる

〇教室
鈴川なごみ「続き?」
高宮誠「ああ それが言いたくてここに来たんだ」
高宮誠「今日も・・・あの日も」
高宮誠「ずっと言えなかったんだけど・・・俺さ」
高宮誠「鈴川のことが・・・」

コメント

  • 自分の想いを伝えるだけなのに本当にドキドキ緊張しますよね、、、昔に戻れたとしたら、、、今の自分は昔より強くなっている気がします。

  • 告白って緊張しますもんね。
    過去に帰ったとしても、それはそれで出来るかどうかはわからなくて。
    でも、今の彼なら言えるんじゃないかな?と思いました。

  • 人間は中々変われませんし、そんな自分に腹が立ったり変わりたいと思うんですが、そんな中自分の弱点を知り、認めることはそうそうできるものではないと思います。
    けどそれをどうしていくかが、成長なんでしょうね〜。

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