ずっと私だけの秘密。(脚本)
〇巨大ドーム
今日は、待ちに待ったアイドルグループ
『スパイラル』のライブの日。
ファン「楽しみだね!」
ファン「うん!」
ファン「早く始まらないかなー!」
グッズ売り場も賑わっていて、ライブが始まる前から、ファンのテンションは高い。
かく思う私の両手のエコバッグは、
推しの海野拓海くんのグッズでいっぱいだ。
「申し訳ありませんが、
ライブペンライトは完売しました」
スタッフの声に横を見る。
ファン「────そうですか」
しょんぼりとして、
そのまま出口に向かう女性。
ペンライトを買うために並んで、
それが買えないなんて。
トボトボと去っていく女性の後ろ姿が
あまりにも哀しそうで。
気付いたら私は追いかけていた。
〇公園のベンチ
「待って」
「待ってくださいっ」
私は、慌て呼び止める。
ファン「────はい?」
「こ、これよかったら」
そう言って私はサブバッグの中から、
ペンライトを取り出した。
ファン「え」
ファン「・・・・・・これ」
「どうぞ」
ファン「いいんですか!?」
〇公園のベンチ
そう言って、嬉しそうに笑う。
ファン「ほ、ホントにいいんですか?」
転売対策で、
グッズは一つずつしか買えない。
正直、私も欲しいけど。
ペンライト一つを買うために
並んでいた彼女の情熱に
譲りたいと思ったのだ。
「はい。
ファンを大事にするのが、
ファンの勤めですから。
なんて」
思わず照れ笑いを浮かべる。
ファン「優しいね。 誰のファン?」
「え」
『スパイラル』は全員カッコイイ。
ダンスが上手い、牧野ヒロくん。
トークが冴える藤堂健太くん。
歌唱力抜群の海野拓海くん。
「海野拓海くんです」
「一番キラキラしてカッコイイ」
ファン「そうなんだ」
「そうです。
声がほんとに好きで、
聞いてるだけでドキドキします」
「笑う顔も好きですが、楽しそうに歌ってるのを見ると元気になるんです」
ファン「────大好きなんだね」
女性は、ニコニコと笑っている。
もしかして。
このひともファンなのかな。
ファン「サイコー」
────。
・・・・・・え。
一瞬、拓海くんの姿が浮かぶ。
このひと・・・・・・。
どことなく似てる。
雰囲気だけじゃない。
笑い方とか。
そう。
さっきのセリフも。
海野拓海「サイコー」
仕草がそっくりで。
────ん?
「────!?」
海野拓海「────ぁ」
海野拓海「やば」
「なんで、ここに」
海野拓海「しー!!」
海野拓海「大きな声出さないで」
海野拓海「ね」
そう言って、ぐっと詰め寄られる。
息がかかる距離に拓海くんがいる。
海野拓海「きみ、すごいね」
海野拓海「バレたの初めて」
近い近い近い!
耳元でポソポソと喋られる。
海野拓海「俺のこと、ほんとに好きなんだ」
海野拓海「すっげー嬉しい」
海野拓海「ありがとう」
海野拓海「俺、きみのファンになりそう」
────な!
海野拓海「きみみたいな素敵なひとに 会えて嬉しい」
────えぇ。
女の子の姿でもドキドキする。
〇公園のベンチ
海野拓海「ありがとうな。 俺のファンになってくれて」
拓海くんが女装してまで、
グッズを買っているなんて。
正直、びっくりしたけど。
グループのことが大好きなんだな。
そう思うととても嬉しくなった。
海野拓海「あ、ちょうどでいい?」
そう言って財布からお金を出そうとする。
海野拓海「ひとりでも多くのファンのに持ってもらいたいから俺らグッズはもらってないんだ。 自分で買うの俺くらいだけど」
海野拓海「メンバーやファンとの思い出だから、 グッズは皆と同じように並んで買うようにしててさ」
ファンのことも
大切にしてくれてるんだ。
すごく嬉しい。
私、拓海くんのファンになって良かった。
「いいです」
海野拓海「え?」
「これ、プレゼントしたい」
海野拓海「・・・・・・」
海野拓海「んー」
海野拓海「それはダメー」
笑って財布から千円札を出して、
手渡される。
「い、一生大事にします!」
海野拓海「────」
海野拓海「・・・・・・」
海野拓海「ふ」
海野拓海「はは」
海野拓海「一生って・・・・・・」
海野拓海「サイコー」
そう笑うと彼女は、
ポケットからサインペンを出した。
海野拓海「だったらいいよね」
そう言って、千円札を手に取り、
サインをする。
海野拓海「はい」
────!!
「私、秘密にしますから」
「だから、
これからもグッズ買ってくださいね」
海野拓海「ぁ」
海野拓海「うん。 ありがとう!!」
海野拓海「また会おうね」
そう言って走り去る。
────また会おうね。
か。
〇巨大ドーム
『キャー!』
『スパイラル』です
牧野ヒロ「あれ、タク、 今日いつも以上に機嫌いいじゃん」
藤堂健太「うんうん。 なんか、良いことあったのか?」
海野拓海「────ん」
海野拓海「まぁ。 ちょっとな」
そう言って、頬を赤くする拓海くん。
牧野ヒロ「えー。 なになに?」
藤堂健太「なんだよ」
海野拓海「うっせ」
海野拓海「ヒミツ」
笑う拓海くんは、
サイコーにカッコよかった。
ファン「え!!」
ファン「わ!!」
ファン「いま!!」
『こっち見た!!』
キャーと歓声が大きくなる。
確かに目があった。
そして。
「またな」
そう口パクで言うと。
拓海くんはペンライトを振ってくれた。
────fin.
サイン入りのお札も嬉しいけれど、普段は手の届かない推しとの「秘密の共有」が何よりのプレゼントでしたね。女装が似合うアイドルで実写化してほしい。配役を想像してみるのも楽しいです。
スターとファンのこういうつながりって、それこそスターであることファンであることの意味を掘り下げて考えさせられますね。本来夢を与える立場のスターが、ファンから特別な原動力を受け取った素敵なお話でした。
拓海くんファン想いなのも嬉しいし、素敵だしかわいすぎる。こんな彼の秘密知ったらますます好きになっちゃうそう。1000円札は家宝にしたいくらい特別なものになりましたね。