約束は愛について(脚本)
〇空港の待合室
藍沢なつみ「ふぅ、久しぶりの日本」
藍沢なつみ「あ!」
藍沢秋夜「おう、なつみ おかえり」
藍沢なつみ「お迎えご苦労! お兄ちゃん!」
藍沢秋夜「ドウイタシマシテ ──ちっとも変わってねぇな ちゃんと勉強してんのか?」
藍沢なつみ「ご挨拶だなぁ 半年くらいで劇的変化とかしないよ~」
藍沢なつみ「お兄ちゃんこそ妹をねぎらう優しさはどこかな? かーわいいなつみだぞー」
藍沢秋夜「やれやれまったく 元気そうだ」
藍沢なつみ「ふふ、 じゃ早く屋敷に帰りましょう」
藍沢秋夜「なあ、ほんとに入るのか? あの部屋に」
藍沢なつみ「あったりまえじゃない! そのために帰ってきたんだから 『開かずの部屋』に入るためにね!」
〇立派な洋館
子供の時、入ってはいけない部屋があった
そこに入れるのは20歳になってから
そう言われた。父が亡くなって、私はその約束をずっと守ってきた
父との想い出だから
藍沢なつみ「──でも、 でも、もういいよね? お父さん──」
〇暗い廊下
藍沢なつみ「ううー、ドキドキー」
藍沢秋夜「なあ、ほんとに入るのか? 父さんは入るなって言ってたぞ」
藍沢なつみ「それは20歳を迎えるまでの話だよ きっといまは応援してくれてる!」
藍沢秋夜「なんでそうなるんだよ どういう思考回路してんだよ」
藍沢なつみ「つべこべ言ってないで、 ほらボディガードでしょ!」
藍沢秋夜「あーあ、ちょっと見たらすぐ出るからな」
ガチャ──
〇古書店
藍沢なつみ「うっわぁー」
藍沢なつみ「初めて入った‥ 本かな? ここって書斎だったんだ‥」
藍沢秋夜「電気つけるぞ」
〇古書店
藍沢なつみ「明るくなった!」
藍沢秋夜「さっさと見て出ようぜ 大したもんはないさ」
藍沢なつみ「もっと感慨に耽ってよー」
藍沢秋夜「おれは興味ないんだ」
藍沢なつみ「お兄ちゃんってどうしてそうなのかなー あ、アルバムとかあるじゃん!」
──ガサ──
藍沢なつみ「え?」
藍沢秋夜「あぶない! 倒れるぞ!」
ガタ──ンッ!
藍沢秋夜「はぁっはぁっ、 危なかった‥ 本棚‥倒れるなんて‥」
藍沢なつみ「あ‥ お兄ちゃん‥」
藍沢秋夜「──な!?」
バッ!!
藍沢秋夜「す、すまん ・・・怪我はないか?」
藍沢なつみ「ううん、ありがと ビックリしちゃっただけ」
藍沢秋夜「すまない、危ない目に──」
藍沢なつみ「あ、ううん 気にしないで、ビックリしたのは、 お兄ちゃんの顔が近くなって驚いちゃっただけ」
藍沢秋夜「──は?」
藍沢秋夜「ば、ばか 何いってんだ」
藍沢なつみ「そうだね ふふ、ありがとお兄ちゃん かっこいいとこあるじゃん!」
藍沢秋夜「うっせぇわ ほら、何もなさそうだし さっさと出ようぜ」
藍沢なつみ「あ、見て見てこの写真 私達の子供の時のだ なつみ3歳・・・秋夜君8歳 『ようこそ秋夜くん』・・・?」
藍沢秋夜「っ!? それは! やめろ!!」
〇古書店
藍沢なつみ「ど、どういうこと? 新しい家族?」
藍沢秋夜「・・・」
藍沢なつみ「ねえ、どういうことなの? お兄ちゃん、嘘でしょ? 私の、お兄ちゃんじゃないの?」
藍沢秋夜「──違う! 俺はお前の兄だ! お前の家族なんだ!」
〇古書店
『秋夜、お前の妹になるなつみだ
どうか守ってくれ、”お兄ちゃん”』
『私達は幸せ者よ、ふたりの天使
どうか幸せに育ってね』
藍沢秋夜(──父さん、母さん──)
藍沢なつみ「お兄ちゃん──」
藍沢秋夜「どうやら、ここまでのようだ」
藍沢なつみ「!?」
藍沢秋夜「今まで黙っていてごめん ──そう、俺は君の兄じゃない」
藍沢なつみ「そ、そんな私、混乱して─」
藍沢秋夜「すべてを話そう──」
藍沢秋夜「俺が藍沢家に引き取られたのは8歳のときだ」
藍沢秋夜「父さん母さんと約束した。 何があってもなつみを守ると、幸せにすると。それが俺の恩返しだから」
藍沢秋夜「力強くて頼りがいのある、理想の兄になろうと思った」
藍沢秋夜「父さんはなつみが20歳になったら本当の事を伝えるか悩んでいた。でもその答えを出す前に──」
藍沢秋夜「──俺はどうしたらいい? 傷つかせるくらいなら黙っておくほうがいいのか?」
藍沢秋夜「おれは兄でいることを決めた 二人もそれを望んでいるはず だから──」
藍沢なつみ「──なーんだ そっか、」
藍沢なつみ「ありがとうお兄ちゃん 私のことずっと守ってくれてたんだね」
藍沢秋夜「──違う!そんなんじゃない! 俺は、最低な男なんだ」
藍沢秋夜「守りたいと思った 守らなければと! でも、でもこんな・・・ こんな気持ちを君に、」
藍沢秋夜「──すまないっ 好きに、なってしまったんだ、 こんな感情を抱いてしまって、 俺は理想の兄になると誓ったのに」
藍沢秋夜「俺は、俺はなんて情けないんだと ずっと後悔を──」
藍沢なつみ「──!」
藍沢なつみ「そんなことない そんなことないよ」
藍沢なつみ「嬉しい・・・ とっても嬉しい。 私ね、」
藍沢なつみ「私もお兄ちゃんのこと・・・」
藍沢なつみ「好きだったんだ──」
藍沢秋夜「──!?」
藍沢秋夜「な、」
藍沢秋夜「そ、そんなことは── 何を言って──」
藍沢なつみ「ありがとう──私を守ってくれて 私を想ってくれて ──大好きっ」
藍沢秋夜「──」
藍沢秋夜(父さん─母さん─ああ、そうか)
藍沢秋夜「──どう、いたしまして なつみ」
〇大樹の下
藍沢なつみ「ふー、日本滞在も今日までかー」
藍沢秋夜「十分ゆっくりしたじゃないですか 学生の本分は勉強ですよ」
藍沢なつみ「まーた、イジワルな喋り方するー 他人行儀はんたーい」
藍沢秋夜「ふふ、ごめんごめん ずっと理想のお兄ちゃんを演じてきたのでね、素はこんなかんじだよ」
藍沢なつみ「うそつけー あと理想のお兄ちゃんはもっと優しい人希望です!」
藍沢秋夜「え? 優しかったでしょう、俺」
藍沢なつみ「どーかなー お兄ちゃんは理想とは少し違うかなー」
藍沢秋夜「まさかの事実に凹みそうだね」
藍沢なつみ「──そいえば、あれから私のこと、 なつみって呼ばないよね」
藍沢秋夜「んぐっ!! そんなことはないよ?」
藍沢なつみ「うそ 呼ばれてません」
藍沢秋夜「あー、 じつはその、 気恥ずかしくて・・・」
藍沢なつみ「両想いなのに?」
藍沢秋夜「また!そんな恥ずかしげもなく!!」
藍沢なつみ「恥ずかしくないもーん 私お兄ちゃんのこと好きだもーん あ、ちがうな」
藍沢なつみ「秋夜さん、大好きだよ」
藍沢秋夜「あーもう! わかったよ!」
藍沢秋夜「ん、んん、」
藍沢秋夜「なつみ、俺も大好きだ」
藍沢なつみ「──」
藍沢なつみ「良くできました」
藍沢秋夜「どう、いたしまして──」
兄妹としての距離感と、両想いとしての距離感が、細やかに描かれていて魅力的なストーリーです。とても気持ちのいい恋模様ですね。
2人ともお互いに惹かれあっていたのに、兄妹という壁でそれ以上の関係にはなれなかったはずなのに、真実は運命を味方してくれたんですね。よかったです。
お兄さんは長い間事実のひた隠しながらも、妹さんに惹かれ苦しかったでしょうね。今ようやく義理の両親との約束から解放され、しかも両想いだったなんて素敵なフィナーレでした。