死神と廻る12時間(ひととき)(脚本)
〇中規模マンション
死神「亜美・・・だな。面をあげよ」
亜美「そうだけど・・・ あなたは?」
死神「俺は死神だ 今からお前の命をいただく」
亜美「そうなのね」
死神「なぜ、俺がここに来たか心当たりはあるか?」
亜美「・・・」
死神「慌てないんだな」
亜美「内心、慌ててます 最後に12時間だけ、 時間をくれませんか?」
死神「12時間?」
亜美「どうしてもやりたいことがあるの!」
死神「・・・死神は人情を見せないものなんだが」
死神「12時間後に頂く。それでいいな?」
死神「閻魔様に気づかれないように 時間稼ぎしてやるぜ」
〇学校脇の道
死神「どこ行くんだ?? てか、なんで俺がついていかないといけないんだよ」
亜美「こっちです。死神さん」
キキッーーーーー
猛スピードでカーブしてきた車が、
亜美の方向へ突っ込んでくる
亜美「?!!」
死神「危ない」
車は急に方向を変え、
電柱に突っ込んで停止した
運転手「なにやってんだ! あぶねえだろ!」
死神「それはこっちのセリフだ!」
運転手「あーあ、フロントガラスに傷ができちまったじゃねーか なんだよさっきの黒いのは!!」
運転手が亜美へ詰め寄った
亜美「ご、ごめんなさい・・・」
運転手「てめえのせいか!! よくも、うちの車を!!」
運転手が亜美の首元を掴む──
死神「こいつは俺の獲物なんだよ!! 指一本触れさせねえからな!!」
「なんだなんだーーー??」
奇妙な光の渦に吸い寄せられるように、
人々が集まってきた
運転手「・・・ッチ 今度あったらタダじゃおかねーからな」
亜美「今度なんて、ないと思うけど・・ だって私、明日にはいなくなるし・・」
死神「危なかったぜ ここでお前の命が終わるところだったかもしれないからな」
亜美「ありがとう、優しいのね死神さん」
死神「お前はもっと驚けよ」
亜美「別に、いいの・・・」
死神「・・・・・・」
〇遊園地の広場
「いただきまーす」
死神「最後の晩餐なのにハンバーガーでいいのか?」
亜美「うん。 お父さんと昔、ここにきて食べたのが美味しかったなあって」
亜美「美味しい」
死神「馬鹿だなあ 俺だったらもっといいものを・・・・・・」
亜美「死神さん。 私、観覧車に乗りたい」
死神「え?」
亜美「私、別に今日死んでもいいけど、 一つだけ心残りがあったんだ」
亜美「私最後にデートしたかったの 死ぬまでに、恋愛漫画みたいなことしたかった」
亜美「だからね、死神さん、最後のお願い 一緒に観覧車に乗って」
死神「俺で・・・いいのか?」
亜美「うん。 一緒にこういうことしてくれる人、探してたの」
亜美「死神さんが命をもらいに来てくれてよかった」
〇観覧車の乗り場
遊園地のお兄さん「いらっしゃいませー」
遊園地のお兄さん「2名様ですね。どうぞこちらへ」
遊園地のお兄さん「この、黄色い1号車に乗ってくださいー 足元気をつけてくださいね」
遊園地のお兄さん「さ、お兄さんも早く乗って」
死神「う、動いたまま乗るのか? 止まらないのか?」
亜美「死神さん!早く早く!!」
死神「わかったって、ちょっと待てよ」
遊園地のお兄さん「・・・」
遊園地のお兄さん「・・・死神さん? シンカイさんの聞き間違いかな」
〇観覧車のゴンドラ
死神「へー この景色を見たくてみんな乗ってんのか 意味がわかんねーな」
亜美「いい景色」
死神「チョッ、急に立つと 揺れるだろーが」
亜美「えへへ」
死神「俺たちは今、空に近づいているんだぜ」
死神「このまま天に登るかい?」
亜美「・・・・・・」
死神「死神っていうのは、 誰から命をもらうか悩むもんだ」
死神「特に、今月ノルマがやばかったからな 空から眺めてたんだ 「誰の命をもらったらいいか」って」
死神「でも、お前に関しては悩まなかった」
死神「その意味わかるだろう」
亜美「うん」
死神「お前、自ら命を絶とうとしてただろ」
亜美「・・・・・・」
亜美「私・・・実は・・・」
亜美「お・・」
死神「ちょっと待て」
死神「俺は死神だから 何人もの死を見てきた」
死神「自殺なんてどれもありきたりな理由さ」
死神「今は辛いかもしれない 不幸のど真ん中で未来も見えなくなってるかもしれない」
死神「けど、お前、遊園地に来て笑ったじゃん」
死神「それでいいんだよ ちょっとした楽しみを見つけて笑えばいいんだよ」
死神「辛いところからは逃げて、 遊園地にくればいいんだよ」
死神「遊園地に行けないんだったら、 心の中で、遊園地にいけばいい」
亜美「私、もうちょっと頑張りたいな でも・・・・・・」
死神「いいよ。お前、頑張れよ」
亜美「それじゃあ死神さんは」
死神「今回は俺の裁量ってことで。 まあまあ、大人の世界は案外自由が効くんだよ」
〇観覧車のゴンドラ
死神「そろそろ頂上だ」
死神「最後に二択をやろう」
死神「「俺に命をとってもらいたい?」 「俺に命をとってもらいたくない?」」
亜美「死神さんに、命をとってもらいたくない」
死神「御意」
死神「地上へは、一人で行くんだぞ」
亜美「死神さん・・・体が透けてる」
死神「もともと死神だから」
亜美「でも、どんどん見えなくなっていく」
死神「閻魔様が怒っちまったみたいだ ノルマ達成できなかったし、獲物を見逃したからな」
亜美「ありがとう死神さん でも、私たちもう会えないの?」
死神「また俺みたいなやつに出会わなくてもいいように、元気で過ごせよ」
〇観覧車の乗り場
遊園地のお兄さん「はい、おつかれさまでしたー」
遊園地のお兄さん「地上に到着でーす」
亜美「あ、ありがとうございました」
遊園地のお兄さん「お足元にご注意しておりてくださいねー」
遊園地のお兄さん「・・・・・・」
遊園地のお兄さん「あれ、さっきの子?」
遊園地のお兄さん「確か・・・二人で乗ってたのに・・・」
遊園地のお兄さん「・・・?」
遊園地のお兄さん「でも心なしか、晴れやかな表情になったな」
遊園地のお兄さん「またのご来園をお待ちしておりまーす」
気持ちが晴れ晴れとするステキな物語ですね。心優しき死神とのハートフルストーリーって感じで。こう文字にすると字面では違和感が生じてしまいますがw
心優しい死神さんは、実はこうして死にたいけど本当は生きたいと思っている人を助けたいと活動しているのかもしれませんね。こうして心から辛さを共感してくれる存在がいたら、みんなもう少しだけでも頑張ろうって思えますね。
死神さんが観覧車にのるときの戸惑いが可愛くてくすっと笑えました。子どもの頃ってエスカレーターとかスキーのリフトとか、乗る瞬間に止まらないものって怖かったことを思い出しました。