癒しのカフェで会ったのは

柚葉 鈴

読切(脚本)

癒しのカフェで会ったのは

柚葉 鈴

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〇オフィスのフロア
部長「おい、お前何してるんだ」
社員A「何って、残業するのでタイムカードを」
部長「タイムカードォ? お前の仕事が遅いせいで残業するんだろ。タイムカードなんか使うな」
社員B「(あの仕事、退勤5分前に部長が渡してたよな・・・)」
部長「おい、そこのお前。なに帰ろうとしてるんだ」
社員B「定時ですし、自分の仕事は終わりましたよ」
部長「俺より早く帰る気か? 仕事が終わったなら新しい仕事を探せ!」
社員B「そんな、今日は家族と約束が──」
部長「その家族のためにも、失業するわけにはいかないだろ? ほら、しっかり働け」

〇繁華な通り
唯「(今日も大変だった・・・。もうコンビニくらいしか開いてない時間だよ・・・)」

〇店の入口
唯「(こんなところに喫茶店なんてあったっけ)」
唯「(まだ空いてるみたい・・・。帰ってすることがあるわけでもないし、入ってみようかな)」

〇レトロ喫茶
  カラン。
  店の扉に手をかけると、心地よいドアベルの音が鳴った。
  他の客はおらず、カウンターの中に和装の男性がいるだけだった。
霞「いらっしゃいませ」
霞「Café consolerへようこそ」
唯「(店主さんは和装なのにお店の名前は英語なんだ・・・)」
霞「店の名前はフランス語で『悩みや苦しみを和らげる』という意味なんですよ」
唯「あ、そうなんですね。てっきり英語かと」
唯「『悩みや苦しみを和らげる』・・・。いい名前ですね」
霞「貴女も何か悩みや苦しみを抱えているのですか?」
唯「えっ?」
霞「ああすみません。不躾なことを聞いてしまいましたね」
唯「そんなことないですよ。逆に話を聞いてほしいくらいです」
霞「おや、そうですか。 私でよければいくらでもお聞きしますよ」
唯「実は────」
  それから私は、職場での悩みを話した。
  有給がなかなか取れないこと、定時退社は早退だと言われること・・・
  この店の店主──霞さんは優しい声で相槌を打ちながら、私の話を最後まで聞いてくれた。
唯「だから、何のために働いてるんだろうって時々思うんです。好きで始めた仕事のはずなのに、そう思ってしまうのが辛くて・・・」
霞「唯さん」
霞「実はこの店、今日3年ぶりに開けたんですよ」
唯「そうなんですか?」
唯「(何かあって休業してたのかな・・・)」
霞「特別な理由があったわけでもないのですが、毎日同じ仕事をするのに飽きてしまったんですよ」
唯「(あ、飽きたって・・・)」
霞「好きでこの店を始めたことに間違いはありませんが、だからといって毎日必ず続ける必要はないでしょう」
唯「(確かにそうかもしれないけど・・・)」
霞「唯さん、ケーキはお好きですか?」
唯「えっ?はい」
霞「ではこれから1年、三食ケーキを食べてください」
唯「ええっ!?」
霞「冗談です」
霞「ただ、好きなもののために辛い思いを我慢する必要はないと言いたかったんです」
霞「あなたがそれを好きなのは”好き”だからであって”辛い”からではないでしょう?」
霞「好きなものは好きなままでいいんです。辛い思い出に変える必要はありませんよ」
唯「確かにそうですね」
唯「でも、霞さんのおかげでもう少し頑張ろうって気持ちが湧いてきました。 それに、まだ『好き』を諦めたくないので」
霞「あなたの気持ちが一番大切です。望む道を進んでください」
唯「ありがとうございました」

  それから何度かあのカフェを訪ねたが、いつも”close”の札がかかっていた。
  だが残念なことばかりではない。あの理不尽な上司は異動となり、新しい上司が今日赴任してくるのだ。

〇オフィスのフロア
女子社員A「ねえ、新しい上司の話聞いた?」
女子社員B「聞いた聞いた。 イケメンで、優しくて、有能って噂でしょ?」
女子社員A「そう、しかも社長の息子!! 狙っちゃおうかな〜」
女子社員A「カフェで働いてたこともあったみたい。知ってたら絶対行ったのに・・・。 イケメンの淹れたコーヒー飲みたかった・・・!」
唯「(イケメンの淹れたコーヒー・・・。霞さん、今頃何してるんだろう・・・)」

〇オフィスのフロア
霞「みなさんおはようございます。今日から赴任してきた広瀬霞といいます」
唯「(えぇっ!どうして霞さんがここに!?)」

〇大企業のオフィスビル
唯「(霞さん、女子社員にずっと囲まれてたな・・・。結局、話しかけられなかった・・・)」
霞「唯さん!」
唯「霞さん!?」
霞「間に合ってよかったです」
唯「何かあったんですか?」
霞「そういうわけではないのですが、ゆいさんにお礼を言いたくて」
唯「お礼・・・?」
霞「唯さんのおかげで会社の問題に気づけました。父もお礼をしたいと言ってましたし」
唯「そういえば、霞さんのお父さんってこの会社の社長だったんですね」
霞「もうご存知でしたか。でしたら、唯さんと僕が会ったのはあの日が初めてではないことも思い出してくれましたか?」
唯「(前に会った事なんて・・・あ、そういえば)」
唯「入社試験の時の面接官・・・?」
霞「ええ、そうです。 実は、面接の時のあなたの言葉であのカフェを開くと決めたんですよ」
唯「(面接の時・・・)」

〇面接会場
唯「私は、好きなものを妥協で諦めたくありません」

〇大企業のオフィスビル
霞「あの言葉があったから、僕も好きなものを諦めないでいようと思ったんです」
霞「あの日のあなたがいたから今の僕があるんですよ」
霞「あなたは僕にとって、世界で一番素敵な人です」
唯「そんな。 カフェに行ったあの日、霞さんに会ってなかったら、今頃仕事を辞めてたかもしれませんよ」
霞「そしたら僕のところに永久就職してくれてもよかったんですけどね」
唯「えっ!?」
霞「冗談です」
霞「でも・・・本当に永久就職したくなったらいつでも言ってくださいね」

コメント

  • 自身の何気ないポジティブ発言で他者の背中を押す、こんな存在はステキですよね。唯の周りはきっと彼女から良い影響を受けていそうですね。

  • ブラック企業…それは都市伝説ではないのだ…。
    タイムカード…おんなじようなこと言われた記憶あるなぁ笑
    まぁ社長の息子のような人がいれば、何か変わった気はしますが!

  • 一生懸命に頑張っていたからいい出会いをくれたんでしょうね、パワハラたまりませんね。彼の最後のセリフが女子としては嬉しいですよね。

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