約束の時間は永遠に来ない(脚本)
〇ラブホテル
大原育夫「いやあ・・・」
大原育夫「最高だったよ。こんな幸せな気分になれたのは生まれて初めてだ」
南郷誠治「フッ・・・」
南郷誠治「目を閉じて・・・」
大原育夫「エッ!?」
南郷誠治「そして3秒間ゆっくり数えて・・・ 幸せの絶頂にしてあげるから」
大原育夫「わ、分かった・・・」
大原育夫(1・・・2・・・さ・・・)
大原育夫「ぐわっ!!」
南郷誠治「任務完了」
葉山愛佳「今回もちゃんと期限までに終わりましたね」
南郷誠治「フフッ・・・それもみんな、君のサポートのおかげさ」
葉山愛佳「・・・念のために伺いますけど、今回もこのターゲットと・・・その・・・」
南郷誠治「言うまでも無い。 ターゲットを俺に惚れさせる」
南郷誠治「そして最高に幸せな気分を味わってもらったあとで殺す」
南郷誠治「それが俺の殺しのスタイル。相手が誰であろうと変わりない。着実に任務を遂行する」
南郷誠治「老若男女LGBTQ・・・誰であろうと俺に惚れない奴はいない」
葉山愛佳「それ聞いて安心しました。 実は早速次の依頼が来ていまして」
南郷誠治「ん?厄介な相手なのか?」
葉山愛佳「今、ターゲットの画像と基本データ送りますね」
南郷誠治「エッ!?」
南郷誠治「・・・君と瓜二つで、同姓同名で、生年月日も一緒で、好きな食べ物の『がんもどき』まで同じ人がいるとは・・・」
葉山愛佳「そんなわけありません。それはあたしです」
南郷誠治「だよな・・・ しかし・・・」
葉山愛佳「言いましたよね。相手が誰であろうと任務遂行するって」
南郷誠治「それは・・・ ところで誰の依頼なんだ!?」
葉山愛佳「依頼者は匿名です。でもご安心を。前金で振り込まれたので問題ありません」
南郷誠治「お金の問題じゃ・・・」
葉山愛佳「あたしもこんな仕事してますからね。恨んでる人もいるでしょう」
葉山愛佳「時間指定がありまして、2022年5月1日の朝。Aテレで放送している『おは体操』の放送開始と同時にやって欲しいそうです」
南郷誠治「よく分からないけど・・・つまり、明日の8時55分にってことか・・・」
葉山愛佳「時間がありません」
〇明るいリビング
南郷誠治「なんで君が俺の部屋にいるのかな?」
葉山愛佳「何度も言わせないでください。時間が無いんです」
葉山愛佳「あたしは貴方のサポーター。ターゲットを側にいさせるのは当然のことです」
葉山愛佳「早くターゲットを惚れさせて、最高に幸せな気分にして、殺してください」
南郷誠治「いや・・・ムリだ・・・」
葉山愛佳「何故ですか!?」
葉山愛佳「あたしが・・・その・・・ サポーター・・・だからですか?」
南郷誠治「違う」
葉山愛佳「エッ!?」
南郷誠治「既に俺に惚れてる相手を、もう一度惚れさせるのは出来ない。死人を殺せないのと一緒だ」
葉山愛佳「な・・・何を・・・馬鹿なこと言わないで!!」
葉山愛佳「あたしは・・・貴方のこと・・・なんか・・・」
南郷誠治「フッ。分かりやすいな・・・」
南郷誠治「それで、本当に君は殺されても良いのか?」
葉山愛佳「だって・・・もし、貴方が失敗したり、途中で仕事を投げ出したりしたら・・・」
葉山愛佳「貴方は組織に消される・・・」
葉山愛佳「だから・・・あたしが殺されるしか・・・」
南郷誠治「その覚悟・・・きゅんと来たよ」
葉山愛佳「エッ!?それって・・・」
南郷誠治「愛佳を最高に幸せな気分にしてあげる」
葉山愛佳「誠治・・・」
〇ホテルの部屋
南郷誠治「どうだった?」
葉山愛佳「最高に幸せ。これでもう、殺されても悔いは無いって感じ」
葉山愛佳「エッ!?地震・・・」
南郷誠治「フフッ・・・地球も俺たちに嫉妬してるのさ」
葉山愛佳「そ、そうかな・・・」
南郷誠治「もっと嫉妬させてやろうぜ」
〇ホテルの部屋
葉山愛佳「8時54分・・・時間まであと1分だよ」
南郷誠治「ああ」
葉山愛佳「さあ、殺して・・・」
南郷誠治「じゃあ、目を閉じて・・・ ゆっくり、3つ数えて」
葉山愛佳「うん・・・ 1・・・2・・・さ」
葉山愛佳「ウッ!! あっ・・・あぁ・・・」
葉山愛佳「ふうん・・・」
南郷誠治「愛佳・・・幸せにな・・・ 君とは、違う出逢い方をしたかった」
〇古い倉庫
木俣環「ターゲットを消去することに失敗・・・ いや、わざとかしらね」
木俣環「覚悟は出来てるんでしょうね」
南郷誠治「ああ。愛佳の代わりに死ねるなら本望だ・・・」
木俣環「甘いのはマスクと声だけじゃ無かったようね」
「待って!!」
葉山愛佳「ハアッ・・・ハアッ・・・」
南郷誠治「愛佳!!何故ここに?」
葉山愛佳「もちろん誠治を追っかけてきたの」
南郷誠治「そっか・・・気を失ったフリをしてたのか」
葉山愛佳「めっちゃ痛かったけどね」
木俣環「お嬢ちゃん・・・ 邪魔しないでよね」
葉山愛佳「邪魔も何も、 まだ約束の時間になって無い!!」
木俣環「はあ?」
南郷誠治「どういうことだ?」
葉山愛佳「約束は2022年5月1日朝のAテレの『おは体操』が始まると同時にやれ、でしょ?」
葉山愛佳「でも明け方に起きた地震で番組編成が変わったの!ずっと特番やってて、『おは体操』はまだ始まってない!」
南郷誠治「なんだその屁理屈・・・」
木俣環「じゃあ、仕方ない」
南郷誠治「引き下がるのかよ!」
木俣環「依頼者には私から説明しとくから」
葉山愛佳「なんか、あっさりだね・・・」
南郷誠治「で、これからどうする?」
葉山愛佳「あ、あの・・・あたしは、誠治のサポーターとして、いつそのときが来ても良いようにしないと・・・」
南郷誠治「ああ、そうだな。2022年5月1日の朝の『おは体操』が始まるまで、ターゲットの愛佳は俺の側を離れては困る」
葉山愛佳「約束の時間・・・永遠に来ないね・・・」
南郷誠治「ああ。俺は永遠に、愛佳を離さない」
最高に幸せな気分を味わってから殺される、こんな殺し屋さんだったら大歓迎ですね← まさかの急展開からラストまで楽しませてもらいました。
ターゲットを幸せにしてから殺す。少しいやらしい殺し屋の印象を受けました。こんな殺し屋なら殺されても悔いはないのでしょう。
キュン!!とさせられました、甘いお話しでした。彼のセリフが素敵です、、、彼の仕事の鋭さとは裏腹な彼の甘さがまたよかったです。