木漏れ日カフェですれちがい

きりしま

木漏れ日カフェですれちがい(脚本)

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〇カウンター席
  図書館の裏にある、小さな小さな珈琲の店。
  表通りに人気のチェーン店があるおかげで、こっちはいつでも空いている。
  庭木の木漏れ日が気持ちいい、奥から二番目の席がお気に入りだ。
  日曜日、図書館で借りた本を片手にいつもの席を目指したら──
  ついてない、先客がいた。
大雅(でも待て ちょっと可愛い── いや、なんでもない)
  仕方なく隣の席に腰を据え、いつもの珈琲をさっと注文。
  借りたばかりの本を開けば、俺の優雅な休日が始まる──
  ・・・はずなんだけど。
  なんでだ。
  
  隣から、キラキラした視線を感じる・・・
大雅(気のせいか。おお、気のせいだ。 可愛い女の子が俺に興味を示すはずがない)
大雅(オッケー、解決 さくっと続きを読もうか)
大雅(俺、どこまで読んでたんだっけ? こっちか? あっちか?  お隣か──)
大雅(いやいや違うから!)
  と、ひとりパニくるところで。
克樹「わりぃ、待った?」
  と、突然現れたイケメンがひとり。
まや「遅いよぉ」
  非難したくせ頬杖ついてニコニコしているのは隣の彼女で。
大雅(彼女可愛いとか思ってマジすんません見知らぬ人・・・!)
  俺は熱い珈琲を一気飲みして、さっさと店から逃亡した。
  ――ああ。
  なんだかやたら、ブルーである。

〇カウンター席
  初めて入った、大きな木のある素敵なカフェ。
  隣の席の理系男子がひっそり気になっている。
まや(その本、わたしも読んだの 大好きなの! 何回も何回も読んだの――って)
  なんだかテンション上がっちゃって、
  観察、熱中。
  あ。
  ページをめくるのがすごく早い。
  速読ができる人なんだ。
まや(いいなー、羨ましいなー)
  って、思ってたら
克樹「わりぃ、待った?」
  いいところで邪魔が入る。
  遅いよぉ。
  二十分も待たせるなんて、最低最悪!
  でも、今日は気分がいいから許してあげちゃおう。
  あれ? 
  お隣の彼、本を閉じちゃった。
  しかも―――えええ!?
  熱々の珈琲、一気飲み!?
まや(しかもああ、 帰っちゃった・・・)
まや(お話してみたかったのに・・・)
克樹「あいつウチの大学の後輩な気がする」
まや「へー! そうなんだぁ!」
  なんてことないふりで振り返って、後ろ姿をちらりとチェック。
まや(たまには役に立つじゃん、お兄ちゃん)
  なんて、心の声でつぶやいて。
  またあの本を読み直そうかな、と思いながら、あまいカフェラテをゆっくり、ひと口。
  なんでもない日曜日の午後。
  気分はなんだかピンク色。

〇カウンター席
  すっかり常連になってしまった、図書館裏の木漏れ日カフェ。
  奥から二番目がわたしの一番好きな席。
  イチオシの飲みものはカフェモカ。
  スイーツなら手作りプリン。
  でも今日は新作をお勧めされたから、ベリータルトに決めてみた。
まや(大正解! すごくかわい~おいし〜)
  夢中で食べていたら、カランコロンとドアベルが鳴った。
まや(あ!)
  あの人だ。
  少し前、わたしが大好きな本を読んでいた、理系っぽい男の子。
  わたしの視線に気づかず、珈琲を頼んで、席について。
  彼はため息交じりに本を取り出す。
まや(今日は何を読んでるんだろ)
まや(わたしも読んだことのある本なら、今日は話しかけちゃおうかな・・・)
  タルトをフォークで刺しながら、お隣の席を横目でちらり。
  『電気力学と相対理論』
まや(文系のわたしには、完全に無縁のやつ!)
  がっかりしていたら
大雅「マフラー落ちてますよ」
  って、理系の彼からふいうちのひと言。
まや「あ、ありがとう、ございます!」
  かみまくってしまったわたしは、
  たぶん、絶対、顔赤いんだ

〇カウンター席
  今日も今日とてやってきた、図書館の裏の木漏れ日カフェ。
  卒論が捗らなくて気が滅入って、今週四回目の気分転換だ。
  ここで切り替えられなかったらかなりヤバい。
  そう思ってやってきたのに、相変わらず頭が働かないから苛々する。
  溜息をついたとき、ドアベルが鳴って新しい客が入ってきた。
店員「すみません ただ今満席でして」
  店員の声がする。
  近くで何かあったのか、今日は団体客でいっぱいだ。
大雅(出るか どうせ時間の無駄だ)
  飲みかけの珈琲を置いて立ちあがったとき、ハッと息を呑む気配がした。
まや「あっ・・・」
  よく見かける女の子だ。
  ピンクマフラーの、可愛い子。
  今日も待ち合わせだろう。
大雅「席どうぞ 俺出るんで」
  良いことやってればそのうち運が向いてくるだろう。
  そのくらいの考えで会計をしようとしていると。
まや「あの! 相席しませんか!」
大雅「え?」
  ふり返る俺の前で、彼女はこれでもかと深呼吸する。
まや「いつも来てますよね。 マフラー落ちてるって教えてくれましたよね。珈琲飲み終わってないですよね」
大雅「はあ」
まや「優しくしてくれるのは嬉しいですけど、ご一緒できたらもっと嬉しいです!」
大雅「ーーは?」
  びっくりするほどマヌケな声が出た。
  彼女は必死で、顔は真っ赤で、お誘いは熱烈で――でも俺には理解不能だ。
大雅「でも彼氏と待ち合わせでしょ?」
まや「彼氏? 兄のことですか?」
大雅「兄?」
まや「はい 兄としか来てないです、ここ」
  周りの客が注目している。
  ニヤニヤしてる人もいる。
  究極に居心地悪いけど、逆にこれってそういうことですよね、皆さん
大雅(とりあえず自己紹介からだな)
  つま先の向きを変えながら、俺はひそかに深呼吸した。

コメント

  • あー、すごくいい!キュンとしました!!
    彼の勘違い、話しかけたいときに限って難しそうな本読んでる彼、すれ違いながらもカフェに通い続ける彼とちょっと勇気を振り絞った彼女。
    結ばれるべくして結ばれた、と感じました。
    二人から幸せをおすそ分けしてもらった気分です〜(^^)
    素敵なお話をありがとうございました。

  • コーヒー一気飲みに気付くところがこまかくて好きです。二人の気持ちを両方読めて、充足感がありました。読む本の範囲も読み方も多分好きな色も、ちょっとずつ違うけれどだからこそ恋の深みにはまっていくのが面白いです。卒論を書いているなら、仲良くなれる最後のチャンスだったかもしれないですね。二人がお話できて良かったです!

  • カフェと読書と出会いって、その繋がりだけでもとてもロマンチックですよね。共通の趣味があると、それだけで恋の予感も高まりますね。お兄ちゃんとわかったときの彼の心の中のガッツポーズ、ひしと感じました。

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