僕たちだけの恋物語(脚本)
〇店の入口
駅からほど近いところにあるカフェ──。
〇カウンター席
カウンターと、あとはテーブルが四脚
お気に入りのジャズ音楽が流れ、そこにコーヒー豆を擦る音がかぶさる。そしてコーヒーの芳醇な香り──
小さいながらも、ここが僕の城だ。
〇オフィスのフロア
昨年まで2年間──
コーヒーチェーンの本部で働いてノウハウを学び、生活を切り詰め、二百万円を貯めた
〇カウンター席
それもこれも自分のカフェを開店するためだ。
オープンから一年、今では常連客に恵まれ、経営も軌道に乗った
星野寛「いらっしゃいませ」
吉川和也「2名です」
星野寛「こちらの席にどうぞ」
このカップルは常連客だ。男は30代半ば、女は20代後半で、月にニ、三度訪れる
吉川和也「エスプレッソで」
原田茜「私は・・・あ、この苺モカラテっておいしそう! こちらのアイスでお願いします」
男は無愛想だが、この女性客はいつも新しいメニューを頼んでは、帰り際に感想をくれる
男としゃべってるときはキリッとしてるのに、笑うとかわいいいんだ
星野寛「かしこまりました。エスプレッソにアイスの苺モカラテですね」
原田茜「はい。苺モカラテなんて初めてです」
星野寛「おいしいって評判なんです。楽しみにしててください」
〇広い厨房
星野寛(苺モカラテ、気合い入れて作るぞ)
テーブルで話しているふたりの、険悪そうな会話が聞こえてくる
星野寛(いつも和やかなのに、どうしたんだろ)
〇カウンター席
吉川和也「君は、人を好きになるって気持ちがわかってないよ」
原田茜「今さら、そんなこと言われても・・・」
星野寛(コーヒーブレイクで仲直りしてくれればいいんだけど)
星野寛「お待たせしました! エスプレッソと苺モカラテです」
原田茜「かわいい! おいしそう」
星野寛(よかった。笑ってくれた)
だが、そのあとも、男は彼女に不満をぶつけ続けた
あげくに・・・
吉川和也「もうこれで最後だ」
男が、彼女を置いて去ってしまった!!
しかも、ひとり残された彼女が泣きだすではないか
〇広い厨房
星野寛(ほっとけない・・・)
星野寛(そうだ!!)
〇カウンター席
星野寛「あの・・・今後、コーヒーだけでなく、紅茶も出そうって思ってて、よかったらフルーツティー、試飲していただけませんか?」
原田茜「紅茶!? 実は私、紅茶のほうが好きで・・・」
原田茜「失礼しました。ここのコーヒーは工夫があって好きです。 紅茶にフルーツが入ってるなんて最高です。いいんですか? いただいて」
星野寛「紅茶が好きなら、いよいよ適役ですよ。感想をお願いしたいんです」
原田茜「私でよければ、ぜひ」
原田茜「すっごくおいしいです。すっぱさもよりも甘みが強くて・・・でも甘すぎない」
星野寛「よかったです。これなら原田さんみたいな紅茶派の女性客も来てくれるかな」
原田茜「あの・・・私が泣いてたから、元気づけようとしてくださったんですよね? ありがとうございます」
星野寛「それもあるけど・・・いつも原田さん、新作を注文して感想くれるでしょ? 彼がいっしょだと、こういうこと頼めませんし」
原田茜「私の苗字、どうして?」
星野寛「彼が呼んでるのを聞いて、かわいいから覚え・・・いや、いつも感想くれるからうれしくて」
星野寛「原田さん、心遣い細やかなステキな女性だから、彼よりずっといい人がすぐに現れますよ」
原田茜「あの人、私の彼じゃないですよ、取引先です。泣いたのは失恋じゃありません」
星野寛「だって、今日だって好きって気持ちという言葉が聞こえてきましたよ」
原田茜「吉川さん、声が大きいから・・・。彼はプロデューサーで、私はドラマの脚本家なんです。まだ駆け出しですけど」
星野寛(え!? 彼氏じゃなかったんだ!?)
原田茜「私、経験があまりないから恋愛ドラマって書くのが苦手で・・・それでいつも吉川さん、恋愛について語ってくれてたんです」
星野寛(恋愛経験が少ないなんて意外。こんなにかわいいのに)
原田茜「私、好きって気持ちをうまく表現できなくて・・・せっかく連ドラの機会をもらったのに、3話目がボツで、ほかの脚本家に頼むって」
星野寛「それで泣いて・・・でも恋愛経験がなくて書けないなら、すぐに書けるようになるいい方法があるよ」
原田茜「どんな方法なんですか!?」
星野寛「紅茶だけでなく、僕も試してみない?」
原田茜「え? ええ? もしかして・・・そういうことですか?」
星野寛「そういうこと」
原田茜「で、でも・・・店長さん、かっこいいし、すごくモテそう・・・からかって・・・ますよね?」
星野寛「店長っていっても新米で・・・このカフェ経営で頭がいっぱいなのに、つい、原田さんが気になってしまって」
原田茜「うそみたい・・・私も店長さん、すてきだなって。だから、吉川さんに、打ち合わせ場所はここがいいって・・・」
星野寛「紅茶派なのに、コーヒーしかないうちを選んでくれたんだ!?」
原田茜「実は・・・。でも、店長を眺めてるだけじゃ、恋愛をうまく書けるようになりませんでした」
星野寛「これからは、脚本じゃなくて、僕たちだけの物語をいっしょに作っていかない?」
原田茜「はいっ!!」
星野寛「店長じゃなくて、寛って呼んでくれる?」
原田茜「はっ、はい・・・では、私は茜で・・・」
星野寛「茜・・・名前もかわいいんだね」
そのとき、女性客が3人入ってきた
「いらっしゃいませ」
星野寛「あっ、茜まで」
原田茜「つられちゃった!」
茜は脚本の仕事の傍ら、カフェの仕事を手伝ってくれるようになった
「いらっしゃいませ」
まだ恋愛ものは苦手だけど、カフェで人間関係を観察して目が肥えたから、ヒューマンドラマにトライするとか
〇クリスマスツリーのある広場
いろんなところにふたりで行って、同じときを過ごそう
僕たちの恋物語は、まだ始まったばかり
恋愛がらみの修羅場かと思いきや、まさかの真相ですね。普通は勘違いしちゃいますよね。。勘違いから始まる恋愛もまたいいですね!
上手いこと言う二人ですね〜笑
まさかの勘違いで出て行ってしまって少し恥ずかしいなぁって感じでしたが、かなりうまく乗り切りましたね笑
別れ話かと思いきや、仕事の話だったとは。笑
でも、彼の優しさが心に染みますよね。
一緒にいると温かい気持ちになれそうな彼です。