僕の知らないあなた、あなたの知らない僕

朱井彩月

読切(脚本)

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朱井彩月

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〇シックなバー
後輩「あれ、先輩?」
後輩「偶然ですね。僕もこのバー、時々来るんです」
後輩「お一人ですか?ご一緒しても? それとも、先輩の彼氏は偶然会った後輩と飲むのも嫌がりますか?」
後輩(こんな偶然滅多にない。せめて一緒に飲むぐらいはいいだろう)
後輩「えっ、別れた!?」
  あまりに予想外な返答に、僕の声は裏返ってしまった。
後輩「よくある話って・・・『他に好きな子ができた』って理由で学生時代から付き合ってる彼女と別れるなんて、よくあったら困りますよ」
後輩「ああ、すみません。びっくりしてしまって・・・」
後輩「じゃあもう気兼ねなく、あなたの隣に座っていいんですね」
後輩「『どうぞどうぞ』って・・・、言質は取りましたよ?あとで撤回なんてさせませんからね?」
  気が変わらない内にと、僕は素早く先輩の隣に座る。
後輩「先輩と彼氏さん、学生の頃から付き合ってるって聞いてたから、順調なんだろうなって思ってました」
後輩(先輩とその彼氏が付き合って長いことは、社内の中でも知っている人が多い)
後輩(ある程度親しい人間なら普通に知っている情報だろう。僕じゃなかったとしても)
後輩「それにしても、先輩と別れるなんて、その元カレ本当に見る目がないですね」
後輩「本心ですよ。 僕は、あなたより魅力的な人なんて会ったことがありません」
  彼女は笑いながら軽くお礼を言って流そうとするが、そうはさせない。
後輩「お世辞なんか言ってません、本気です」
後輩「じゃなきゃ、彼氏持ちで脈がない相手に、3年も片思いなんてしないでしょう?」
  彼女の心底驚いたといった表情を見て、この人でもそんな顔をすることを初めて知った。
後輩(もっと知りたい・・・「ただの後輩」では見れない表情を)
後輩「驚いた顔をしてますね」
後輩「知らなかったでしょう、僕があなたを好きだなんて」
後輩「だって、恋人がいるのに別の男、しかも会社の後輩なんかに好かれたら、先輩困るじゃないですか」
後輩「だからずっと、良い後輩のフリをしていたんです」
後輩「うまかったでしょう?先輩の言うことをよく聞く、素直で誠実な、ただの後輩のフリ」
後輩「あなたのことが好きなのに、バレないようにちゃんと隠していたんですよ?」
  彼女だけでなく、会社の人間にも知られないように隠してきた。
  僕のせいで、彼女が居心地の悪い思いをしないように。
後輩「ああでも、別れた直後に口説くなんて、落ち込んでいるところにつけこむようで誠実とは言えないですね」
後輩「わかってます、それでも、存外僕もただの男だったようで」
後輩「来ないと思って諦めていた機会を逃したくなくて、必死なんです。 少しぐらい卑怯なのは多めに見てください」
後輩「先輩は優しいから、可愛い後輩がほんの少しズルをしたって怒らないでしょう?」
後輩「返事は急ぎませんから、とりあえず、今度の休日にデートしてください。 まずは僕のことを、恋愛対象という目で見てほしいんです」
後輩「いやだなぁ、強引に話を進めたりしてませんよ」
後輩「だって、最初に聞いたじゃないですか、『もう気兼ねなく、あなたの隣に座っても良いんですね』って」
後輩「それに先輩は『どうぞどうぞ』と答えた」
後輩「それは席のことのつもりだったって?僕は席のことだなんて、一言も言ってませんよ」
後輩「最初からずっと、あなたの恋人の話をしています」
後輩「それに言ったでしょう?「言質は取った、撤回はさせない」って」

コメント

  • ちょっと押しが強いかもって感じちゃいましたが、失恋直後はこのくらいグイグイ来てくれるほうが丁度いいのかもしれませんね!真っ直ぐ一途な後輩男子っていいですね!

  • 振られた直後にこんな言葉をかけてもらったら、心に染みるし、なびいてしまいそうです。近い未来、悲しい失恋の涙は、嬉しい笑顔になりそうなそんな予感を感じさせる素敵な作品ですね。

  • かなり若い頃、会社の後輩に誘われたり断ったりしたのをいい感じで思い出しました。女性って、こういう風に真面目にアピールされて嬉しくないはずはないですよね。読みながら、懐かしさに酔いしれました!

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