読切(脚本)
〇神社の石段
ハナ「あっ!一希くーん!」
一希(かずき)「こんにちは」
ハナ「今日はテストだったんでしょ? どうだった?」
一希(かずき)「まぁまぁかな・・・ 今日は数学と化学と音楽だったから」
ハナ「化学!?」
ハナ「化学って何?」
一希(かずき)「元素記号覚えたりとか、物質の性質調べたりとか・・・そんな感じ」
一希(かずき)「ってか、ハナさんって俺とそんなに年変わらないよね?」
一希(かずき)「いつも何してるの?」
ハナ「うーん・・・この神社の掃除とか」
一希(かずき)「学校は?」
ハナ「行ってないよ!」
一希(かずき)(・・・これ以上は、触れない方がいいかな?)
一希(かずき)「そうなんだ」
一希(かずき)「ハナさんは、ここら辺に住んでるんでしょ? この神社の掃除してるってことは、宮司さん?」
ハナ「そ、そうなの! おじいちゃんが、ここの宮司で・・・ 私はその手伝いをしてるんだ」
一希(かずき)「そうだったんだ! ここの神社の宮司さんって見たことなかったけど、ハナさんのおじいさんなんだ!」
ハナ「もう年だから、あんまり外にも出なくなっちゃって〜」
ハナ「あっ!もうこんな時間!! 私、そろそろ帰らないと」
ハナ「一希くん、またね」
一希(かずき)「あぁ、それじゃあまた」
〇学校の廊下
柊(ひいらぎ)「ねぇ、この村にある神社の噂、知ってる?」
橘(たちばな)「えっ・・・?噂?」
柊(ひいらぎ)「うん 21時以降にあの神社の前を通ると、悪い霊に取り憑かれるらしいよ」
橘(たちばな)「でも、噂でしょ?」
柊(ひいらぎ)「でも実際、21時以降にあの神社を通ったら気分が悪くなったって言ってた人、いるみたいだよ?」
橘(たちばな)「えぇ・・・怖いこと言わないでよ 私、帰りにあの神社通るのに・・・」
柊(ひいらぎ)「まぁ21時以降に行かなければ大丈夫でしょ?」
柊(ひいらぎ)「それに、時間が経てば元に戻るって言う人もいるみたいだし」
柊(ひいらぎ)「まぁ、確かにあそこの神社、見た感じ不気味というか・・・なんか出そうな雰囲気はあるよね」
柊(ひいらぎ)「今度試しに行ってみる?」
橘(たちばな)「絶対に嫌!!」
柊(ひいらぎ)「冗談だって〜」
一希(かずき)「・・・」
〇神社の石段
ハナ「一希くん、おかえり〜」
一希(かずき)「・・・」
ハナ「・・・一希くん?」
一希(かずき)「・・・ハナさんはさ、この神社の噂って知ってる?」
ハナ「噂?」
一希(かずき)「21時以降に、ここの神社を通ると、悪い霊に取り憑かれるって噂」
ハナ「へぇ〜、そうなんだ!」
ハナ「でも、夜中のお寺とか神社ってそういうイメージあるから仕方ないよね」
一希(かずき)「・・・俺さ、小さい頃ここで迷子になったことがあるんだ」
一希(かずき)「夜になっても誰もこなくて・・・ ひとりでこの神社で座って泣いていたら、女の人が俺に声をかけてくれたんだ」
一希(かずき)「「ここは危ないから、下まで降りよう」と言って、階段の下まで一緒に降りてくれたんだ」
一希(かずき)「「ここから先は一緒に行けないけど、この道をまっすぐ行けば家につくよ」って言ってくれたけど、俺、怖くて歩けなくて・・・」
一希(かずき)「その時、女の人がこれを俺にくれたんだ」
一希(かずき)「「これを持っていれば怖くないよ。大丈夫」って励ましてくれて」
一希(かずき)「嬉しかったし、何より心強かった」
一希(かずき)「それから俺は無事に家に帰れたんだけど、未だにあの女の人が、誰なのか分からないんだよな・・・」
一希(かずき)「もしかしたらこの神社の神様だったんじゃないかって思うんだ」
ハナ「・・・」
一希(かずき)「そんな優しい神様がいるこの神社のこと、悪くいわれたくないというか、なんというか・・・」
ハナ「・・・一希くんは、優しいね」
一希(かずき)「えっ?」
ハナ「私、そろそろ帰らないと! じゃあね、一希くん」
一希(かずき)「じゃあ、また」
橘(たちばな)「あれ?一希くん・・・?」
橘(たちばな)「・・・誰と話してたんだろう?」
〇神社の石段
一希(かずき)「学校に忘れ物するとはなぁ・・・ 先生がいて良かった」
一希(かずき)「・・・神社から音が?」
〇古びた神社
一希(かずき)「うわっ!? なんだ・・・これ・・・」
ハナ「一希くん、離れてっ!」
一希(かずき)「えっ!?ハナさん?」
一希(かずき)「・・・ハナさん?」
ハナ「一希くん!なんでこんな時間にいるの!」
一希(かずき)「えっ・・・学校に忘れ物した帰りで・・・」
ハナ「今日話してたでしょ! 21時以降にここを通ると取り憑かれるって!」
一希(かずき)「えっ!?あの話、本当だったんだ・・・」
一希(かずき)「それと、ハナさん、その格好は・・・?」
ハナ「・・・」
ハナ「実は私、この神社の”守り神”なの」
一希(かずき)「えっ・・・?”守り神”?」
ハナ「うん」
ハナ「だから、普通の人には私の姿は見えてないの」
一希(かずき)「じゃあ、俺はなんで・・・」
ハナ「さっき見せてくれたお守り」
ハナ「あの時、私があげた物だから繋がりができたんだね だから一希くんとは話せるんだと思う」
一希(かずき)「じゃあ、あの時助けてくれたのは・・・」
ハナ「私だよ まさかあの時あげたガラス玉、まだ持っているとは思わなかったよ」
一希(かずき)「そうか・・・ハナさんだったんだ・・・」
一希(かずき)「ずっと、お礼が言いたかったんだ・・・」
一希(かずき)「あの時、俺を助けてくれてありがとう」
ハナ「私も覚えててくれて嬉しいよ!」
一希(かずき)「そういえば、さっきのモヤモヤは・・・」
ハナ「あれは悪霊だよ」
ハナ「噂どおり、人が近づけば取り憑かれる」
ハナ「この村の悪霊は、全部ここに集まってくるから、私がそれを除霊してるの」
一希(かずき)「ハナさん、1人で?」
ハナ「もちろん 守り神は私だけだからね」
ハナ「昔は村の人たちが、神社に参拝しにきてくれたり、お供えしてくれたりしてたから、今ほど悪霊もいなかったんだけど・・・」
ハナ「それも減ってきたからなぁ・・・」
ハナ「あまり神社に足を運んでくれる人も少なくなったし」
一希(かずき)「・・・俺に何かできることはない?」
ハナ「一希くんにはもう十分、助けてもらってるよ」
一希(かずき)「えっ?」
ハナ「毎日ここに来てくれるでしょ?」
ハナ「私の話相手にもなってくれてる! それだけで十分」
ハナ「いつもありがとう、一希くん」
一希(かずき)「・・・」
一希(かずき)「俺、これからもハナさんのそばにいる」
一希(かずき)「この村のために頑張ってるハナさんの力になれるように、俺ももっと出来ること探すよ」
一希(かずき)「明日もまた、いつもの階段の下で待ってて」
一希(かずき)「会いに行くから」
ハナ「・・・うん」
ハナ「一希くんに会えるの、待ってるね」
しみじみと心温かくなる物語ですね。ハナさんの優しさ、慈愛が伝わってきますね。一希の村はそのおかげで住み良いのだろうと推察できます。
不思議な女性だなぁと思っていたら、まさかの守り神だったとはびっくりしました。
神社は参ってくれる人がいないと…みたいな話を聞いたことがあるんですが、彼のおかげだったんですね。
人々がお寺で手を合わせたり、神社で祈ったりすることで悪霊を取り除くことができているのだなあと、あらためて感じました。彼にとっていつまでもこの神社が心のよりどころになるでしょうね。