変な先輩

槻島 漱

変な先輩(脚本)

変な先輩

槻島 漱

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変な先輩
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〇名門の学校
  入学式
先輩「君の発声するファの音が素晴らしいので、付き合ってください!」
私「・・・は?」
  これが先輩との出会いだった。
  私はのちに、この変人が作曲科の3年生だと知る。
私「丁重にお断りさせていただきます」
先輩「なんで?!」
私(なぜ驚く・・・)

〇黒
  あれから半年・・・
  先輩は、毎日のように私の前に現れては告白をしてきた。

〇講義室
  講義と講義の間。
先輩「やあ」
先輩「付き合う気になってくれた?」
私「なりません」

〇学食
  お昼の食堂。
先輩「ここのお蕎麦、本格的で美味しいよね」
私「そうですね」
先輩「味の好みが一緒だし、付き合う?」
私「付き合いません」

〇音楽室
  声楽のレッスンの10分前。
先輩「のど飴いる?」
私「あるのでいりません」
先輩「じゃあ、婚姻届いる?」
私「もっといりません」

〇ソーダ
私(毎日よくやるな・・・)
  これでもか、というくらい先輩は私の所へ来ては告白をした。
  そのせいだ。
  作曲科の3年生の間で”ファの君”と呼ばれるようになってしまったのは。
私(入学早々、変な人に気に入られちゃったな・・・)
  と、思った。

〇女の子の部屋(グッズ無し)
  ある日のことだった。
私「・・・こんなに静かな朝はいつぶりだろう」
  いつもはうるさいくらいに携帯が鳴るのに、この日はなぜか静かだった。
私「先輩からのうるさいモーニングコールがないだけで、こんなにも空気が美味しい」
  清々しい気持ちでカーテンを開ける。

〇空
  外は激しい雷雨だった。
私「こんなにひどい天気なのに快晴に見える」
  のびをして大学へ行く準備をする。
私(まあ、どうせまた学校行ったら来るんだろうし。今だけはこの静けさを楽しもう)
  ──しかし、その日一日先輩は現れなかった。

〇講義室
  放課後
私「連絡が取れない?」
  私が今しがた講義を受けていた教授に用があると来ていた作曲科の先輩が言った。
先輩同級生「そうなんだよ」
先輩同級生「いつも雨の日は偏頭痛がひどいから休むって連絡がくるんだけど、今日はなくてさ」
私「そうですか・・・」
先輩同級生「”ファの君”はもう今日は終わり?」
私「はい、一応」
先輩同級生「ならさ、あいつの様子見てきてくれない?何かあったらあれだし」
私「え」
先輩同級生「これ、住所」
先輩同級生「俺はサークルがあって行けないから頼むよ」
私「わ、かりました・・・」

〇アパートの玄関前
  というわけで今、私は先輩の住むアパートの前にいる。
私「・・・何かあったら、ね」
  私は覚悟を決めてチャイムを鳴らした。
  しばらくすると、ゆっくりとした足音が近づいてきた。
  ガチャ
先輩「はーい・・・て、え?」
私「どうも」
先輩「え、え、な、なんで?!」
私「落ち着いてください」
私「それより頭痛は大丈夫ですか?」
先輩「え、あ、うん。それは大丈夫だけど・・・」
私「頼まれたんですよ、様子見てきてくれって」
先輩「そ、そうなんだ・・・」
私「それじゃ、私はこれで」
先輩「あ、まって!」
  帰ろうとしたとき、先輩に腕を掴まれた。
私「何か?」
先輩「いや、あの・・・」
先輩「よかったら上がっていって。雨の中来てもらったんだし」
私「頭痛がひどい人の家に上がり込むほど鬼じゃないですよ、私」
先輩「いいからいいから」
先輩「お茶だけでも飲んでいきなよ」
  結局、無理やり先輩の家に上がらされてしまった。

〇男の子の一人部屋
  部屋の中はすっきりと片付いていた。
私(散らかってるイメージだったからちょっと意外かも・・・)
先輩「はい、お茶」
私「ありがとうございます」
先輩「無理やり上げちゃったけど、レッスンとか大丈夫だった?」
私(無理やりって意識はあるんだ・・・)
私「無理だったら強引にでも帰りますよ」
先輩「・・・そっか」
  沈黙が流れる。
  その間も先輩の表情はどこか辛そうだった。
私「先輩、私のことは気にせず少し寝てください」
私「たぶんまだ痛いですよね?」
先輩「・・・君には隠し事できないみたいだね」
  先輩は苦笑いをすると、
先輩「じゃあ、遠慮なく」
  とベッドに入った。
私「何か欲しいものあります?」
私「私、買ってきますよ?」
先輩「君の欄が埋まった婚姻届」
私「バカに効く薬でいいですか?」
先輩「うそうそ」
先輩「今欲しいものはないよ、ありがとう」
私「わかりました」
  静かにしていると、そのうち小さな寝息が聞こえてきた。
私(先輩、寝ちゃったみたい・・・)
  私は先輩の部屋を見回してみた。
  そして机の上に目が止まる。
私(・・・すごい量)
  大量の手書きの楽譜が散乱していた。
私(そういえば、最近はコンクールに向けて曲を作ってるって言ってたっけ)
  その中から一枚手に取る。
私「・・・♪〜」
  何となく口ずさんでみる。
私(綺麗なメロディーだな・・・)
先輩「それ」
  突然聞こえた声に肩が跳ねる。
  振り返ると先輩がこちらを見ていた。
私「お、起きてたんですか・・・」
先輩「綺麗な声が聞こえたもんで」
私「はあ・・・」
先輩「・・・その曲、どう?」
私「どうって?」
先輩「歌ってみて」
私「・・・そうですね」
  私は歌ってみた感想を考えた。
私「・・・ちょっと切ない感じがしましたかね」
先輩「・・・やっぱり?」
私「やっぱり?」
先輩「もっと明るい曲にしたかったんだけど・・・」
先輩「なんでだろうね」
  先輩は切なそうに笑った。
  また沈黙が流れる。
  それを破ったのは先輩だった。
先輩「・・・ほんとはさ、ずっと知ってたんだ。君のこと」
私「え?」
先輩「6年前の中学生の声楽コンクールで優勝してたでしょ?」
先輩「あれ見に行ってたんだ。いとこが出てたから」
私「そうだったんですか」
先輩「そこでさ、君の歌声に惚れたんだ」
先輩「君のために曲を書きたいって思った」
  そして先輩は真剣な眼差しを私に向ける。
  私は、そこからもう逃れることは出来なかった。
先輩「曲を作り始めて、ずっと君のことばかり考えて・・・」
先輩「気づいたら、君に恋してた」
私「先輩・・・」
先輩「入学式で君を見つけた時、本当に嬉しかった」
先輩「ねえ、君が好きだよ。ずっと前から」
  その言葉に、私は・・・

コメント

  • 先輩、変人ではあるのだけど、一途さが犬みたいで個人的には可愛くて好きでした。ちょっと変わった人のほうが個性的ですてきな音楽をかけると思うので将来すてきな作曲家になりそうですね。明るいメロディも思い浮かぶようになるように、ふたりにはぜひ結ばれてほしいなぁ。

  • 毎日告白に来られたら、うざいと思ってしまいそうですが、そういう時って…来ないとだんたん心配になってしまうんですよね。笑
    でも、先輩いい男だと思いますよ。
    純情な心を持った素敵な人だと思います。

  • 毎日毎日告白をするなんて。こんなふうにされたら嬉しいはずなんだがと思っていました。その理由が彼女に一目惚れだったとは。これでやっと彼女も靡くかな?

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