隣の人(脚本)
〇ファンシーな部屋
AI「私が認識している限り、貴女の名前はマカベアキラさんです」
スマホがひとりでに話し始める。
真壁明「やだ・・・またなの?」
数日前から、触ってもいないのにスマホが勝手にしゃべりだすようになった。そろそろ寿命なのかもしれない。
真壁明「やっぱり買いかえた方が良いかな。 ちょっと古くなってきたし」
真壁明「それに、なんか私の名前も間違ってるし」
彼女の名前は「明るい」と書いて、「アカリ」と読む。でもスマホは「アキラ」と言った。
きっと明は自身の名前を漢字でしか登録していないのだろう。
読み方は、スマホが勝手に想像したのかもしれない。
でも機械音痴の明にそんなことはわからなかった。
真壁明「どうせなら新機種にしようかな」
スマホを新しく買いかえようと調べていると、ピンポーンとドアチャイムが鳴った。
真壁明「はーい、今でます!!」
〇白いアパート
御影ナナミ「夜分遅くにすみません 隣の部屋に引っ越してきた御影と言います」
明がドアを開けると、そこには男性が立っていた。
御影ナナミ「一週間くらい前には入居してたんですけど、バタバタしていてご挨拶が遅れました」
真壁明「そうだったんですね」
真壁明「お引越し、お疲れ様です 私は真壁と申します」
御影ナナミ「これ、大したものじゃないですけど、よろしければ受け取ってください」
真壁明「ご丁寧にありがとうございます」
真壁明「わあ!!これ、大好きなお菓子です!! すごく嬉しいです」
御影ナナミ「それは良かった では、もう遅いので失礼しますね」
御影ナナミ「おやすみなさい」
〇ファンシーな部屋
二週間後
真壁明「やっと機種変できた!!」
明の手元には新しいスマホがあった。
〇テーブル席
ケータイショップのお兄さん「お客様がお持ちの機種なんですが」
ケータイショップのお兄さん「先日──一ヶ月ほど前に更新されたソフトウェアアップデートから、内臓AIに関する不具合が報告されるようになりまして」
真壁明(ソフトウェアアップデートなんてあったかな・・・)
ケータイショップのお兄さん「おそらくお客様がおっしゃった、『AIが突然しゃべりだす』というのもその所為かと」
ケータイショップのお兄さん「すぐにまたアップデートは来るかと思いますが・・・」
真壁明「もう古いですし、これを機に機種変します」
ケータイショップのお兄さん「かしこまりました」
〇ファンシーな部屋
真壁明「うん、操作もしやすいし、機種変して良かったな」
真壁明「とりあえず、ちゃんと新しい方を使えるようにしないと」
明は古い方のスマホを見ながら、新しいスマホに必要なアプリをインストールしていく。
真壁明「データ移行って、面倒だよなぁ」
真壁明「こんなアプリ、インストールしたかなぁ 使ってた覚えもないんだけどなぁ」
ぼやきながら黙々と作業を行う。
すると、あることに気づいた。
真壁明「ん?」
真壁明「あれ、私、アップデートしてなかったんだ」
真壁明「じゃあ、お兄さんが言ってたみたいな不具合じゃなかったのかな」
うーん、と頭を悩ませていると、ピンポーンとチャイムが鳴った。
真壁明「はーい!!」
明は新しいスマホをポケットに突っ込んで、玄関へ向かう。
〇白いアパート
御影ナナミ「こんにちは」
真壁明「あ、御影さん こんにちは」
そこにいたのは御影だった。
彼は明へ引っ越しの挨拶をしてから何度か、彼女の家を訪ねていた。
──というのは
御影ナナミ「すみません、また・・・」
御影ナナミ「今度は、たまねぎが送られてきてしまいまして・・・」
真壁明「立派なたまねぎですね!!」
御影ナナミ「ええ、そうなんですが・・・」
真壁明「これ、また頂いちゃって良いんですか?」
御影ナナミ「もちろんです というより、もらってください」
御影ナナミ「恥ずかしながら、僕は料理しないんで・・・」
御影ナナミ「野菜があっても腐らせちゃうんですよね・・・」
真壁明「毎回、本当にありがとうございます!! とっても美味しいです!!」
御影の実家は豪農らしく、日々たくさんの野菜や米、果物などが送られてくるのだとか。
だが御影は料理をしない。
明も得意というわけではないが、食費が浮くのは万々歳のため、ありがたくそれらを譲ってもらっているのだ。
御影ナナミ「喜んでいただけたのなら、なによりです」
真壁明「今日はもともとカレーにしようと思っていたので・・・」
御影ナナミ「うん? 電話ですかね?」
それはまるで、黒電話のようなコール音だった。
御影ナナミ「昼間に固定電話にかけてくるのって、セールスが多いですよね」
真壁明「あ、いや ウチは固定電話はひいてないんです・・・」
御影ナナミ「じゃあ、スマホ? 出なくて大丈夫ですか?」
真壁明「いや、実はスマホは新しくしてばかりで、ここに・・・」
鳴っていなかった。
御影ナナミ「じゃあ、今鳴ってるのは・・・」
真壁明「前のは確かに部屋にありますけど・・・」
真壁明「古いのって、なんとかカードを抜くから電話はもうできないって店員さんに・・・」
御影ナナミ「ええ、そのはずです SIMカードですね」
沈黙が横たわる。
でもコール音は続いていた。
真壁明「まさか、幽霊・・・?」
御影が難しい顔をする。
御影ナナミ「入っても?」
真壁明「・・・はい」
〇ファンシーな部屋
御影ナナミ「失礼します」
御影は迷いなく、部屋を進む。
そしてコール音が鳴り続けるスマホを取り上げた。
御影ナナミ「これは・・・!?」
御影ナナミ「真壁さん、このスマホはハッキングされてます!!」
真壁明「え・・・」
御影ナナミ「職業柄、そういうことは人より詳しいんですが」
御影ナナミ「よくストーカーが使う、スマホの中身を抜き取るアプリがインストールされています」
御影ナナミ「おそらく、SIMカードが無いのに電話がかかってきているのもその所為でしょう」
真壁明「そんな、なんで・・・」
御影ナナミ「真壁さんをつけ狙っている輩がいるのかもしれません」
真壁明「怖い・・・ 怖いです・・・」
明は恐怖のあまり、その場に泣き崩れた
御影ナナミ「大丈夫です」
御影は震える明に近寄り、その肩を抱いた。
〇黒背景
御影ナナミ「大丈夫」
御影ナナミ「大丈夫ですよ」
御影ナナミ「僕が守りますから」
御影ナナミ「安心してください」
「アキラさん」
最後の彼の一言でストーリーの流れが変わった後、『料理しないなら親に野菜送らないで!』っていえばいいのに、わざわざ彼女の部屋に入るための策略だったのか!!っと不自然さがクローズアップされました。
ラストの一言でゾクリとし、それからそれ以前のストーリーとの整合性でゾワゾワ感が強くなりました。切れ味鋭い良質ホラーですね!
最後ぞっとしました、犯人は彼でしょうかね、、、ずっとタイミングを見計らっていた!?便利な世の中、便利すぎて怖い時もありますね。