エピソード1(脚本)
〇おしゃれなリビング
私の彼女は猫だ
というと語弊があるが、
膝の上でくつろぐ彼女との関係を聞かれたら、そう答えるしかない
にゃー
辺見草介(可愛い)
甘えるように鳴く彼女に顔を埋めたいが、
そろそろ時間だ
カチッ
時計の針が0時を指した
すると辺りが白い煙に包まれ、
視界が無くなる
膝にずっしりと重みを感じる
視界が晴れると、人間の彼女がいた
まだ状況を理解していないのか、
目を瞬かせる彼女に愛しさが募る
辺見草介(たった1日、話せなかっただけなんだけどな)
辺見草介(それなのに、 変身が解けた後はすぐに彼女に触れたくなる)
辺見草介「おかえり」
夢見心地な彼女をそっと抱き寄せる
彼女は身じろぐが、離すつもりはない。
そのまま抱きしめていると、
彼女の手が控えめに背中に回る
その仕草にまた愛しさが募る
辺見草介「はあ。本当に君は、私を喜ばせるのが上手いね」
彼女の顔を盗み見ると、
頬が赤く染まっている
その表情が可愛くて、指摘したくなる
辺見草介「照れたの?」
背中に回していた手を彼女の腰まで落とし、顔を覗き込む
そして、益々赤くなってしまった頬に我慢出来ずにキスをする
──
辺見草介「ふふ、照れてる君が可愛くて」
辺見草介「頬も良いけど、唇にも、良いかな?」
彼女は顔を真っ赤にしながら、頷いてくれた
辺見草介「じゃあ、眼鏡。君の手で外して欲しいな」
辺見草介「ありがとう」
──
顔を上げると、彼女は恥ずかしさに耐え切れなくなったのか、両手で顔を覆ってしまった
辺見草介(本当に可愛いな)
どんな姿でも、私の彼女は可愛い
〇タワーマンションの裏口
辺見草介「あれ、鍵が無い。会社か?」
辺見草介(家の鍵なんて鞄から出したかな)
猫の彼女の初めてのお留守番。
心配のあまり、
急いで帰ってきたのが仇となった
辺見草介(やってしまった──)
失態に頭を抱えていると、肩を叩かれる
振り向くと
日下部通孝「どうも、救世主です」
辺見草介「通孝!!」
日下部通孝「先輩、デスクに鍵置きっぱなしでしたよ」
日下部通孝「そこで、 優しい後輩の俺がわざわざ届けに来ました」
楽しげに現れた通孝の手には、
家の鍵が揺れている
辺見草介「そうだったのか、わざわざありがとう。 それじゃあ」
鍵を受け取り、話を切り上げようとする
日下部通孝「ちょちょ、先輩!! ここで帰すとかあります!?」
通孝には感謝しているが、今日は絶対に家に入れるわけにはいかない
それなのに
どうしてこうなった
〇おしゃれなリビング
辺見草介「絶対に、0時までに帰れよ?」
日下部通孝「了解っす」
辺見草介(不安だなあ)
家に入った通孝は、
彼女を見つけると声を上げる
日下部通孝「めちゃくちゃ可愛い猫ちゃんじゃないですか」
出迎えにきた彼女が、通孝によって抱き上げられる
慣れた手つきで、彼女も嫌がる素振りはない
辺見草介(すごく複雑だ)
とはいえ、ただ猫を可愛がっているだけの通孝に、”触るな”など言えるわけもなく。
作り笑顔でなんとか受け流す
こちらの事情は露知らず。
時間が経つに連れ、スキンシップはどんどん激しくなっていく
日下部通孝「ほんと可愛いなあ、家に連れて帰りたい」
日下部通孝「猫吸いしちゃおう」
日下部通孝「え!?先輩、大丈夫ですか!? すげー音しましたよ」
辺見草介「──ん?ああ、大丈夫大丈夫」
日下部通孝「あ、やべ。もう11時過ぎてる。 俺そろそろ帰りますね」
辺見草介(こういう所はしっかりしてるんだよな)
感心していると、
『最後に』と言って彼女にキスをしたものだから、嫉妬心は怒りへ変わる
辺見草介(こいつ、ほんとに──)
辺見草介(猫吸いでも許せなかったのに、キスまで)
辺見草介「気をつけて帰れよ」
口では普通を装うが、心の中は大荒れだ
日下部通孝「お邪魔しました」
通孝は約束通り、0時前に帰っていった
彼女は疲れたのか、丸くなって寝ている
いつもなら一緒に過ごすが、
今日はそんな気分ではない
それからの私は、どこかおかしい
彼女にまで気を使わせてしまっている
・・・
〇ホテルの部屋
辺見草介「ねぇ、こっちに来て」
ぽんぽんと膝を叩いて、彼女を呼ぶ
辺見草介「隣じゃなくて、膝の上」
彼女は私を背にして、体重がかからないようにちょこんと座っている
辺見草介「もっと寄りかかって」
後ろから抱きしめ、自分の元へと寄せる
辺見草介「急にごめんね。 最近、君に触れていなかったから」
金曜に何かあった?と彼女が聞いてくる
辺見草介「それは──」
聞いてくれた彼女に甘えて、
何があったのか全て話した
彼女の首に顔を寄せる
辺見草介「君が、私以外の人に触れられるのが嫌だった」
辺見草介「記憶が無いとわかっていても、 例え猫の姿でも、君は私の彼女だから」
辺見草介「身勝手な嫉妬だと分かっていて、 それでも気持ちが抑えられなくて」
辺見草介「君に合わす顔がなかった」
辺見草介「ごめん」
お腹に回していた手に、彼女の手が重なり、ぎゅっと握ってくれる
顔を覗き込むと、
切なげに視線を落としている
辺見草介(──君がそんな顔をする必要は無いのに)
辺見草介「ねぇ、 猫になった君をもう誰にも見せたくない」
辺見草介「こんな嫉妬深い私でも、受け入れてくれる?」
辺見草介(触れてほしいのも、触れたいと思うのも私だけ、君からそんな言葉を貰えるなんて)
辺見草介「すごく嬉しい」
愛しさが溢れて、彼女を強く抱きしめる
辺見草介「ありがとう」
耳元で囁くと、
くすぐったいのか彼女は身じろぐ
けれど強く抱きしめている為、
大して動くことは出来ない
辺見草介(耳まで真っ赤にして、可愛いなあ)
辺見草介(もっとしたい)
辺見草介「ねぇ、今日はもう少し」
辺見草介「このままで居ようか?」
今日は彼女がやめてと言うまで、このまま
〇ゆるやかな坂道
時は遡り、金曜夜
日下部通孝(先輩、すごい怒ってたなあ〜)
・・・
日下部通孝(次の金曜、 彼女が猫にならなかったら、どんな反応するんだろう)
日下部通孝「また家に突撃しちゃおっかな♪」
fin
とても不思議な世界の、とても甘すぎるお話ですね、激甘です。草介はまさに”猫かわいがり”ですね。金曜日も、それ以外の日もずっと!
とっても可愛らしいですね、彼からしたら愛しい猫ですよね、ずっと一緒に居たくなりますよね。読みながらこちらがニヤケてしまいました。
とっても可愛い猫だもの、そりゃそれだけでかまいたくもなるしキスもしたくなるよなぁと思ってたら最後の展開でえ〜!となりました。気づかないふりしてやりたい放題っていう彼の作戦かしら。