読切(脚本)
〇海岸線の道路
赤木裕二「風が気持ちいいですね!」
赤木裕二「ドライブだったらよかったのに」
赤木裕二「って冗談ですよ」
黒田未岬「何でもいいけど 死体を見に行く以外の理由がよかったわ」
黒田未岬「ところであんた、真夏でもそれ着たまま?」
赤木裕二「このコートですか? はい、着ないと締まらないんです」
赤木裕二「憧れて刑事になりましたから」
赤木裕二「これ着てたドラマの主人公に」
黒田未岬「そう 水分補給はしなさいよ」
赤木裕二「先輩、たまに優しいですね」
黒田未岬「倒れたら誰が面倒みんのよ」
赤木裕二「‥ですね」
黒田未岬「しかし進まないわねぇ」
黒田未岬「急がないと」
サイレンを鳴らすと、前を行く車が次々と道をあけた
〇堤防
地元警官「午前9時、通行人が海に浮かぶ遺体を発見」
地元警官「仏の中年男性は腹部を撃たれ出血死 所持品はありません」
黒田未岬「この辺は人通りが少ないから発見が遅れたわけね」
赤木裕二「なぜでしょう? ビーチには人が大勢いたのに」
地元警官「この場所、立ち退きエリアでして」
赤木裕二「立ち退き?」
地元警官「大型レジャー施設の建設が始まって、家やお店がなくなったんです」
地元警官「けど立ち退きは完了しておらず、工事も中断された状態です」
赤木裕二「気になる話ですね」
地元警官「詳しい話は、今も立ち退きに反対している民宿の主人に聞くといいですよ」
黒田未岬「ありがとう 行ってみるわ」
〇寂れた旅館
宿の主人「施設側が雇った男達でしょう、毎日のように嫌がらせに来ますよ」
宿の主人「長年この場所に居ますから こっちも簡単には引けません」
黒田未岬「なるほど」
赤木裕二「ひどいですね もしもの時は警察を呼んでください」
宿の主人「警察なんて何もしてくれませんよ」
「・・・」
宿の主人「どんな嫌がらせでも耐えてみせますから」
〇海辺
赤木裕二「工事を進めたい施設側と立ち退きを拒否する主人」
黒田未岬「うーん、臭うわねぇ」
黒田未岬「課長からだ 嫌な予感‥」
室田捜査一課長「黒田警部補! すぐに署まで戻るように!」
黒田未岬「どういう事ですか?」
室田捜査一課長「今後の捜査方針について上層部で会議中! 捜査は一時中断!」
黒田未岬「課長!初動捜査の重要性は判ってますよね?」
室田捜査一課長「いいね!」
黒田未岬「聞いてます?」
黒田未岬「くそ課長!」
赤木裕二「どうしました?」
黒田未岬「どうせ圧力がかかって及び腰になったのよ」
赤木裕二「大規模な土地開発には政治が絡んでますからね」
黒田未岬「現場を何だと思ってんのよ!くそっ」
赤木裕二「戻りますか?」
黒田未岬「戻らない」
赤木裕二「ですね!捜査続行っすね!」
黒田未岬「けど赤木、あんたは帰りなさい」
赤木裕二「え?」
黒田未岬「私だけ歩いてみる」
赤木裕二「なら僕も」
黒田未岬「私はただの散歩 あんたは帰る」
赤木裕二「先輩!僕だって圧力に屈するような男じゃないですよ!」
黒田未岬「帰りなさい!」
〇開けた高速道路
赤木裕二「いつまでも半人前扱いだ」
赤木裕二「僕を規律違反させないためなんだろうけど」
赤木裕二「情けない もっと頼りになる男になりたい」
赤木裕二「けど先輩だって危なくないか?人が殺されてんだぞ」
赤木裕二(‥‥未岬さん)
赤木裕二「心配になってきた」
〇堤防
赤木裕二「いない」
〇海水浴場
赤木裕二「ここにも」
〇海辺
赤木裕二「電話もつながらないし」
〇海辺の街
赤木裕二(先輩は何を調べようとしたんだろう?)
赤木裕二(死体?立ち退き?そもそも二つは繋がってるのか?)
赤木裕二「そうだ もう一度あそこへ‥」
〇寂れた旅館
赤木裕二「ごめんください! 誰もいないのかな?」
赤木裕二「ちょっとお邪魔します」
〇古いアパートの廊下
赤木裕二「誰かいませんかぁ?」
その時、突然銃声が鳴り響いた
赤木裕二「!!」
赤木裕二「この部屋か!」
銃声の聞こえたドアを蹴破る赤木
〇古めかしい和室
宿の主人「ヒヒヒ 殺してやる」
男が握る銃の先には、右腕を撃たれて固まる未岬の姿
赤木裕二「先輩!」
黒田未岬「赤木!」
宿の主人「みんな殺してやる」
男に飛びかかる赤木
銃声が鳴り響くと同時に勢いよく倒れ込む
もつれるように地面を転がり、優位な体制を奪い合う二人
赤木が上になった時、膝の一撃を男の腹に食い込ませる
顔をゆがませ動かなくなる男
赤木裕二「ハァハァ 先輩!」
未岬に駈け寄る赤木裕二
しかし直前で前のめりに倒れ込んでしまう
咄嗟に抱きかかえる未岬
黒田未岬「赤木‥‥あんた」
黒田未岬「撃たれてる‥‥血が、血が」
赤木のコートににじむ血が、みるみる広がっていく
黒田未岬「私の身代わりに‥」
赤木裕二「せ、先輩‥‥無事ですか?」
黒田未岬「こっちの台詞よ!こんな無茶して!」
赤木裕二「無茶くらいさせてください」
赤木裕二「好きな人を‥‥守るためですから」
黒田未岬「好きな人って」
赤木裕二「僕‥先輩のためなら死ねますから」
黒田未岬「なにバカなこと言ってんのよ!」
赤木裕二「ずっと‥‥好きでした」
黒田未岬「バカ!今、こんなところで」
赤木裕二「こんなところだからです」
赤木裕二「だって恋は会議室じゃなく現場で起きてるんすから」
黒田未岬「早く救急車を呼ばないと!」
赤木裕二「このままでいてください 最後くらい‥‥好きな人の腕に抱かれていたいんです」
黒田未岬「なに弱気になってんのよ」
赤木裕二「ずっと先輩だけ見てました」
赤木裕二「事故現場でも、殺害現場でも、立て籠もり現場でも」
赤木裕二「刑事の覚悟や、捜査の技を盗もうと、ずっと見てました」
赤木裕二「そしたらいつしか、先輩にハートを盗まれてたみたいです」
黒田未岬「もうしゃべらなくていい!」
赤木裕二「先輩、いや‥‥未岬」
赤木裕二「好きでした 愛してました」
黒田未岬「赤木!」
赤木裕二「死ぬ前に言えて、よかっ‥‥た」
黒田未岬「死んだらあんたの想いに応えてあげられないよ!」
黒田未岬「赤木!赤木ーー!!」
〇警察署の入口
赤木は二ヶ月後に現場に復帰した
弾は急所を外れていた
着ていたミリタリーコートも弾の威力を弱めたようだ
宿屋の男は殺人と殺人未遂の容疑で逮捕された
あの男、立ち退き費用を吊り上げるためにギリギリまで拒んでいたせこい奴だった
あんな奴に殺されなくて本当によかった
〇開けた高速道路
赤木裕二「風が気持ちいいですね!」
赤木裕二「先輩と海までドライブできる日が来るなんて」
赤木裕二「もう死んでもいいです」
黒田未岬「裕二、その冗談 笑えないわよ!」
赤木裕二「そんな怒らないでくださいよ 今日は死体を見に行く訳じゃないんですよ」
黒田未岬「もう、裕二! せっかくの非番に 血生臭いこと言わないでよね」
赤木裕二「ごめんなさい、先輩!」
〇沖合
あの日以来、名前で呼ばれたことがない
いつになったら名前で呼んでくれるのだろう?
ひょっとして、死を覚悟しないと呼んでくれないのだろうか?
死に直面した緊迫した場面なら、お互いに真っ直ぐ本音をぶつけられるのでしょうね。日頃なら照れたり恥ずかしくなったりすることでも。大好きなシチュエーションです!
彼、究極のシャイなんですね。死ぬと思ったら言えることも普段は言うのに勇気がいるのかな。でもきっと言葉がなくても、命をかけて守ろうとした彼女に気持ちは全部伝わってますね。
危機に陥ってるからこそ、言っておきたいことはありますよね。
でも、そんな時の愛の告白ってロマンティックでキュンキュンしますね。