第24話 赤い内に打てば君は紅く染まって(前編)(脚本)
〇古いアパートの一室
甘い匂いを嗅ぎとり薄く目を開ける。
匂いは目の前の想里愛の果実・・・。
〇ダイニング
ではなくテーブルに並べられている桃の切り身のようだ。
〇古いアパートの一室
誰かが早起きして朝食に用意してくれていたのだ。
恐らく想里愛が育てている桃の樹の果実だと思う。
想里愛「んにゃあ・・・。」
まだ寝ぼけているのか夢の中にいる想里愛は虹を駆けているかのように、お布団の中で躍動的に僕へ向かって寝返りを打つ。
真樹「おはっ・・・ぁふぅんっ。」
おはようと小さく言おうとするが、寝返りの勢いのついた彼女の乳房が僕をビンタしてしまう。
言い切る事は叶わなかった。
もちろんこれは嬉しい出来事の一つに違いない。
真樹「これでよしっ・・・と。」
しばらく無意識の彼女の抱擁に抱かれて心を癒された後、彼女の姿勢を元に戻して寝顔に優しくキスをする。
僕には朝からしなければならない事がある。
そして起き上がると、早朝から街へ向けて歩む彼の姿は遠ざかっていく・・・。
〇道場
場面は変わって、ここは精霊街の弓術道場。
ここでは武道への嗜みで来る者、未来の狩人を目指す者、最近では流行りのダイエットとして訪れる弓ガールも足繫く訪れている。
一日中解放されているこの道場は多くの人に受け入れられている。
真樹「さて、僕も射るか。」
弓をしならせ楕円の弧を描く。
矢を射れば、的の中心を捉えて突き刺さる。
直線の強力な軌道で射る事ができた。
これを冒険でも実践できれば皆の役に立てるかもしれない。
自信に満ちた顔で満足気に次の矢を継いでいると、隣に初めて見る少女が同じく弓を構える。
彼女の弓を射る時の綺麗な姿勢、胸当ての上からでもわかる恵まれた果実、
お人形のような小さく、それでいて年齢を重ねたような整った顔、すべてが僕の心を鷲掴みにする。
陽満梨「うーん、的まで矢が届かないよぅ~。」
真樹「僕が教えてあげるよ!」
陽満梨「わぁ、お兄さんありがとう♪ どうやれば届くかなぁ?」
僕は一計を案じる。
詰まるところ、足りないものは打点と距離である。
彼女を抱きかかえて持ち上げて高い打点で矢を放たせて、軌道を斜め上45度にして射てもらう。
的の下の方だが矢が的を射た。
陽満梨「やった!ありがとう、おにいちゃん♪」
真樹「よかった! でれでれ、何か困ったらいつでも呼んでね♪」
朝から素晴らしい交流をすることができた。
まったく、これだから道場通いは止められないぜ!
樹の椅子に腰掛け休む。
視線の先では陽満梨ちゃんが精を出して射撃に励んでいる。
彼女の矢を放つ時の胸の揺れも半端無い。
精霊街の豊かな大地が育んだ、奇跡の賜物だ。
帰り支度をしていると・・・。
陽満梨「あ、今日はもう帰るのかな? 良かったらあたしお店やってるから、暇な時おにいちゃん、遊びに来て欲しいな♪」
真樹「お店を経営しているなんてすごいね! うん、今度遊びに行かせてもらうね♪」
精霊街の店の位置を描いたの絵の名刺を頂く。
〇古いアパートの一室
新しい楽しみが増えて満足気に想里愛のお家へ帰る。
布団まで戻ると、想里愛のネグリジェに桜の花びらが付いている事に気付く。
僕よりも早朝に起きて、桃の果実を摘みに行ってくれたんだ。
真樹「二度寝の想里愛もすごく愛しいなぁ。」
顔を隠してしまっている前髪をそっと横へ分ける。
端正な美少女の寝顔に僕は朝からときめいていく。
そっと体を重ねてキスして、愛しい寝顔を見て頭や頬を撫でる。
食卓にある分を運んだのなら、朝から疲れがたまったのかもしれない。
この二度寝はなかなか起きないのではと僕は思い始める。
少し乳房をにぎり、指先をその温かい中へ沈めていく。
・・・想里愛がまた起きたら、こうする事にしよう。
想里愛「真樹さん、おはようございます♪」
真樹「おはよう、朝食用の桃用意してくれてありがとうっ。」
寝起きの想里愛にキスして頭を撫でる。
想里愛「んぅっ。嬉しい。」
朝から深く愛し合う。
濃厚で充実したひとときが緩やかに流れていく。
〇古いアパートの一室
咲桜里「あー、お姉ちゃん、朝からまたイチャイチャしてるぅ~。」
翠「まったく、うらやましい限りだよ。」
里乃愛「おっしゃる通りだね。」
皆も起きたようだ。
〇ダイニング
食卓に移動して、皆で軽めの朝食という事で桃の切り身を美味しく味わう。
咲桜里「あっさりとした、優しい果実の味わいがお腹に優しく染みていくね♪」
翠「さおりちゃんの表現は相変わらずプロ顔負けだねっ♪」
里乃愛「自然の恵みってすごく良いね♪」
笑顔で食卓を囲み会話も弾む。
平和で穏やかな朝で、こうした平穏がとても心地良い。
ゆっくりと喉越しの甘くトロリとした食感を味わう。
朝からとろけた桃のように過ごせたし、今日は良い一日になりそうだ。
里乃愛「今日はどこか、お出掛けするの~?」
真樹「そうだね、ドワーフの国へ装備作りの勉強をしに行こうと思ってるんだ。」
翠「それはいいね、お洒落な可愛い装備がいいなっ!」
〇綺麗なキッチン
食器を片付けつつ、出発の準備をする。
安全に街道沿いに道を進む予定だ。
〇桜並木
どうせならばと、街道では少し遠回りして春の道の散歩を皆で楽しむ。
想里愛「少し桃食べながら休みませんか?」
真樹「そうだね、急ぐ旅じゃないからね。 ゆっくりして行こう♪」
満開の花びらの中、万年樹に背中を預け腰掛けて想里愛がとってきた桃をかじる。
この世界の桃は皮まで甘い。
農薬のかかったものとは違い安心して食べられる。
美少女と桜の絵になるこの光景をこの手で描く日があっても良いかもしれない。
〇桜並木
翠「さおりちゃん・・・起きて。」
咲桜里「あっ・・・すっかりお昼寝しちゃったぁ。」
里乃愛「あたしが心地良い場所になるように作ったから、仕方ないよ♪」
真樹「そうだね、毎週ここでお昼寝したくなるよ~。」
想里愛「十分に休めたし、そろそろまた向かいましょう♪」
〇林道
春の道を外れ、木漏れ日から陽の光が射す木立を美少女達と練り歩く。
素敵な私服とそれを囲む森達が良い雰囲気を醸し出す。
咲桜里「あ、明るくなってきた♪」
〇外国の田舎町
木立を抜け街道が見えてきた。
街道を歩く人はまだらにしか居ない。
翠「丘みたいに少し高い位置になってるんだね♪」
真樹「そうだね、初めて行く場所だから新鮮だねぇ。」
小高い丘から見おろした先には、水龍が住むと言われる清樹湖が遠くに映っている。
光を反射して僕達をまぶしく照らす。
〇湖畔の自然公園
想里愛「ボートでお昼寝している人もいますね♪」
里乃愛「寝心地意外と良いのかなぁ?♪」
咲桜里「さおりも寝た~い!」
想里愛「ちょっとさおり、さっき寝たばかりでしょ!」
真樹「まぁ、確かにあの場所は良いお昼寝スポットなのかもしれないね♪」
ゆっくりと木陰になっている所を通り、夏の陽射しを避ける。
色白な彼女達のお肌は僕が道を先導して守る!
想里愛「だいぶ湖が近づいてきましたね♪」
里乃愛「ほんとだね♪あれ、なんだろうあの行列?」
見たところ、家族連れやカップルが多くレジャーとして栄えているのだろう。
さらに言えば向こう岸にも同様にボートがあり、片道で乗り捨てられる。
広い湖を迂回せずに済む・・・つまり時短の長所も兼ね備えているようだ。
中には行商に出ている商人が、大事そうに荷物を抱えている様子も見受けられる。
翠「湖は、多くの人や物を運び見守ってきたんだね。」
咲桜里「あたし達も運んでもらお~?」
列に並びドワーフの国で昼食にしようと話つつ順番を待つ。
並んでる間に架け橋が三叉路に別れており、中央を進めばボート乗り場へ着き、左右へ別れれば水上を散策しながら湖を渡れる。
真樹「着いたね、みんなでボートの旅に出ようっ!」
想里愛「はいっ♪」
咲桜里「いこういこう!」
〇水中
一番大きいボートに全員で乗り込む。
高めの料金を支払い向こう岸まで自動で操縦してくれるボートを利用する。
里乃愛「快適な旅だね、景色も良いね~。」
翠「そうだね、水の旅なんて味があるね。」
真樹「あっ!皆見てっ!」
〇空
優しい陽射しの中、空を見上げれば虹色の架け橋が宙に幻想的に浮かんでいる。
想里愛「わぁ、こんな素敵な虹が見れるなんて♪」
咲桜里「森の中じゃなかなか見れないよね、桜は綺麗で良い所なんだけど。」
〇桜並木
春の道もとても素晴らしい所なのは間違いない。
澄んだ空気や満開の桜がその場に居る者の身も心も癒してくれる。
〇湖のある公園
里乃愛「デートスポットになるだけの事はあるね♪」
ふと翠を見ると、何か難しい顔をしている。
何か問題でもあったのだろうか。
翠「どこかから、見られている気がする・・・。」
真樹「まぁ、これだけ人がいるからね。誰かが見てきても仕方ないよ。」
翠を膝に乗せて、素敵な虹を見せる。
警戒するのも大事な事だが、良い景色を見て気分良く旅をする事も大事な事だと思っている。
翠「わっ。もうびっくりしたよぉ♪」
難しい顔から翡翠よりも綺麗な笑顔を僕に向けてくれる。
にこりと微笑み返す。
咲桜里のもう一回のお昼寝を皆で囲み見守りつつ、水上の旅を満喫する。
陽射しが程良くあたたかく、冷え気味なボートの底を良い加減で温めてくれる。
想里愛「だいぶ大きい湖ですね、やっと向こう岸が見えてきましたよ。」
真樹「そうだね、最短のコースでこれだと、迂回していたら日が暮れちゃってたね。」
里乃愛「さすが真樹くん、ナイスな判断だったね♪」
〇湖畔
咲桜里を起こさないようにおぶってボートを降りる。
〇川沿いの道
街道沿いの看板に分かりやすくドワーフ国への道が記されている。
翠「岩山が遠くに見えるね。 鉱山とかがあるのかな?」
真樹「資源が豊富なんだね、鉱山で採掘も楽しみだなぁ。」
陽が少し傾き始める中、一歩一歩踏みしめてドワーフの国へ向けて歩みを進めるのだった。