読切(脚本)
〇オフィスのフロア
気づけば、その背中を目で追っていた
同期「せんぱーい! ちょっと教えて欲しい所が!」
上司「いいよ。どこかな?」
部長「忙しいところすまんな。先日のプロジェクトの件だが」
上司「その件ですが、お客様にも非常に興味を持っていただき、今度是非、話を聞きたいと」
私「・・・」
きっかけは覚えていない
仕事中のことだったか
〇大衆居酒屋
飲み会中のことだったか
その人が飲むお酒を目で追いながら、一杯ぐらいならとメニューに視線が吸い込まれる
部長「未成年なんだから駄目だよ?」
私「わかってますよ」
私(なら、十九歳を居酒屋に連れてくるなよ!)
私(いや、私が子どもなのが悪いな)
私(私には、目で追う事しかできない)
私の手は、その人の背中に届くだろうか
お酒が飲めるくらいの大人になれば
その人は私を、対等の存在として見てくれるだろうか
背中は答えてくれない
〇オフィスのフロア
私は、良い部下であることを心掛けた
まだまだ入社二年目の新参者
何十年も働いている上司たちの足元にも及ばないが
同期「よう、プロジェクト大成功したんだって?」
同期「おめでとう!」
私「ありがとう」
部長「君の働きは見てるよ」
部長「今度のボーナス、期待してていいからね!」
私「ありがとうございます」
新参者なりに周囲から評価を得ていた
上司「うん、今回の資料も完璧だ」
上司「さすがだね」
私「ありがとうございます」
その人も、私を褒めてくれた
今は、それでいい
私の手が、貴方の背中に届くまで
私がお酒を飲めるくらい大人になるまで
この気持ちは秘めておく
〇大衆居酒屋
同期「二十歳の誕生日、おめでとー!」
部長「おめでとう」
私「ありがとうございます」
そして、私の二十歳の誕生日
会社が誕生会を開き、私を祝ってくれた
上司「誕生日おめでとう」
私「ありがとうございます」
誕生会には、その人もいた
同期「さ、人生初のお酒はどれにするんだ?」
上司「このカルーアミルクっていうお酒は、甘くて美味しいと思うよ」
同期「柑橘系が好きなら、カシスオレンジとかどうだ?」
私が初めて飲むお酒は
私「いえ、私はこれを」
その人の大好きなビール
上司「初めてのお酒がビールか」
同期「大丈夫か? 初心者には苦いぞ?」
私「大丈夫、これがいい」
一口飲む
私(苦い)
私(とても苦い)
金色にキラキラと輝いて、あんなに美味しそうに見えたのに、こんなに苦いだなんて
それとも、私はまだまだ大人じゃないから、ビールが苦く感じるのだろうか
年齢だけが大人になって、中身はまだまだお子様だとでも言うのだろうか
いつか、この苦みが甘く感じられる時が来るのだろうか
しかし、予定は変わらない
二十歳の私の決意は変わらない
〇住宅街
上司(ふう・・・)
上司(すっかり酔ってしまった)
誕生会が終わり、会社の人たちと別れた後
帰っていくその人の後を追っかけて、その背中に手を伸ばす
上司「わ!?」
上司「・・・って、君か」
上司「どうしたの?」
私「好きです! 付き合ってください!」
上司「ええ!?」
私「・・・」
上司「・・・」
上司「じょ、上司をからかうもんじゃないよ?」
私「本気です!」
上司「いや、でも・・・」
私「本気なんです!」
上司「うーん・・・」
私「・・・」
上司「・・・今、ちょっと酔ってるから」
上司「一日、時間をくれないか」
私「わかりました」
〇ファンシーな部屋
私「・・・」
お酒を飲むと寝つきが良くなると聞いていたが、その日の私はとても眠れなかった
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大好きな彼の背中を目で追いかけ、ビールの味が最初は苦くても、アルコールに強くなっていくと、彼に対する愛情の酔いも慣れてくるだろう。
20歳くらいの頃って、少し年上なだけでもすごーく大人に見えたりしますよね。でも実際自分がその年になってみると、そんなに大したことないことに気づく…。すごくよくわかります!
アルコールが大人になるための象徴でしたが、実際に飲んでみるとただ苦くて…。
それは現実社会でも同じなんですよね。
そのことに気づけた分、彼女は大人になったんだと思います。