エピソード1(脚本)
〇黒背景
神谷梓「『どうして逃げるんだ』」
神谷梓「『この俺の顔も身体も、髪の毛一本から足のつま先まで』」
神谷梓「『全てお前のものなのに』」
〇本棚のある部屋
神谷梓「・・・・・・」
神谷梓「・・・・・・」
神谷梓「こ、これで良いのかな・・・?」
濱野千佳「・・・・・・・・・・・・・・・」
濱野千佳「梓くん、すごいよっ! 本当にスバルそっくり!」
神谷梓「そ、そっか。そんなに似てた?」
濱野千佳「うん!我儘聞いてくれてありがとね。 やっぱり持つべきものは優しい幼馴染だね!」
私、濱野千佳が今ハマっている少女漫画
『偏愛ホットココア』略して偏コア。
魅力的な男子が数多く登場する作品で、
私が一番好きな「スバル」というキャラが
幼馴染の梓くんにソックリだったのだ。
一見ぶっきらぼうだけど、実はとても繊細。
本当はヒロインのことが大好きなのに、
素直になれなくていつも誤解されてしまう。
神谷梓「こんな台詞、マンガじゃないと なかなか言わないよね・・・」
──お人好しの梓くんとは真逆の人柄だ。
だけど・・・
それを持ってしても外見が似ている。
そんな訳で、我ながら強引だと思いつつ
私はお人好しな梓くんに
手作りのコス衣装を押し付けてしまった。
濱野千佳「散々写真も撮ったし、 スバルくんの台詞も言ってもらったし・・・」
濱野千佳「うん、大満足だよ。本当にありがとう!! もう着替えて大丈夫だよ!!」
神谷梓「コスプレなんて初めてだったけど、 千佳ちゃんが喜んでくれたなら良かったよ」
神谷梓「あっ、そうだ。衣装と一緒に 貸してくれた『偏コア』返すね」
濱野千佳「ちゃんと読んでくれたんだね・・・! ありがとうね!」
濱野千佳「・・・・・・・・・」
濱野千佳「・・・ねぇ、今日も おじさん達帰ってこないでしょ?」
神谷梓「えっ!?」
濱野千佳「良かったらさ、 久しぶりに晩ご飯うちで食べない?」
濱野千佳「『偏コア』について、語りたいな!」
神谷梓「あ・・・・・・ハイ。 久しぶりにお邪魔しようかな・・・」
濱野千佳「やったぁ! じゃあ後でねー!」
〇女の子の部屋
濱野千佳「でねでねっ! ヒロインはスバルの本当の気持ちに 気付けなかったシーン!」
濱野千佳「あそこは悲しかったなぁ〜。 私だったら、 絶対気付いて受け止めるのにっ!」
神谷梓「・・・千佳ちゃんは本当に、 スバルのことが好きなんだね」
濱野千佳「そりゃもちろん・・・って、 つい私ばっかり喋っちゃったね」
濱野千佳「梓くんから見た「偏コア」の話も 聞かせてよ!!」
神谷梓「あ、偏コアの話は確定なんだね・・・」
神谷梓「・・・でも、そうだな。 一番共感できたのは、僕もスバルかな」
濱野千佳「えっ!?そうなの!?」
神谷梓「・・・意外だった?」
濱野千佳「うん、意外も意外だよっ! 見た目は似てるけど、性格は真逆だし・・・」
濱野千佳「梓くんのイメージって、 やっぱり優しいお兄さんな感じだから」
神谷梓「ふーん、そっか・・・」
濱野千佳「・・・・・・梓くん?どうしたの?」
神谷梓「何でもないよ。 もう夜遅いし、そろそろ僕は帰ろうかな」
なぜ急に梓くんの様子が変わったのか、
全く分からない。
だが、このまま帰らせるわけにはいかない。
実は今日梓くんを家に呼んだのは、
もう一つ「大事な理由」があったからだ。
濱野千佳「あ・・・ ちょっと待って、梓くん!」
濱野千佳「最後にひとつだけ、 聞いてもらいたかった事があるんだ」
神谷梓「・・・・・・・・・」
神谷梓「うん、大丈夫だよ。何かな?」
梓くんがいつもの笑顔に戻ったことに
ホッとした私は、ポツポツと話し始めた。
濱野千佳「・・・まだ、誰にも言ってなかったんだけど」
濱野千佳「私ね、最近夢が出来たんだ」
神谷梓「・・・夢?」
濱野千佳「うん」
濱野千佳「・・・私、服飾デザイナーになりたいんだ!!」
神谷梓「・・・・・・服飾デザイナー?」
濱野千佳「ほ、ほら。私も来年で受験生だし・・・ そろそろ、進路の事考えなきゃでしょ?」
濱野千佳「でも私は毎日何となくで生きてたから。 夢なんて一つも持ってなかった」
濱野千佳「でもね、梓くんに着てもらう コスプレ衣装を作ってるときは・・・」
濱野千佳「楽しかった。もちろん大変だったけど それも苦にならないくらい・・・」
濱野千佳「やっと、自分が本当にしたいことを 見つけられた気がするんだ」
濱野千佳「見つけられたのは、梓くんのおかげだよ。 だから1番に伝えたかったの」
神谷梓「・・・そっか」
神谷梓「見つけられて、良かったね」
神谷梓「千佳ちゃんの初めての夢・・・ 僕も、全力で応援させてほしい」
濱野千佳「・・・!! ありがとう、梓くん!」
濱野千佳「あのね、それで・・・ 学校とか色々調べたんだけど、」
濱野千佳「私の行きたいなって思った所は ここから離れてるみたいなの」
神谷梓「・・・えっ?」
濱野千佳「だから、上手くいったら そこで一人暮らしすることになるかも!」
神谷梓「・・・・・・は?」
神谷梓「──なんでだよ。 ここでも、充分したいこと出来るだろ」
濱野千佳「えっ?」
神谷梓「ここでなら、僕はいくらでも 衣装のモデルになってやれるよ」
神谷梓「幼馴染の僕にしか こんなの頼めないだろ?」
神谷梓「というか、千佳ちゃん人見知りでしょ。 一人暮らしとか出来るの?無理じゃない?」
濱野千佳「ま、待って・・・ さっきと言ってること、全然違うよ・・・?」
神谷梓「違わないよ!!」
神谷梓「・・・ねぇ、千佳ちゃん・・・」
〇黒背景
神谷梓「・・・どうして、逃げるんだ」
〇女の子の部屋
濱野千佳「・・・・・・」
濱野千佳「逃げないよ」
濱野千佳「梓くん、本当はもっと別に・・・ 言いたいことがあるんじゃないの?」
神谷梓「・・・・・・」
神谷梓「ごめんね。千佳ちゃん・・・」
濱野千佳「私の方こそ・・・ ずっと気付いてあげられなくて、ごめん」
濱野千佳「ねぇ、話そうよ。 梓くんの本当の気持ち教えてほしい」
濱野千佳「私はそれを・・・・・・受け止めるからさ」
〇黒背景
END
幼馴染だからこそ、お互いのことがわかっていて、無理な頼み事も頼めても、恋愛的な気持ちはなかなかわからないものですね。でもわからないからこそ、ますます相手のことが気になって好きになってしまうのかも?
こんな彼がそばにいてくれたらとっても幸せですよね、愛されているって毎日幸せですよね。彼の優しさにきゅんとさせられました。
妹以上恋人未満のような存在が突然地元を離れると言い出したら、やはり彼のような反応になると思います。でもその言動から、彼女がその気持ちに気づいたみたいで、今後の展開が気になりますね。