出会い(脚本)
〇中央図書館
私(ああ、今日も仕事かあ・・・)
眠い目をこすりながら、中央図書館の文字を見つめる。
ここで働いて3年目になるが、やはり朝は眠たい。
私「出勤時間、もうすこし遅くしてくれればいいのに」
そうつぶやきながら職員玄関に向かっていると、図書館の前の人影が目に入った。
私(こ、こわそうな人だ・・・!!)
私(ここで待ち合わせかなあ。 あんまり本は読まなそうだし)
そんな失礼なことを考えながら、彼の前を通りすぎる。
私「あ!!」
ふと時計を見ると、いつのまにか出勤時間ぎりぎりになっていた。
私(遅刻だ!急がなきゃ!)
近くにいる彼のことは忘れて、私は職場へと走り出した。
〇綺麗な図書館
開館時間になると、すこしずつ利用者さんが入ってきた。
私「返却日は4月9日になります。 ありがとうございました」
カウンター業務がひと段落して、ふぅとため息をつく。
私(今日も常連さんが多いなあ・・・)
私(・・・あれ?)
見慣れた人々の間に、さっきの彼が座っているのが見えた。
私(利用者さんだったんだ・・・ 何の本を読んでるのかなあ)
気になったので、本を戻しに行くついでに様子をうかがってみる。
私(あれ・・・?)
彼に近づくにつれて、あることに気づいた。
私(もしかして泣いてる・・・?)
本を見つめる彼の目は、今にもこぼれ落ちそうなほどうるうるとしていた。
そのまま見つめていると、彼の目からひと筋の涙があふれた。
思わずポケットからティッシュを取り出し、小さな声で彼に言った。
私「──あの、これ。 よかったら使ってください」
差し出されたティッシュに気がつくと、彼はうるんだ瞳で私を見つめて言った。
彼「・・・ありがと、おねえさん」
心臓がどきっとしたのを誤魔化すように、彼に訊ねる。
私「だ、大丈夫?なにかあったの?」
彼「ううん、なにもないよ。 ただ、読んでたら涙があふれてきて・・・」
彼が読んでいたのは、数年前にベストセラーになった医療小説だった。
余命宣告をされた後も、日々を懸命に生きるヒロインの姿が胸を打つ名作である。
私「その本、いいよね。 私も読んだとき泣いちゃった」
私「結末は悲しいけど、自分も頑張ろうって元気がもらえる」
彼「そう!そうなんだよ・・・」
私「実はわたし、この本大好きなんだ」
彼「俺も好き!」
彼「俺もこの子みたいにがんばらなきゃ」
そう言って、彼は涙を拭う。
彼「おねえさん、心配かけちゃってごめんね」
私「大丈夫だよ。それより・・・」
彼「それより?」
私「その本が好きだったらオススメしたい本があるんだけど、読んでみない?」
彼「読む!」
〇綺麗な図書館
彼「おねえさん、たくさん教えてくれてありがと!」
オススメした本の山をスキャンしながら答える。
私「こちらこそありがとう。 好きな本の話ができて、うれしかった!」
私「それじゃあ、返却日は4月9日です。 ありがとうございました」
小さくお辞儀をしてから去っていく背中を、名残惜しい気持ちで見つめる。
私「もっと話したかったなあ・・・」
去っていく背中を見ていた、そのとき。
彼は突然ふりむくと、カウンターへ戻ってきた。
彼「あ、あの!」
彼「また、好きな本の話してくれる?」
彼「おねえさんの好きなもの、もっと知りたい」
私「いいよ、たくさん語ろうね!」
彼「やった!」
彼はうれしそうに言った。
彼「へへへ、楽しみにしてる」
彼「おねえさん、またね!」
これが、私と彼との出会いである。
こんな出会いは憧れますね。恋愛で大事な”共感”が、最初から好きな本を通じて育まれれているのですから。2人がこれからどんな恋愛をしていくのか気になりますね。
自分と同じ感覚を持っている人ってなんとなーくわかってしまう物なんですよね、不思議と。二人の距離感の縮まり方が自然で素敵でした。
自分が好きな本を、誰かに紹介したくなりますよね!ましてや、素敵な異性だったら…。さらに同じような感性を持っていると嬉しくなりますね。