あの日のときめきまで3秒前

すたん

読切(脚本)

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〇ビルの裏通り
  訪問先の仕事終わり、路地裏に迷い込んでしまった・・・
前嶋佐那「すっかり暗くなっちゃったよ・・・」
前嶋佐那(あれ?こんなところにお店がある)
前嶋佐那(せっかくだし、寄ってみようかな)

〇シックなバー
  ──カランコロン
  そこはこじんまりとしたバーで、
  テーブル席には何組かお客さんがお酒を楽しんでいた。
篠田翔太郎「いらっしゃいませ」
前嶋佐那「『え・・・。うそ』」
  そこには、学生時代の憧れの人がいた。
  私の家の近くの進学高校に通っていた彼は、その端正な顔立ちから地元でちょっとした有名人だった。

〇学校脇の道
  中学生だった頃、学校の帰りに寄り道をして、彼のいる部室の前をよく通った。
  彼はよくギターを弾きながら、歌を歌っていた。
  だけど一度だけ、彼に見つかってしまったことがある。

〇学校の部室
篠田翔太郎「ちょっと待って!君、名前は?」

〇学校脇の道
前嶋佐那(学生時代)「・・・さな、前嶋佐那・・・です」

〇学校の部室
篠田翔太郎「僕、篠田翔太郎。 いつも僕の歌、聞いてるでしょ。 音楽好きなの?」

〇学校脇の道
前嶋佐那(学生時代)「・・・えっと・・・」

〇学校の部室
篠田翔太郎「もし音楽が好きなら、ちょうどいい! 今そっちに行くから待ってて」

〇学校脇の道
前嶋佐那(学生時代)「っえ!」

〇学校の裏門
  ギターを持って軽やかに走ってきた。
篠田翔太郎「やっと話せたよ」
篠田翔太郎「いつも、すぐに消えちゃうから」
前嶋佐那(学生時代)「えっと・・・怒っていないんですか・・・?」
篠田翔太郎「怒るわけないよ」
篠田翔太郎「僕の曲を聞いてくれる、大事な人だよ」
前嶋佐那(学生時代)「・・・」
篠田翔太郎「うわぁ、自分で言って恥ずかしい」
篠田翔太郎「でも、話したかったのは本当だよ」
篠田翔太郎「佐那ちゃんが聴いてくれてたこと、実は知ってて」
篠田翔太郎「嬉しかったんだ」
前嶋佐那(学生時代)(先輩が私のことを知ってただなんて・・・)
前嶋佐那(学生時代)「先輩の音楽、私、すごく好きです!」
篠田翔太郎「ありがとう!」
篠田翔太郎「今度、駅前で披露するんだ」
篠田翔太郎「だから少し練習に付き合ってよ」
前嶋佐那(学生時代)「もちろんです!」

〇シックなバー
  ──忘れられない、甘酸っぱい思い出がふと蘇った。
篠田翔太郎「いらっしゃいませ カウンター席はいかがでしょうか」
前嶋佐那(やっぱり、篠田先輩だ)
前嶋佐那「えっと、はい」
篠田翔太郎(・・・うそだろ 佐那ちゃんがお店に来るだなんて)
篠田翔太郎「本日はいかがしましょうか」
前嶋佐那「あ、えっと、私こういうところ初めてで・・・ おすすめ、ありますか・・・?」
篠田翔太郎「それでしたら、アプリコットフィズはいかがでしょうか。 爽やかな甘さで、飲みやすいですよ」
前嶋佐那「・・・では、そちらを頂けますか?」
篠田翔太郎「承知いたしました」
前嶋佐那(高校卒業後、音楽の道を進むために上京したとは聞いていたけど、 まさかこんなオシャレなお店で会えるだなんて)
  ──カラン
篠田翔太郎「お待たせしました。 アプリコットフィズです」
  きれいな杏色のカクテルがゆっくりと前に置かれる。
  
  手に取ろうと前かがみになった
篠田翔太郎「・・・好きだといいな」
  ──耳元で囁かれる。
前嶋佐那「っありがとうございます!」
前嶋佐那(絶対耳まで真っ赤になってる・・・。 恥ずかしい・・・)
  急いで一口飲む
  
  ──ごくん
  甘くて、しゅわしゅわで、程よい酸味。
前嶋佐那(クスっ。 まるで私の心模様、そのままじゃん)
前嶋佐那「・・・とても美味しいです」
篠田翔太郎「お口に合ってよかったです」
篠田翔太郎(気づいてないよな・・・。 でも、 耳まで真っ赤になって、可愛すぎないか)
篠田翔太郎(やっと会えたんだ。 絶対に振り向いてもらう)
篠田翔太郎「当店、音楽も楽しめるのですが、一曲いかがでしょうか」
前嶋佐那「はい」

〇ジャズバー
  あの日の歌が、店内を包み込む
きれいな女性「めっちゃかっこいいんだけど・・・!」
大人な女性「声がたまらなくセクシーよね」
  ──店内は暖かい拍手で溢れた。

〇シックなバー
前嶋佐那(やっぱり先輩はモテるよね。 きっと彼女もいるだろうし、 もしかしたら結婚してるかもしれない)
  閉店間際になって、先輩は一人一人にお見送りをしていた。
  最後に私の席に来て・・・
篠田翔太郎「先ほどの曲はいかがでしたか?」
前嶋佐那「・・・篠田先輩」
前嶋佐那「篠田先輩ですよね!」
  私は潤んだ瞳で先輩を見つめた。
篠田翔太郎「うん、そうだよ。 久しぶり、佐那ちゃん」
前嶋佐那「音楽、続けられていたんですね」
篠田翔太郎「うん、作曲が本業だけど、金曜日の夜だけこうしてお店開いてるんだ」
篠田翔太郎「お客さんの表情が見たいからね」
前嶋佐那「・・・」
篠田翔太郎「もうここ閉めるから、帰り送るよ」

〇ビルの裏通り
  ──ガチャガチャ
  お店の鍵を閉めていると・・・
きれいな女性「今から帰るんですかぁ~?」
大人な女性「もう一度先ほどの曲、近くで聴かせてくれないかしら」
篠田翔太郎「えっと・・・。 またのご来店をお待ちしております」
きれいな女性「もぉ~! そんな固いこと言わないでよん!」
大人な女性「うふふ、今晩はお疲れなのかしら?」
  いつの間にか、篠田先輩の周りには女性客の姿が。

〇ビルの裏通り
前嶋佐那「・・・」
前嶋佐那「先輩、ごちそうさまでした!」
篠田翔太郎「え、ちょっと待って  すみません。 失礼します」
きれいな女性「なんでぇ~!?」
大人な女性「あん・・・。 篠田さん、待ってくださいな」

〇街中の道路
  夜道をひたすら走る
篠田翔太郎「待ってよ、ねえ、待ってってば!」
  後ろから腕をつかまれる
篠田翔太郎「はぁ・・・、はぁ・・・。 夜道に女の子一人歩いてたら、危ないでしょ」
篠田翔太郎「家まで送るって言ったでしょ」
篠田翔太郎「そんなに僕のこと嫌?」
前嶋佐那「そんなんじゃないです」
前嶋佐那「篠田先輩はやっぱり人気で、 輝いていて、 遠い存在だなって思っただけです」
  また涙が出ないように顔を背ける。
篠田翔太郎「は。なにそれ」
前嶋佐那「・・・」
篠田翔太郎「・・・なんでそうなるんだよ」
  後ろから抱きしめられる。
篠田翔太郎「ほんと何言ってるの」
篠田翔太郎「僕がどれだけ君に会いたかったのか知らないくせに」
篠田翔太郎「これまで曲を書き続けられたのは、 あの日君が隣で聴いてくれたからだよ」
篠田翔太郎「それに僕も色々我慢してたんだよ」
篠田翔太郎「もう二度と君を離したくない」
  そっと、私の顔に手を添えて、
  先輩は目を見つめる
篠田翔太郎「また隣で僕の曲を聴いてくれない?」
前嶋佐那「・・・もちろんです!」

コメント

  • 思わず逃げてしまった佐那ちゃんの気持ちに共感でした。素敵な人の周りには、やっぱり女性が集まるから、自分なんて……。そんな彼女の想いに切なくなりました。追っかけてきてくれた先輩はかっこいいですね!二人の恋路はきっと青春の続きのように甘酸っぱいんだろうなぁ、と思いました。
    素敵なキュンをありがとうございました!

  • 大人になった二人の素敵なお話ですね。
    お互いずっと忘れてなくて、再会したら…気持ちを確かめたいですよね。
    彼もすっごくかっこいいです!

  • 彼の言葉がすっごく胸にキュンとなりました、女子なら言われたら嬉しい言葉ですよね。彼女の気持ちも純粋で可愛かったです。これから二人がうまくいきますように。

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