はち子物語

笑門亭来福

読切(脚本)

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〇田舎駅の改札
  ♪ むすんで ひらいて 手をうって
  むすんで
  ♪ またひらいて 手をうって その手を・・・
  この唄を聞くと、なんだか胸がつまる
  切なくて、うれしくて、会いたい、ただ会いたい。

〇古風な和室(小物無し)
  さて、ここは、老舗旅館の一室
  離れには、幼い女の子の絵が飾られた額が一枚
  近くには、和製のくるみ割り人形がある
  やがて、足音が近づいてきた
仲居さん「ようこそのお越しで。こちらの離れになります」
お客さん「ふぅん、シンプル・・・というか、殺風景というか・・・」
仲居さん「粗茶ですけど」
お客さん「あぁ、どうも」
お客さん「・・・ ここ、出るんだって?」
仲居さん「・・・」
お客さん「座敷わらし」
お客さん「・・・ ここいらじゃ、珍しくないんだってね」
仲居さん「私はまだ見たことがないんですけど」
お客さん「そうなの?」
仲居さん「まあ、ごゆっくり」
お客さん「さてと、畳はいいなぁ。いい風だ・・・」

〇和風
  絵の女の子の口元がゆるみ
  カラクリ人形の目が、ゆっくりと動いた
頑じぃ(ガンジィ)「はっちゃん、始めるぞぃ」
はっちゃん(はち子)「いいよ」
はっちゃん(はち子)「トントントン」
頑じぃ(ガンジィ)「何の音?」
はっちゃん(はち子)「肩をたたく音」
頑じぃ(ガンジィ)「あぁよかった」
はっちゃん(はち子)「トントントン」
頑じぃ(ガンジィ)「何の音?」
はっちゃん(はち子)「木をきる音」
頑じぃ(ガンジィ)「あぁ、与作だった」
はっちゃん(はち子)「ふ、ふ、ふ」
頑じぃ(ガンジィ)「何の音?」
はっちゃん(はち子)「絵の女の子が笑う声」
頑じぃ(ガンジィ)「あぁ、かわいい?」
はっちゃん(はち子)「ぷ、ぷ、ぷ」
頑じぃ(ガンジィ)「何の音?」
はっちゃん(はち子)「障子に無数の穴があく音ぉぉぉ」

〇手
お客さん「ぎゃあぁぁぁ」
お客さん「でたでたでた」

〇古風な和室(小物無し)
仲居さん「若旦さん、離れのお客さん、部屋を替えてほしいて」
パパ「また出たんかいな。わかってても、怖いんかいな?」
パパ「いたずら好きなだけなんやけどな」

〇和風
頑じぃ(ガンジィ)「はっちゃん、さすがじゃのぉ」
はっちゃん(はち子)「声が、人様にちゃんと届くようになったね」
「うむ、修行の成果じゃ」
はっちゃん(はち子)(なんで増える?)
「次は物を動かすぞぃ」
「頑じぃ増えすぎ! 私もか・・・ってなんでやねん」
はっちゃん(はち子)「じゃあ、あの障子を開けてみるよ」
頑じぃ(ガンジィ)「Let's try !」
  すぅっと障子が開いて、パパがお盆を持って入ってきた
  お盆には、数珠、ローソク、線香などの仏具が一揃え
  パパは、ローソクに火を灯そうとする
はっちゃん(はち子)「あ、ローソクの火好き、ぷぅっ」
パパ「ん? ♪ 風もないのにぶぅらぶらや」
はっちゃん(はち子)「風の呼吸、成功! キャハハハ」
頑じぃ(ガンジィ)「はっちゃん、やるな」
はっちゃん(はち子)「頑じぃの修行のおかげぇ」
  パパ、線香に火をつけようとする
はっちゃん(はち子)「煙もっとぷぅ」

〇和風
パパ「今日の線香は若旦那や、煙の勢いが違うわ」
頑じぃ(ガンジィ)「もはや魔法レベルじゃ」

〇和風
  ようやく、煙も収まって、パパが鈴(りん)を鳴らすと、
頑じぃ(ガンジィ)「ちょっとエコー効かせすぎじゃ、はっちゃん・・・って、パパさん気づかんのかぃ」
パパ「はっちゃん・・・はち子、どうか今日も元気で、幸せであります様に。般若波羅密多心経・・・」
はっちゃん(はち子)「あ、パパ、今日も「パン屋腹見て信用」って 仏々(ぶつぶつ)言ってるぅ」
頑じぃ(ガンジィ)「あれは、お経じゃ」
はっちゃん(はち子)「お経?」
頑じぃ(ガンジィ)「随分昔の人が伝えた、まぁ、その、苦しみを取り去る呪文じゃ」
はっちゃん(はち子)「へぇ、仏々言うと、幸せになるの?」
頑じぃ(ガンジィ)「まぁ、そんなもんじゃ。パパさんは、ああして毎日、はっちゃんの幸せを祈っておられる」
パパ「はっちゃんは、今、どうしてるんやろな・・・」
はっちゃん(はち子)「目の前にいるよ」
頑じぃ(ガンジィ)「こりゃこりゃ、静かに」
パパ「♪ 結んで 開いて 手を打って 結んで ♪ また、開いて 手を打って その手を・・・」
  と、パパは右手を前に出す
はっちゃん(はち子)「わんっ」
  と、はっちゃんは、お手をする
パパ「♪ ・・・ その手を」
  と、パパは左手を前に出す
はっちゃん(はち子)「わんわんっ」
  と、はっちゃんは、おかわりをする
パパ「この唄が大好きだったね、はっちゃん」
はっちゃん(はち子)「ウォォォォォン」
パパ「はっちゃんは、何でウチを選んでくれたんやろ?」

〇雷
  思い出したよ
はっちゃん(はち子)「頑じぃ、ヘルプっ!」
頑じぃ(ガンジィ)「どうした、はっちゃん」
はっちゃん(はち子)「はち子の前世と、どうしてパパのウチを選んだのか」
はっちゃん(はち子)「パパに伝えたいの」
頑じぃ(ガンジィ)「よしっ、影絵で思いを伝えるんじゃ。「エゲカテッカヒ!」」

〇ゴシック
「ある日、私は、ご主人様に拾われた」
「それから、ご飯をもらい」
「ハチという名前をもらった」
「毎日、ご飯の度に、駅の送り迎えの度に「♪ 結んで開いて」を唄ってくれた」
「ハチ、ただいま」
「ウワン、ワン(おかえりなさい)」
「毎日、駅で待った。本当に幸せだった」
「ある日、ご主人様は帰らなくなった。それから、ずっと帰ってこなかった」
「長い間、雨の日も、雪の日も待った」
「お腹が空いて、苦しくて、疲れて、死んだ」
「やがて、大きな光の向こうから、声が聞こえた」
「ハチ、お疲れ様。次は人間として生まれておいで」
「次は、もう待たなくていい人生、私のことを待ってくれる人生をお願いした」
パパ「それで、ウチに来てくれたんやな」
「この世には生まれてこれなかったけど、パパは毎日、仏々言って、20年も私を待ってくれてる」
「パパありがと。できれば、はっちゃんとしても、頭を撫でられたかった」
  光は消え、はっちゃんと頑じぃは、各々、額縁の中に、カラクリ人形に戻った

〇古風な和室(小物無し)
パパ「今日は、はっちゃんの命日や。生まれとったら、成人式の年やな」
パパ「長かったような、あっという間のような」
イケメンパパ「この世に生まれていても、いなくても、ずっと一緒だよ」
はっちゃん(はち子)「あぁっ、パパがかっこよくなってる!」
イケメンパパ「来世もまた、家族になろう」
イケメンパパ「もう、お互いに、待ちもしないし、待たせない」
イケメンパパ「パパも、一度だけでいいから、頭を撫でたかった、ハグしたかったよ」
はっちゃん(はち子)「パパ、ありがと」
  ウォォォォォン
  はち子は、一際高く、遠吠えた
  その時、突然の光、炸裂音、揺れ、衝撃

〇落下する隕石
  パパは細胞ごと引きちぎられた
  はち子の輪郭はぼやけ、蛍は舞い散った

〇壁
  周りは全て破壊された
  人は皆、自ら選んで、望んで、生まれてくるらしい
  災害、事故、通り魔、虐待、戦争・・・
  不条理な、この死に際は・・・
  なんでやねん

コメント

  • はち子…そしてパパの一途な思いがとても…とても切ない…
    これは切ない物語なんだ、と思ったら
    はち子へのイケメンパパの登場に「キュン」です。
    良い意味での裏切り。
    なんど生まれ変わってもはち子とパパが出会いますように。

  • イケメンがまさかの最後に出てきてたまげました
    さらに突然のカタストロフでなんでやねんでしたが、はち子が生まれ変わりを経験している以上、次はパパさんと生身で触れ合える一生に生まれ変われるのかな、などと思いました

  • 笑門亭さんらしい一筋縄ではいかない作品ですね。
    キュンポイントもそう来たかと意表をつかれました。
    ただ、一読しただけでは本作の良さを十分にわからなかった気がするので、再読して読み解きたいと思います。
    それにしても、はっちゃんがかわいい!

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