エピソード1(脚本)
〇教室
キーンコーンカーンコーン。
4時間目の終わりを告げるチャイムが鳴る。
やっと昼休みだ・・・・・・。
手を洗いに行くため、わたしは廊下へ出た。
〇学校の廊下
黒川 大和「どりゃー!」
桐生 海斗「なんの!」
南 夏帆「・・・・・・」
同じクラスの桐生と黒川が、傘とちりとりで攻防を繰り広げている。
黒川 大和「どりゃりゃりゃりゃりゃりゃ!」
桐生 海斗「なんのなんのなんのなんのなんの!」
南 夏帆「・・・・・・ちょっと」
黒川 大和「くっ、やるな、海斗!」
桐生 海斗「おまえもな、大和!」
南 夏帆「・・・・・・邪魔なんだけど」
わたしがそう言うと、行く手を塞いでいる二人が振り返った。
黒川 大和「あ、ごめん、南さん」
桐生 海斗「・・・・・・・・・・・・」
黒川 大和「海斗、おまえも謝れって」
桐生 海斗「・・・ごめん ・・・・・・夏帆」
南 夏帆「・・・・・・桐生」
南 夏帆「ちゃんと制服着て、授業もサボらないで。 先生に「桐生をちゃんとさせろ」って、怒られるのはわたしなんだから」
黒川 大和「オレもよく言われるぜ! 友だちのおまえからよく言い聞かせておけって・・・」
南 夏帆「わっ・・・ わたしと桐生は友だちじゃないから!」
驚く二人のあいだを通り抜けるようにして、わたしは走り去った。
黒川 大和「・・・あの子、海斗の幼なじみなんだよな?」
桐生 海斗「ああ、保育園から一緒だぜ。 家も隣だしな」
黒川 大和「そのわりに、おまえにだけツンケンしてるよな? 苗字で呼んでるし」
桐生 海斗「・・・昔はああじゃなかったんだけどな」
黒川 大和「・・・・・・」
〇田舎の学校
体育教師「位置について・・・ よーい、ドン!」
その合図で地面を思いっきり蹴り、勢いよく駆け出す。
もやもやした気持ちを置き去りにするように、風を切る。
女子「すごい、南さん! タイム更新だよ!」
女子「7秒49! さすが陸上部だね」
南 夏帆「うん・・・ありがと」
黒川 大和「おーい海斗ー! 何秒だった!? オレ6秒98!」
呼吸を整えていると、女子とは別にタイムを計測している男子たちの騒ぎが聞こえてくる。
桐生 海斗「はあ・・・はあ・・・ ・・・・・・7秒11」
黒川 大和「ベストタイム更新だな! ま、でもオレのが速いけどな」
桐生 海斗「うっせ、誤差だ誤差」
黒川 大和「スポーツマンにとって0.1秒・・・ いや0.01秒は重要だろ?」
桐生 海斗「俺もおまえもパソコン部だろ」
南 夏帆「・・・・・・」
嬉しかった気持ちが、嘘みたいにすっと冷めていく。
〇グラウンドの隅
???「海斗、早くー!」
???「ま、待ってよぉ、夏帆・・・!」
〇田舎の学校
憂鬱なわたしの気持ちを後押しするように、雨が降り始めた。
体育教師「おまえら、体育館に移動するぞー! 残った奴らのタイム計測は次回だ!」
そのとき、海斗と目が合いそうになった。
思わず、さっと目を逸らしてしまう。
南 夏帆(昔はこうじゃなかったのに・・・)
〇川沿いの道
帰る頃には、雨はさらに強くなっていた。
南 夏帆「はあ・・・・・・」
南 夏帆「・・・・・・!」
すれ違うバイクのタイヤが跳ね上げた水が、わたしに──
かからなかった。
誰かがわたしの腕を強く引いたからだ。
桐生 海斗「・・・・・・夏帆」
南 夏帆「・・・!」
南 夏帆「・・・・・・ありがとう」
桐生 海斗「・・・・・・ああ」
南 夏帆「・・・・・・」
桐生 海斗「・・・・・・」
南 夏帆「・・・あの・・・手 ・・・・・・握ったままなんだけど」
桐生 海斗「あ! わり・・・」
海斗がわたしの手を放す。
・・・その慌てふためいた様子に、わたしは思わず笑ってしまった。
なんだか、意地を張っていたのがバカみたいだ。
南 夏帆「今まで、ごめん・・・ ・・・・・・海斗」
久々にその名前を呼んだせいか、妙に頬が熱い。
南 夏帆「・・・海斗に置いていかれるのが嫌だったの」
桐生 海斗「俺が? 夏帆を? なんで?」
南 夏帆「だって!」
南 夏帆「昔はわたしのほうが足も速かったし、背だって大きかったし・・・」
南 夏帆「いつもわたしのほうが先にいたのに・・・」
南 夏帆「わたしも海斗もどんどん変わっていって・・・」
南 夏帆「だから・・・」
ぱしゃん、と、水たまりが跳ねる。
南 夏帆「置いていかれるぐらいなら、自分から離れちゃおうって・・・思ってた」
桐生 海斗「変わってないよ」
南 夏帆「えっ?」
桐生 海斗「意地っ張りなとこも、負けず嫌いなとこも」
桐生 海斗「怖がってる姿を見せたくなくて強がるとこも・・・ ・・・変わってない」
その言葉で、わたしはようやく気がついた。
南 夏帆「わたし、怖かったんだ・・・」
南 夏帆「自分のことなのに今さら気づくなんて、バカみたいだね」
桐生 海斗「俺は気づいてたぜ」
南 夏帆「えー、ほんとに?」
わたしは久々に声を上げて笑った。
桐生 海斗「・・・それに。 俺が夏帆を置いてくわけないだろ」
南 夏帆「どうして?」
桐生 海斗「鈍くさくて置いてかれてた俺を、夏帆は待っててくれただろ」
その言葉で、思い出す。
〇グラウンドの隅
夏帆「海斗、ほら、早く!」
海斗「夏帆・・・ごめんね ぼくのせいでいつも・・・」
泣き出しそうな海斗の手を取って、立ち上がらせる。
夏帆「なに言ってんの。 さ、行くよ!」
〇川沿いの道
南 夏帆「・・・・・・!」
そうだ、あのとき・・・
先に行こうとするわたしを海斗が追いすがったんじゃなくて・・・
桐生 海斗「これから俺たち、大人になって、変わっていくものもあるけど・・・」
桐生 海斗「でも、変わらないものもあるだろ?」
南 夏帆「・・・そうだね」
置いて行かれるとか、行かれないとか。
そういうことじゃなかったんだ。
桐生 海斗「俺の気持ちも・・・ あのときから、変わってないぜ」
南 夏帆「・・・え?」
それって、どういう意味?
そう聞き返そうとした、そのとき──
〇川沿いの道
雨が止んで、雲の切れ間から日射しが差し込んだ。
南 夏帆「あ・・・」
桐生 海斗「虹だ」
空の端に、うっすらと虹が架かっている。
桐生 海斗「よーし、夏帆! 家まで競争しようぜ!」
南 夏帆「・・・うん! 負けないからね!」
笑い合ったあと、わたしたちは駆け出した。
木の葉から雫が落ちて、世界がキラキラ輝いて見えた。
幼馴染への恋心と、距離感に悩む様子、見ていて胸に刺さるシチュエーションですね!夏帆の一挙一動にキュンキュンしてしまいました!
幼なじみへの思いが恋心になるの大好きです。
無理しない程度に、少しずつ二人の距離が近づいていって…なんだかキュンキュンしますね!
ラストシーンはすごく爽やかでした。
大好きな幼馴染との関係の葛藤がとても美しく描けていると思いました。彼女は思い悩んでいたけど、その関係性の変化こそが二人の成長なんだと思います。こんな風に打ち解けれる同士って素敵ですね。